オジサマたち、ご一読いただきたい。
私たち女性は、あなた方がポロッと吐く言葉を、にこやかな笑顔と共に笑い流していますが、内心こう感じているんですよ、ということを。
まさか、公の場で「は?」「その一言が余計なんだよ」とは言えない。
いちいち反応してみたところで、「これだから女は困る」とか、「だから女性との会話は難しい」とか、さらなる駄言を浴びて、面倒そう。余計に疲れそう。
だから言わない。だから言えない。
そんな、相手の心をくじく無神経な一言と、それを言われた人の気持ちを集めた辞典。
「それは失礼ですよ」と言いたくても言えずに吹き溜まりのように溜まった感情の辞典。
「早く絶版になってほしい #駄言辞典」(日経xwoman 編、日経BP社、2021年6月初版)
駄言とは
本書は、日本経済新聞社と日経BP社が日本社会の多様性を阻むステレオタイプを撲滅するために、日経ウーマンエンパワーメントプロジェクトの一環として企画・出版された本です。
2020年11月、日本経済新聞は紙面で、ある呼びかけをしました。
心を打つ「名言」があるように、
心をくじく「駄言」(だげん)もある。
「#駄言辞典」を付けて、駄言にまつわる
エピソードをつぶやいてください。
まとめたものは、絶版を目指して出版します。(p.7、まえがき)
改めて、駄言とは。
【駄言・だげん】とは
「女はビジネスに向かない」のような思い込みによる発言。
特に性別に基づくものが多い。
相手の能力や個性を考えないステレオタイプな発言だが、言った当人には悪気がないことも多い。(p.5)
企画が素晴らしい本だな、と思います。
言われてムッとしたということを表現する場所が、私たちにはなかなかない。
下手をするとムッとした感情を出した方が悪者扱いされてしまうこともある。
SNSなんぞで呟こうものなら、逆襲に遭うかもしれない。
でも、この辞典には、きっと誰もが一度は言われて心を挫かれたことがある言葉が入っているのではないかなと思います。
こういう企画があることで、「自分もこんな経験があった」「これは本当は嫌だった」と言いやすくなる。
そして、それは何も、女性に限らない。
男性も嫌なことを言われた経験を持っている。
また、女性に駄言を言うのは男性、男性に言うのは女性、とも限らない。
同性の中での蔑み、非難めいた言葉もたくさんある。
親や親戚、近所のオバチャンから来る言葉もある。
みんないろんな痛みを持っている。
駄言の例
駄言に加えて、その後ろについている心の声も一緒に読むと面白いです。
本書の中から、私も言われたなー、そういう目で見られたなーというものをピックしてみました。
「そんなに勉強ばかりしていたら、自分より学歴/収入の高い人としか結婚できなくなるよ」
呪いの言葉に溢れる故郷だった。#モドラネーゼ 上等(ツイッターより)(p.24)
「男を立てろ」
女に立たせてもらわないと立てないのか笑。(ツイッターより)(p.33)
「女のくせに生意気な」
これって普段から女は格下と思ってるから出る言葉。(ツイッターより)(p.39)
「化粧もっとちゃんとしてきたら?」
面接のオッサンに言われた。(ツイッターより)(p.47)
「女の子いたら先方も喜ぶから」(ツイッターより)(p.53)
「やっぱり総合職の女子より一般職のほうがいいよな」
男性社員の発言。(ツイッターより)(p.69)
「この子は女の子だけど仕事が好きですよ」
なんで逆説?(ツイッターより)(p.95)
私は子どもがいないですが、自分が小さい頃、母と一緒にいる時に言われて、なんでそんなこと言うんだ?と思った言葉がこれ。多分、どこかのオバチャンが言ったんだろうと思いますが。
「あら、ひとりっ子なんてかわいそうね」(ツイッターより)(p.149)
最初からひとりでいいと思う親もいるし、ひとりしか授からない家もあるし、ひとりしか育てられない家庭もある。本当に余計なお世話と思います。
言葉の魔力
駄言の例の中には、「そうか、これって駄言って思ってよかったんだ」というものもありました。
それくらい、言われた当人も、自分の中の違和感を無視して、「それはそういうものだ」と諦めたり、思い込んだりしているのだと思います。
