ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

空は父 母は大地 インディアンからの伝言

素晴らしい絵本です。

昨年、穂高養生園の本棚で出会いました。

 

すべての人に読んでほしい。

特に、土地や地域の開発に関わる人、不動産業界の人、建築業界の人、行政に携わる人、そこに投資する人たちなど、土地や空間に関わる仕事をする人には、ぜひとも読んでほしい。

父は空 母は大地―インディアンからの伝言」(寮 美千子 訳、篠崎正喜 絵、ロクリン社、2016年2月初版)

 

父は空 母は大地―インディアンからの伝言

 

19世紀のアメリカ。

入植してきた白人たちが大陸の西へ西へと領土を拡大していった時代。

 

先住民たちの住む土地も構わず"開拓"し、たくさんの血も流れました。

 

1854年、アメリカの第14代大統領フランクリン・ピアスはインディアンたちの土地を買収し、居留地を与えると申し出ます。

「居留地を与える」といっても、その実質は、インディアンたちが住んでいた土地を奪って追い出す行為。

 

1855年、インディアンの酋長シアトルは、白人の要求に応じることとし、この条約に署名します。

 


これは、そのときシアトル酋長が大統領に宛てたスピーチ、あるいは手紙です。

(なお、ワシントン州のシアトル市の由来はこの酋長の名前。)

 

スピーチは、こんなふうにはじまっていきます。

ワシントンの大首長が 土地を買いたいといってきた。

どうしたら 空が買えるというのだろう?

そして 大地を。

わたしには わからない。

風の匂いや 水のきらめきを
あなたはいったい どうやって買おうというのだろう?


そして、先祖代々住みなれた豊かな土地を取りあげられ、不毛な居留地へと追いやられることになった痛みと悲しみ、大地への愛情と惜別の念を込めた言葉が綴られていきます。

その言葉は、混じり気がなく、真っ直ぐで、美しい。

抜粋する場所が選べないほど、すべての言葉に胸を打たれます。

 

すべて この地上にあるものは
わたしたちにとって 神聖なもの。
松の葉の いっぽん いっぽん
岸辺の砂の ひとつぶ ひとつぶ
深い森を満たす霧や 
草原になびく草の葉
葉かげで羽音をたてる 虫の一匹一匹にいたるまで
すべては 
わたしたちの遠い記憶のなかで
神聖に輝くもの。

 

空気も川も、動物も植物も、私たちの先祖も、すべて大地に育まれ、

またそれら全ては、大地のことも豊かにする。

 

あらゆるものが つながっている。
わたしたちが この命の織り物を織ったのではない。
わたしたちは そのなかの 一本の糸にすぎないのだ。

 

けれども、「白い人」たちは、土地を売り買いし、大地を貪り尽くし、動植物を殺し、「赤い人」(インディアン)を追い出す。

一体なぜそのようなことをするのか。

 

わたしには あなたがたの望むものが わからない。

 

土地を奪われる恨みやで罵る代わりに、大地への願いが何度も綴られます。

 

生まれたばかりの赤ん坊が
母親の胸の鼓動を したうように
わたしたちは この大地をしたっている。
もし わたしたちが 
どうしても 
ここを立ち去らなければ ならないのだとしたら
どうか 白い人よ
わたしたちが 大切にしたように
この大地を 大切にしてほしい。
美しい大地の思い出を 
受けとったときのままの姿で 
心に 刻みつけておいてほしい。
そして あなたの子どもの 
そのまた 子どもたちのために
この大地を守りつづけ
わたしたちが愛したように 愛してほしい。
いつまでも。

どうか いつまでも。

 

現代の私たちにもまっすぐ届いてきます。

 

本書のあとがきにも書いてあるのですが、実は、全文は訳者の方のウェブサイトに掲載されています。

ryomichico.net

 

英語の原文も、ウェブ上でも見られます。

例えば、こちら。

Chief Seattle’s Letter  (Chief Seattle’s Speechとなっているものもあります)

www.csun.edu

 

ただ、本書の絵が本当に素晴らしく、言葉がともに創り出す世界観から感じられるものがあるので、ぜひとも本も手に取っていただきたいです。

私はカナダで見た景色をありありと思い出しました。

 

当時も今も、身近な世界も国際社会も、起きている争いの多くは、「所有」や「権利」をめぐるもののように感じます。

探求してみたいテーマです。

 

私たちは、本来は、何も所有する存在ではない。

排他的な権利を主張できる存在ではない。

たまたま今の時代にこの場所に生を受け、寿命が尽きるまでの間、住まわせてもらっているだけの存在。

大地や川や空気には、本来は、国境すらもない。

 

それを思い出せば、私たちは、もう少し寛容に、優しくなることができるのではないだろうか。

そんなふうに思います。

 

この本にある言葉が、ずっとずっと語り継がれていきますように。

 

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