ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

LEAN IN(リーン・イン)女性、仕事、リーダーへの意欲

すべての女性におすすめしたい本。

そして、その女性たちの周りにいる男性たちにも読んでほしい本。

LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲」(シェリル・サンドバーグ 著、日経新聞出版、2013年初版)

 

LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 (日本経済新聞出版)

 

初版から10年。今が読みドキ。

LEAN INとは、「一歩踏み出せ」というメッセージ。

私が本書に出会ったのは、徐々に増えつつあるとはいえまだ少数派だった女性総合職の一人として働いていた頃。

これほどまでに「わかる〜!」と頷いたり、唸ったりした本は、それまでなかったと思います。胸がチクチク痛むところもありました。

応援のメッセージも受け取りました。

今読んでも、頭から終わりまで共感しどおしの1冊です。

久しぶりに再読して以前よりも刺さってくるのは、自分ごととしてだけではなく、社会全体の構造的なこととして、より共感できる自分になってきているからかもしれません。

これは、私だけの話じゃなくて、社会の話なんだ、と。

私は日頃、コーチングという仕事を通じて、多くの女性たちの人生やキャリアのお話を聴き、彼女たちの夢の実現や、彼女たちを縛るさまざまな囚われからの解放をお手伝いしています。

その中で語られていることや彼女たちが感じていることが、見事に言語化されています。

しかも、データとともに。日本語訳版出版に合わせてということだと思いますが、アメリカのデータに加えて日本のデータも記載されています。


今、女性を勇気づける本は沢山出ていますが、そのムーブメントに火をつけた一つは本書だったと言えるのではないかと思います。

本書の初版は、2013年。ちょうど10年前。

数年遅れて読んだ当時、私はとても共感したけれど、まだ多くの人に進めようとは思えなかった。一部の人しか共感できないのではないかと思ってしまっていました。

それから日本も変わりました。トップや役員になる女性も以前よりは増え、男性も家事や育児に関わることが「普通ではない」という感覚は薄れています。

欧米のものが日本で浸透するのは、10年くらいのタイムラグがある感じがします。

リンダ・グラットン教授の本も、WORK SHIFT(2012年初版)の時には時代の先をゆく人たちに共感されていましたが、日本全国を席巻するように売れたのはLIFE SHIFT(2016年初版)、そのライフシフトについて週刊東洋経済が再度特集したのは2022年の1月号(ライフシフト超入門)。

本書も、10年たった今、より多くの女性、男性、組織の力になると思います。

 

シェリルが本書を書いてくれた意義

本書の著者・シェリルは、経歴という観点ではこんな人。

ハーバード大学卒、最初の就職先はワシントンの世界銀行。ラリー・サマーズ(後の財務長官)がチーフエコノミストをしていた時代にリサーチ・アシスタントとして働く。その後、ボストンに戻り、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)でMBAを修め、卒業後はロサンゼルスのマッキンゼーに就職、1年後には再びワシントンに戻り、財務省で財務副長官となっていたラリーの下で特別補佐官を務め、ラリーが財務長官になると、首席補佐官に。クリントン政権が終わって職を失った時には、就職先の当てもない状態でシリコンバレーに行ってみる。貯金も減らしながら1年の職探しを経て、まだスタートアップ時代のグーグルに参画。グーグルが育った後に、フェイスブックに移りCOOに就任。

あまりにすごすぎる。能力の高さに加え、リスクをとる勇気があり、幸運にも恵まれている。

このことから、本書に対する批判もあったようです。

本書でいうようなことができるのは、あなたが特別だからでしょ、と。


私としては、彼女が書いたことに意味があると思います。

書くこと自体は他の人でもできたかもしれないけれど、ここまで注目を集めることはできず、また、否定的な声にかき消されてしまったかもしれません。

林真理子さんが、ご著書の中で、「女性が思ったことを何でも口に出来る、という立場になるには、①年齢、②地位、③お金、④地位の高い夫のいずれかを手に入れなくてはならない。」(「運命はこうして変えなさい 賢女の極意120」より)と書いていらしたのですが、まさに、です。

