若手を部下に持つ方々におすすめの本。
「茶番のような1 on 1はうんざりだ」と思っていらっしゃる方には、それを終わりにするヒントが得られると思います。
「静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと」(金間大介 著、PHP研究所、2024年2月初版)
若者との 1on1の前に読む本
「退職代行サービス」なるものを、配信しているポッドキャスト番組(独立後のリアル)の相方から聞きました。
会社に退職の意向を伝えることから手続きまで代行してくれるのだとか。
すごい時代になったなぁと思いましたが、ニーズがあるからサービスもあるわけで。
従来のやり方と違うことに「けしからん」と憤る前に、若者がどんな思考なのか、どんな人間関係の中にいるのかを知ると、何らか、彼らとも関係を創っていくことができるかもしれません。
本書のコンセプトは「若者との1on1の前に読む本」(p.20)
大学で教えながら若者研究をしている著者が、徹底的に若者目線で書いた本書は、「会社の役に立つ人材」を「育成」しようという会社都合・目上の者都合の論調ではなく、私たち年長者・役職者の関わりを受けた彼らがどう感じるのか、ということを教えてくれます。
また、ご自身も学生と個別面談をする中で、何を聞いてもテンプレートのような答えしか返ってこない茶番のような1on1に納得できず、現場で試行錯誤していることも、上から目線の指南書ではなくリアルで共感しながら読めました。
実際に学生さんとのやりとりの様子も書かれていて場面が浮かびます。
私も、課長をしていた時代に、世代が違う人たちをどう巻き込んでいけばいいのかと苦労した経験があり、当時、こんな本があったらなぁと思いました。
今はフリーランスになり、部下を持つことはなくなりましたが、登壇するワークショップなどには若い参加者の方々も多く、
例えば、なかなか誰からも声が上がらない時には、彼らの中でもしかしたらこういうことが起きているのかも、と想像する参考になりました。
大勢の前では褒められたくない、"いい子症候群"
”若者”、”Z世代”などと、ひとくくりにするのは不適切と思いつつも、本書に出てくる「いい子症候群」は、最近よく出会うタイプの人たちの特徴をよく捉えて言語化してくださっているなと思います。
いい子症候群とは...
今の学生は、対大人向けのコミュニケーションの「テンプレート」を持っている(中略)
そしてそれは、目の前の大人への配慮であり、同時にその配慮は、目立つ世界へ引きずり込まれないための自己防衛なのだと悟った。
感じよく、そつなく、その場に適した返答をする。しかし、決して本音は明かさない。目立ちたくもないし、その他大勢の中に埋もれていたい......。僕はこれを、若者たちの「いい子症候群」と呼んでいる。(p.12, 学生との初めての1 on 1の経験から)
より具体的にはこんな感じ。
「いい子症候群の若者たち」の行動特性(その1)
- 素直でまじめ
- 一対一の受け答えはしっかりしている
- 一見さわやかで若者らしさがある
- 協調性がある
- 人の話をよく聞く
- 言われた仕事はきっちりこなす(p.224)
一見「素直でいい子」「まじめでいい子」。優秀であるような印象も受ける。
一方で、同時に、次のような行動特性も併せ持つ。
「いい子症候群の若者たち」の行動特性(その2)
- 自分の意見は言わない、質問もしない
- 絶対「先頭」には立たず、必ず誰かの後に続こうとする
- 学校や職場では横並びが基本
- 授業や会議では後方で気配を消し、集団と化す場を乱さないために演技する
- 悪い報告はギリギリまでしない(p.224-225)
なので、「素直でまじめ」なのにもかかわらず、「何を考えているのかわからない」「自らの意志を感じない」といった不可解な印象を与える。(p.225)
「いい子症候群の若者」と(昔からいる)「消極的な若者」の違いも、示唆に富むので引用させていただきます。
次の点は「いい子症候群」の大きな特徴なので、改めて強調しておきたい。
昔から消極的で主体性のない若者というのは存在した。彼らと「いい子症候群」とは何が違うのか。
それはキャラのわかりやすさだ。
かつての消極的な若者は「行動特性(その1)」のような振る舞いはあまりしなかった。一見しておとなしく、コミュ力が乏しいだろうことがすぐにわかった。
しかし今の「いい子症候群」は違う。一見、若者らしい前向きさがある。協調性があり、(表面的な)意欲も見せる。
年配者はこれに騙される。そしてこう言う。「今年の新人は優秀だ」。(p.225-226)
そして、今の若者の内側にある心理はこちら。
「いい子症候群の若者たち」の心理特性
- 目立ちたくない、100人のうちの1人でいたい。
- 変なことを言って浮いたらどうしようといつも考える
- 人前でほめられることが「圧」
- 横並びでいたい、差をつけないでほしい
