ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる

先日、フィガロ・ジャポンさんのオンライン・イベントにて一緒に鼎談させて頂いた浜田敬子さんのご著書。

初めてお会いするのに先立ち、本を読ませて頂きました。

男性の方にも読んでもらいたいけど、まずは、特に、日本の大企業で頑張って働いている/働いてきた女性総合職におすすめしたい本。

働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる」(浜田敬子氏 著、単行本は2018年発行、文庫本は2022年2月初版、集英社文庫)

 

働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる (集英社文庫)

 

著者の浜田さんは、女性初のAERA編集長を務められ、ビジネスインサイダーの統括編集長も務められた方。ご結婚されていて、お子さんもいらっしゃいます。

本書は、そのキャリアが綴られている本です。

これは、あるたった一人の均等法世代の体験記だ。百人入れば百通りの働き方があり、それぞれの想いがあるだろう。それでもバブルが崩壊して、日本が失われた時代に突入する頃、結婚退社がまだ当たり前だった頃、女性が働くということがまだ当たり前でなかった頃、どんな想いで同世代の女性たちが働いてきたのか、そのことに少しでも想いを馳せてもらえたらなと思う。(p.247)


まさに、そんな本です。

私は、浜田さんよりは下の世代で、子どもはいないですが、多くの箇所で共感し、ところどころ「これは私の話だろうか?」と思うこともありました。

内容も面白いですが、さすがはジャーナリストのお方、文章もキレキレで読ませる&読みやすいです。

また、この類の人生ストーリーは、そこが一番聞きたいよ、というところがあまり書かれていなかったり、きれいに描かれすぎたり、ということが起きがちですが、
本書は、そう、そこが聞きたい、というところまで書かれていて、読み応えがありました。

ところどころに入っているご自身のジャーナリズム哲学や編集哲学、ビジネス哲学なども、面白く、また勉強にもなります。

女性の生き方・働き方が何かと話題になるこのご時世。

女性が自由になっていく一つの道は、女性が自らいろんな女性の存在を知ることだと思います。

本書も、その一つの事例となると思います。

以下、読後の感想です。

均等法世代の先輩方への感謝とリスペクト

男女雇用機会均等法が制定されたのが1985年、86年に施行。
企業の女性総合職採用が始まったのが1987年。

私は2001年に女性総合職として政府系金融機関に就職しましたが、幸いなことに、「女性だから」ということで過小評価されたりすることはなく、自分が女性であることをあまり意識しないで仕事をしてくることができました。

これは、ひとつには私が受けてきた家庭や学校の教育の中で「女なんだからそれはやめておけ」ということがなかったという幸運に恵まれていたことが一つ、

それに加え、均等法世代から始まる女性の先輩方がその道を作ってきてくださったからだと思っていて、本当に感謝しています。

自分の勤務先だけではなく、世の中全般に、先輩方がしっかりと仕事をしてきてくださったから、「女は仕事ができない」とか、そんな悪評が起きることもなく、むしろ「女性はしっかりしてる」という前評判のもとで機会を頂けてきました。

一方、本書を読むと、その裏で、「これだから女は使えない」と言われないように、男性と同じように、あるいはそれ以上に、頑張ってきた均等法世代の女性像が浮かび上がります。

体力的にそんな限界を迎える前に身を引いた人もいるし、人によっては、結婚を諦めたり、出産を諦めたりした人もいる。

そこには、たくさんの痛みがあっただろうと思います。

そこでハマってしまいがちな一つの罠は、自分が大変な時期を乗り越えた後、次の世代に無関心になってしまうこと。

そしてもう一つは、「私もこれだけ苦労したんだから」と、次の世代にも同じだけの努力を求めてしまうこと。

浜田さんの本を読んで素晴らしいなと思ったのは、この罠にかかることなく、
自分たちの時代のことは置いておいて、「これからの人たちが働きやすくなるには」と、考えを巡らして、今と未来のために動いていらしたところ。

これは実はそう簡単なことではないと思います。

「私がした苦労はもうしなくていいように」とデコボコ道を整備してあげられれば、後に続く人は、もっとラクに今自分がいるところまで来れるかもしれない。

けれども、先輩方も、他の働き方を知らない。他の仕事観を知らない。

その国の住人になってしまったら、デコボコ道は当たり前のもので、整備するという選択肢を思いつかなくなってしまいます。


また、別の観点では、自分が苦労して得たものを、人がラクして得るのは、なんだか癪に障るのも、また人間。

自分たちの時代には、制度は整っていなかった。
ロールモデルなんかいなかった。
助けてくれる人はいなかった。

私だって、今の20代・30代前半の人たちを見ると、働き方や男女のパートナーシップのあり方など、ずっと自由で、社会も寛容で、とても羨ましいです。


そういう自分自身の体験や気持ちが癒されないでいると、なかなか人には寛大になれません。

だから、次の世代に寛容になるためにも、人は、自分を癒し、まず自分自身が今を楽しんで思い切り生きることが必要だと、私は思っています。

他人を満たす前に、まずは自分から。飛行機の酸素マスクと一緒。

周りを見回しても、だいたい、後輩に寛容な人たちは、誰よりも自分たちが思い切り仕事したり、好きなことを楽しんでいる方々です。浜田さんもまさに。

 