多くの方々は、もう自分が当事者ではない立場や年齢になってから社会的な問題について言及しますが、それではちょっと遅くて、リアルさが失われる。

若くして②と③を手にしている(そして④も)シェリルだからこそ、今、リアルタイムで生きる女性たちを、現場から応援する本書に仕上がっていると思います。


本書の謝辞は9ページ、データや資料の引用を紹介する脚注は50ページに渡ります。

これを世に出すために注がれたエネルギーの量が伝わってくるかのようです。

前に出ているのはシェリルだけれども、いろんな女性や男性の思いを背負って代弁している本。そんな風に感じました。


中身で印象的なのは、これほど有能で恵まれた人も、こんなにいろんな葛藤を抱えていたのか、ということ。現在進行形の悩みもあります。

「できる女は男からも女からも嫌われる」という現実、良い成績や成果を上げてもそこはかとなく残る自信のなさ、「女は優しくあるべき」などのバイアスへの葛藤、仕事を休みたくないけれど子どもとももっと一緒に過ごしたいという葛藤など。

「え、この方はこんなことを気にしているの?(いたの?)」というものも沢山あります。

でも、それが、リアルだっていうことなんだと思います。

彼女でそうなのであれば、私たちがもっとアタフタするのは、もう当然のこと。

 

日本よりはずっと女性が社会でアクティブであるという印象だったアメリカでも、日本とさほど変わらないんだ、ということは、ある意味衝撃でした。

働き方や女性の在り方については、アメリカよりもヨーロッパの方が参考になるのかもしれません。

 

「女性同士のジェンダー戦争」という不都合な真実

本書は、女性自身が直視しがたい現実にも向き合わせてくれます。

その一つは、女性が、女性を応援しないという状況が起きている、ということ。

男性は女性を支えなければならないし、これを言わずに済めばどんなにいいかと思うのだが、しかし、女性も女性を支えなければならない。スタンフォード大学のデボラ・グルーエンフェルド教授は「私たちはお互いの味方になり、手を携え、一つの共同体として行動することが必要だ。一人ひとりの力は弱くとも、力を合わせることで、私たちは人口の半分を占める性として真の力をもつことができる」と語る。あたりまえのことのように聞こえるかもしれないが、女性はこれまでつねに共同戦線を張っていたとは言えない。いや、実際には逆のことをしていたという残念な例は少なくない。(p.223)

とりわけジェンダー問題に絡む女性の言動は、同性から賛同を得られない傾向が強い。マリッサ*の産休に関する非難をしたのも、ほとんどが女性だった。同じようなことは私も経験している。世間は揉め事に興味津々で、とりわけ女性同士の喧嘩は大好きである。メディアは女性が他の女性を攻撃すると嬉々として報道し、はやし立て、問題の本質から逸脱してしまう。「彼女はこう言った」「彼女はああ言った」という話題に堕してしまったら、もう私たちはみな敗者なのである。(p.226)

*マリッサ・メイヤー。妊娠後期に入っている状態でヤフーCEOに指名され、フェミニストから歓迎されたが、本人の意思で産休は2〜3週間とし、その間もずっと働くと宣言した途端にフェミニストからの賞賛も途絶えた。(p.224)

 

女性が共同戦線を張れていない理由も、解き明かそうとしてくれています。

一つは、女性が女性についてのジェンダー・バイアスを持っていること。しかもそれに無自覚なこと。

 女性が女性の足を引っ張るなど、考えただけでも胸が痛む。(中略)女性のこうした行為は、単に相手を苦しめるだけでは済まない。女性に対する女性の辛辣な評価は客観的とみなされ、男性による評価より信用できるとみなされがちである。言い換えれば、女性によるジェンダー・バイアスは正当なものとみなされる傾向がある。女性が女性に対してバイアスをもっているはずがない、というわけだ。だが、そうとは限らない。女性は、多くの場合そうと気づかないまま、女性を蔑視する風潮を自分の中に取り込み、無意識に態度に表している。だから、女性は性差別の犠牲者であると同時に、加害者にもなり得る。(p.228)

 