- 自分で決めたくない(皆で決めたい)
- 自分に対する人の気持ちや感情が怖い
- 自分の能力に自信がない(p.226)
確かに、こういう人たちが増えている〜!と大きく首を縦にふってしまいました。
「あなたは大勢の前でほめられたいですか」という問いに対する回答結果は、YESとややYESが約4割、NOとややNOが約6割。
もし上司自身が、人前で褒められることを嬉しく誇らしく思う人だった場合、その価値観を当たり前のこととして「いい子症候群」の若者に接していたら、
若者は表面的な笑みを浮かべながらテンプレートで返しつつも、心理的にはだいぶ遠ざかっているのだろうと思います。
「唯一無二の量産型」
もう一つ、今時の「いい子症候群」をうまく表現していらっしゃると思ったのがこちら。
今の若者は、
みんな爽やかで、みんなコミュ力高め。
表面的に観測できる水準(レベル)は、明らかに上がっている。
良く言えば、人材としての質的向上だ。企業、特に人事部の人たちがこぞって「最近の若者はみんな優秀」という根拠がこれだ。(p.230)
けれども、それをもう少し注意深く見てみると、、、
悪く言えば、量産化が進行している。量産化といっても、いわゆる雑魚キャラではない。
「あなたは他の誰でもない、唯一無二の存在ですよ」「あなたの経験や体験は、あなただけではなく、この国にとっても貴重なものなのですよ」と、ちゃんと教えられてきた世代だ。ここが重要なポイントだと思うので、しっかり主張しておきたい。
僕のこれまでの見立てでは、現在の若者の多くは「量産型」であり「唯一無二の存在」だ。矛盾する2つの概念を組み合わせて生きるのは、今の若者のお家芸だ。
周りと同じではいけない、個としての貴重な体験こそが君を唯一無二の存在にする、と教わり続け、事実、就職活動でも「隣の人と君との違いは何か」、「隣の人ではなく君を採用する理由は何か」を問われ続ける。
それでもなお、他人と違う自分に自信が持てない。平均値付近にいることの安心感、安定感は手放せない。
その矛盾を内包するように得たスタイルが「量産型」兼「唯一無二の存在」だ。唯一無二の存在というラベルを貼った量産型と言うべきか。今の若者は、とても難しい役割を演じている。(p.230-231)
大変だなぁと思いつつ、この先の日本がちょっと心配になりつつ、でもそういう彼らを作ってきたのは今の教育であり、今の大人である、とも思いつつ。
上司や先輩が何よりも優先して鍛えるべきスキル
本書で私が好きなところは、どうやって若者のモチベーションを上げるか?、のような手法論になっていないところ。
「人の気持ちを誘導する」のは傲慢(p.301)
とまで言ってくれていて、気持ちが良いです。
脱線しますが、私は「部下のやる気を引き出すために部下をコーチングする」というふうにコーチングが使われるのも嫌いです。
引き出すんじゃなくて、みんなのやる気が湧いてくるように、あなた(上司)自身の在り方について、あなた自身がコーチングを受けてみて、と思います。
では、上司は何を磨くべきか。
著者の提案は、「フィードバック力」。
これ、本当に大事。
と同時に、良質のフィードバックを提供するのは、本当に容易ではありません。
私もこの力をつけていきたいと、日々、試行錯誤を繰り返しています。
本書では、フィードバックのコツも少し紹介されていたり、また終章では、以下のような上司や先輩への提案がなされています。
上司・先輩世代へ向けた5個の提案
提案①:「傾聴」のススメと3つのポイント(1. 興味を持って楽しむこと、2. 共感すること、3. なるべく素でいること)
提案②:時には熱い想いや努力の必要性を語ってみよう
提案③:これまでの非合理を見直す姿勢と勇気を
提案④:「泥臭く前に進む姿」を見せよう
提案⑤:「ちゃんとした上司」をやめよう
(終章p.295-332より)
興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。
きっと著者からのエールも感じられると思います。
傾聴力、フィードバック力、コーチング力を磨いてみたいと思う時は、 CTI JAPAN のトレーニングにも、どうぞお越しください。
「退職代行サービス」については、ポッドキャストでも話しました。
「逃げていい時、逃げちゃいけない時」(独立後のリアル* Ep.215)
*「独立後のリアル」 は人生本気で変えたい人のコーチをしてきた2人が、これからの時代を賢く面白く生きるヒントを愉快に無責任に話すポッドキャスト番組です。毎週金曜21時、Spotify、Apple Podcast、Amazon Music, Audibleで無料配信。
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本書に出てくる本。また読みたい本が増えてしまう。
なお、Z世代を知ろうとする時、こちらの本、おすすめです。
しばらく前に読んだまま、読書録がまだ書けないままですが。