万人を生きづらくさせる「罪悪感」

本書のタイトルにもなっている「罪悪感」はコーチングでもよく登場するテーマです。

実際には、これをテーマとして自覚されている方は少なくて、よく聴いていくと、ああ、そこに罪悪感があるのですね、と、ご自身も私も気づくことになります。

・もっと子どもの面倒を見るべきなのに・・・
・もっと親の世話をすべきなのに・・・
・もっとご近所付き合いにも顔を出すべきなのに・・・
・もっと仕事に全力投球すべきなのに・・・

人を生きづらくさせるところには必ず罪悪感があると言っても過言ではないかもしれない。

日本人は、とりわけこの「〜べき」が強い国民とも感じます。


子どもがいない私は、けっこう長い間「子どもを産むべきなのに」という罪悪感を抱えていたと思います。

かといって、「絶対に子どもをつくるんだ」という強い決意で出産を目的として婚活をしたり、「誰でもいい」と結婚したりするのも、私には違うと感じ、同時に、そういう決意を持てない自分にもまた罪悪感を抱いたりもしました。


罪悪感を抱えていると、今、目の前のことを楽しむことができなくなります。

そうすると、何をしていても満たされない。

かといって、その「べき」の行動を「べき」と思ってやってもさほど楽しくもないし、楽しくやらないから成果も出ない。


もし罪悪感を抱えているものがあるなら、それは、コーチやカウンセラーと一緒に紐解いてみる、とても良い材料です。


そこから解き放たれたとき、しがらみから解放されて楽になることもあれば、
これはご自分でも驚くでしょうが、「べき」と思っていたものを、心から楽しめるようになることもあります。


本書のサブタイトル「「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる」には、本当に共感します。

 

ダイバーシティの本当の価値

昨今、「女性の働き方」にフォーカスが当たることが多いですが、これは要はダイバーシティの話だと思います。

その本質は、女性か男性か、という話ではなく、本来は全ての人が違うので、全ての人についての話でもあります。

このダイバーシティについて、これ以上同意できないと思うくらいに書いてくださっていたので引用させて頂きます。

 昨今日本ではダイバーシティの必要性が叫ばれているが、何のためにダイバーシティが必要なのか、その本質を考えている組織はどのぐらいあるのだろうか。
 (中略)
 長年続いてきた手法や社内慣習を、それまでのインナーの人間だけで変えるのは非常に難しい。そもそもそのあり方自体に疑問を持ちにくいし、持ったとしても言い出しにくい。前例や慣習を知らない、そこに染まっていない人間が入り、違和感を覚える。そこであえて空気を読まず口にすることで、初めて気づけることがある。それができるのは、それまで会社の主流にいなかった女性たちや若手、そして外国人や中途入社の社員など。要は「男村」の人間以外を入れるほど、異を唱えられる人間は増える。自分たちだけでは組織ややり方をアップデートできないからこそ、こうした”外来種”を入れることが必要なのに、今起きていることは、まずは女性活躍の号令に従わなければならないと女性管理職の数は増やしているものの、その女性たちに”インナーになれ”ということだ。そして、その圧力に負けて、いや、むしろ喜んでインナーになる女性たちがいることも事実だ。
 女性だったら、全て会社の方針やこれまでのやり方に反対しろ、と言っているわけでは決してない。でも、明らかに非効率、理不尽、不可思議な会社のルールや文化があるのなら、それに対して「NO」と言えるのは、これまで非主流だった女性や若手、外国人、中途入社組しかいないのだ。だからこそ、時に恨まれても煙たがられても、この役割を担うという覚悟が求められるのだと思う。そして、会社もそのために女性や若手を登用するのだ、という覚悟を持たなければ、ダイバーシティは単なる数合わせに終わってしまう。本来、女性管理職はどんどんん違和感を口にする、むしろ空気を読まずに、”正論”を言う役割を期待されるべきなのに、その違和感を口にすると、周囲から浮いてしまい、討ち死にしているケースをよく聞く。(p.118-119)

 

私も、よく討ち死にする方です。笑。

新人の頃、入社1ヶ月目で、「なんでこのやり方をしてるんですか?こうしたらもっと簡単になると思いますが。」と進言したら、上司に烈火の如く顔を真っ赤にして怒られて、心底びっくりしたのは、今となっては懐かしい昔話。

昔も今も、そういう「非主流」の立場なのかも。

上記の文章は、そんな自分に少しエールを頂いたような気持ちになりました。

 

浜田さんに教えて頂いたのですが、日本のジェンダーギャップ指数は、156カ国中120位(2021年)

経済面では世界第3位のこの国も、この観点ではまだまだ発展途上の国。


意識を変えるのは内面の話ですが、それ以前に、いろんな情報や事例を知らないと、意識が変わる必要性は感じられません。

これまで、日本の社会はどうだったのか、今はどうなのか、ということを知り、
当たり前と思ってきたものを疑う、そんなことを考えさせてくれる1冊です。

共感しながら読むもよし、「へぇーーー!」と驚きながら読むもよし。

 

「こんな時代もあったんだねぇ」と、これが完全に過去のことになる日が、もしかしたら著者の想いが叶う日なのかもしれません。

 

 

一緒に登壇させて頂いたフィガロ・ジャポンさんのイベントの記事はこちら。

鼎談をまとめた記事と、動画全部が収録されています:

madamefigaro.jp

 

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