直接これらの言葉を言われていなかったとしても、メディアでそういうものを見たりして、影響を受けているものもありそうです。
それが無自覚のうちに積もり積もって、自分の行動や選択や意思決定において、何かを制御してきたこともあるのかもしれない、と、本書を読んで気づかされました。
言葉には力があります。
私たちがどのような言葉を受け取り、発するかは、私たちの人生の質に大きな影響を与えます。
この辺りは、私のバイブルの1冊「四つの約束」をぜひ読んでみてください。
言い手の気持ちと、受け手の気持ち
本書を読んでいると、自分が「言われた」経験が蘇ると思いますが、自分もこう「言っていた」「言っている」という例も見つかるのではないかと思います。
また、本書はジェンダーの話が中心になっていますが、もっと世界を広く捉えた時には、私たちは自覚ないままに、頻繁に相手を傷つけているのかもしれません。
例えば、「女性は気が利くからね」(p.83)、「さすが主婦感覚!」(同)という言葉。
話し手は、褒め言葉としてこう言ったのかもしれない、とも想像できます。
実際、これを言われて、嬉しい人や、特に気にならない人もいることも想像できます。
ただ、これを駄言としてとらえる人もいる。
大切なのは、「相手が自分の言葉をどう受け取るかわからない」ということに意識的でいることなのではないかと思います。
自分にも自分の考えがある。
それを言葉にしてみる自由もある。
けれども、それを相手は違うように受け取るかもしれない。
だから、「それは不愉快です」と言われれば、「そうだったのね。ごめんなさい。そういう感じ取り方を今回知ることができました。」と謝るほかない。
「そんなつもりで言ってない」「この言葉で傷つく方がおかしい」という立場から応戦すると泥沼になりそうです。
受け手である時も、これは同じで。
自分には自分の考えがある。
自分の価値観で生きる自由がある。
けれども、相手も相手の価値観で生きている。
だから、「その言い方は傷つくよ」というところまでが伝われば十分で。
「なぜ傷つくのか」「なぜこの言葉に傷ついても当然なのか」「その言葉をお前の辞書から消すまで許さない」という自分の正しさまでを相手に納得させようとすると、これもまた泥沼になりそうです。
「どうしてわかってくれないの?」と思うときは、非暴力コミュニケーション(NVC)をぜひ学んでください。
まずは知ること、知見を広げるところから
こんなふうに、いろんな声が聞こえてくるようになったのは、「個」の大切さが尊重され、さらにネットやSNSのおかげで「個」が表現しやすくなった結果とも言えます。
だからそろそろ社会は次のステージを目指すときかもしれません。
それぞれ異なる価値観を持つ「個」がしっかりある人々が、どう共存して生きていくか。
現代は、人類総出で、多様性との共存を実験している最中なのではないかと感じています。
不必要に憎み合ったり傷つけあったりすることなく、共存できる術が、きっとあると信じたいです。
そのためには、まずは、世の中を知り、いろんな意見を聞いてみるところから。
巻末のインタビューがどれも素晴らしく、私たちが新しい社会を創っていくために必要なことを気づかせてくれます。
ぜひ、最後まで、読んでみてください。
なぜ「駄言」が生まれるか(p.203-298)
・スプツニ子!(アーティスト/東京藝術大学デザイン科准教授)
・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
・及川美紀(ポーラ社長)
・杉山文野(NPO法人東京レインボープライド共同代表理事)
・野田聖子(自由民主党 幹事長代行)
・青野慶久(サイボウズ社長)
本書が、早く「昔の日本を知る本」となっていきますように。
ポッドキャスト「独立後のリアル」でも、この本を入り口に、フリーランスが浴びがちな駄言を話してみました。合わせてお楽しみください。
独立後のリアル
Ep. 185 駄言辞典「フリーランスはローン組めないから大変ね」
番組へのお便りや感想はこちらからお待ちしております。
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