そして、もう一つが、選択肢が多い女性の人生において、自分が正しい選択をしていると思いたい気持ち。それを認めてもらいたい気持ち。

カリフォルニア大学ヘイスティングス法科大学院の法学教授ジョーン・ウィリアムズは、これを「ジェンダー戦争」と呼ぶ。この戦争はあちこちで展開されているが、何かと注目を集めているのは母親戦争だろう。つまり、「家の外で働く母親」対「家の中で働く母親」の戦争である。ウィリアムズ教授が指摘するとおり、「それぞれに対する社会的期待が真っ向から対立するため、集団のアイデンティティをかけた戦いになりやすく、この戦争は泥沼化する。職場では、必要なときにいつでも仕事上の要求に応じられる人間が理想とされ、家庭では、子供が必要とするときにいつでも応じられるのがよい母親だとされる。働く女性が職場の理想に忠実であろうとすれば、自分が家にいなくても子供はとびきりいい子でちゃんと育っているのだと示さなければならない。理想の労働者であることを断念し、仕事を完全に辞めるか出世をあきらめるなら、それが家族のために必要だしいいことでもあると示さなければならない。いずれにせよ理想に届かずジレンマに悩みながら暮らしているので、つい相手のあら探しをすることになる」
 ウィリアムズ教授は正しい。複数の選択肢が存在する場合、全員が同じ選択をすることはまずない。しかし機会コスト(Aを選んでBを捨てた場合、Bから得られたはずの利益)は必ず存在するのだから、自分の選択に完全に満足している女性はおそらくいないだろう。少なくとも私は知らない。その結果、自分とはちがう選択をした人に、不用意に過剰反応することになりやすい。罪悪感と自信のなさから自分の決断に疑いを抱き、ちがう道を選んだ人に不合理な怒りを覚えてしまう。(p.231-232)

 自分の選択に心安らかでいたい、周囲からも認めてもらいたい、と誰もが思っている。だから、いますぐお互い認め合おう。家の外で働く母親は、家の中で働く母親も重要な仕事をしているのだと認めよう。家の中で働く母親は、家の外で働く母親の選択を尊重しよう。(p.234)

 

誰も、自分の選択に常に自信があるわけじゃない。

だからこそ、自分の正しさを証明しようとしてしまう。

 

さらに追加させていただくなら、「自分で主体的にこの選択をした」という意識がある場合には、相手を攻撃したり、自分を守ろうとする気持ちは幾分和らぐはずです。

実際には、「結婚したかったけれど、できなかった」「子どもが欲しかったけれど、できなかった」「結婚したくなかったけど、やむなくした」「望まないタイミングで子供を授かってしまった」「別れたいけど別れられない」など、いろんな事情とともに「自分で選んだわけじゃない」「こんなはずじゃなかった」という恨みや悲しみの気持ちを、誰もが抱えている。


女性たちが共同戦線を張っていこうとするならば、まずは、一人ひとりが自分の中にある痛みを癒すこと、自分で自分を認めること、そして、自分で選択するという力を取り戻していくことが大切だなと思います。

遠回りのように思えるけれど、こうして初めて、人とは違う道を選んだ自分を認め、自分とは異なる道を進んでいる人のこともリスペクトし、協力し合えるようになると思います。

 

コーチングセッションを通じて、これをお手伝いしているなぁと感じます。


セッションだけではなく、私もひとりの女性として働く女性を応援したいなと思い、イベントを企画しました。

ここみち書店が入居しているPASSAGEで行います。

平日の夜ですが、お子さんがいらっしゃる方もパートナーの協力を得て、ぜひお越しください。

 

【11/15(水)夜:ここみちサロン・プロコーチが女性管理職に伝えたいこと】

<こんな方に>
・女性の管理職の方
・管理職になりたい女性の方
・管理職を目指すかどうか迷っている女性の方 など

<日時等>
日 時:2023年11月15日(水)
            19:00      開場 
     19:15〜20:30  レクチャー、ミニワーク、対話
     20:30〜   懇親会(軽食あり)
場 所:PASSAGEbis!(神保町すずらん通り)
案内人:畑中景子(ここみち書店店主、CTI及び国際コーチング連盟認定プロコーチ)
定 員:12名(最少催行人数:6名)
料 金:3,500円(税込)
主 催:ここみち書店
詳細・お申込:https://peatix.com/event/3722744

 

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