INSEAD(フランスとシンガポールにキャンパスのあるビジネススクール)の先輩の著書です。
会社員時代に読み、当時、タイトルからして、ぐさっと刺さりました。
「自分の小さな「鳥カゴ」から飛び立ちなさい 京大キャリア教室で教えるこれからの働き方」(河合江理子氏著、2013年7月初版、ダイヤモンド社)
日本版「LEAN IN(リーン・イン)」とも言える本と思います。
著者の河合さんは、ものすごいハイキャリアを歩んできた方です。
東京の高校を卒業した後、奨学金に応募してハーバード大学に留学。帰国後、野村総合研究所在職中にMBA留学を企図し、資金を貯めるために国内で転職。晴れてINSEADに留学した後は、フランスに残り、戦略経営コンサル・マッキンゼー@パリに勤務、投資銀行・ウォーバーグ@ロンドンに転職、その後ポーランドで民営化事業に携わり、BIS(国際決済銀行)@スイスで国際公務員として勤務した後、パリに再び戻り、OECD(経済協力開発機構)にて年金基金の運用を担当。2012年から京都大学で教鞭を取り、2014年には京都大学大学院総合生存学館に移籍。現在は、さまざまな企業の社外取締役も務められています。
ご経歴にクラクラしてしまいますが、そのことを全く感じさせない気さくなお人柄で、一緒にいるととても楽しい方です。
とてもユニークだなと思うのが、このすごいキャリアのいずれもが(社外取締役を除いて)、ヘッドハンターから電話がくる、会社から誘われる、という形ではなく、すべて自分で探して、見つけて、応募して、チャンスを掴んでいらしている、というところ。
留学の決意や20代の頃のキャリアについてだけではなく、30代、40代、50代と年齢を重ねても、そのように行動していらっしゃることは、本当にすごいと思います。
動機やきっかけは都度様々で、「こんなところにいてはダメだな」というときもあれば、勤務先が突然なくなってしまうこともあり、またポーランドに行かれた時はご主人(河合美宏さん)の転職先がポーランドだったため、一緒に住むことと仕事を両方叶えようとして働き口をご自身で探されたとのことです。
自分で自分の道をつくっていくために、努力し、人にも助けを求め、怖れや不安に負けずに、挑戦してみる。
その考え方・生き方は、歩む道は違っても、とても刺激になります。
これから社会に出る高校生〜若手社会人の方にはキャリアに関する知恵、アラフォー以上で「鳥カゴ」に入ってしまっているかもしれない人たちには、刺激と勇気をもらう本になると思います。
中盤では、英語力やプレゼン力のつけ方などの具体的なスキルについての助言があり、また後半では、交渉力や信頼関係の構築など、現代のグローバル社会で生きて行くために必要な人間力についても書かれています。特に後半の部分は、私自身の留学経験や仕事上の経験を振り返っても、共感するところが多かったです。
自分の「鳥カゴ」をつくっているのは自分。本当は、出口はいつも開いている。
本書に出会う前から、会社員時代、自分が鳥カゴの中にいるようだなぁと感じることがありました。
仕事の中で不自由を感じることはさほどない。
組織の中では比較的自由にやらせてもらっていた。
だけど、それは鳥カゴの中にいるような感覚。
外も見える。そこにはもっと広い世界があるような気がする。
けれども、当てもなくそこに出て行く勇気もない。
売り物になるような、知識も経験も能力もない。
そんなふうに感じていた当時の私には、本書の言葉はとても刺さりました。
(前略)もし自分自身でつくりあげた「鳥カゴ」にとらわれて、そこには出口がないと思い込んでいるのだとしたら、それはとても大きな誤解をしています。
出口は目の前に用意されていて、扉のカギは常に開いています。
新しい環境への挑戦には不安がつきものです。年齢を重ねるにつれて躊躇が増していくことも理解できます。しかし、できない理由を考え出したらキリがありません。
どうして、あなたが持っている可能性に、自分自身で枠をはめ込んでしまう必要があるのでしょうか? 自分の力を信じて挑戦することができたとしたら、その可能性は無限大です。
狭く小さな鳥カゴでじっと座っているのか。それとも、そこから飛び出してはばたこうとするのか。
それを決められるのは、あなたしかいないのです。(はじめに、より)
そう。そうなんです。別に誰も止めてはいなかった。
止めていたのは自分。
「出る必要はない」と自分に言い聞かせていたのは自分。
人質になるな
著者がキャリアコーチから得た助言の一つが「人質になるな」。
人は、自分で作ったgolden cage(金の鳥カゴ)に入ると、そこから抜け出すことを恐れてしまい、人質のようになってしまう、と。
相対的に恵まれた環境にいて、失うものが大きくなるほど、そこから飛び出せなくなるという落とし穴があります。(p.32)
特に大企業で順調にキャリアを築いている方は、頷きたくなるところではないでしょうか。
著者ご自身も金の鳥カゴに入っていたこともあります。
その時の経験を、以下のように回顧されています。スイスのBIS(国際決済銀行)にお勤めで国際公務員というとても恵まれた立場にいらした頃のことです。
何より10年以上働いている50歳以上の職員に支払われる年金は破格でした。(中略)
毎年同じ仕事をつづけて、年齢だけを重ねていくことへの不安を感じながらももう1人の自分が「年金をもらえる50歳までは残ったほうがいい」とそれを打ち消す。決まりきった環境でしか働けないつまらない人間になってしまうのが怖くても、年金のシミュレーションがやめられませんでした。
このときの私は、まさに出口のない「鳥カゴ」を自分でつくり出していました。いや、出口がないと思い込み、飛び立てない理由を探していた、と言ったほうが正確かもしれません。
出口の鍵は常に開いていたにもかかわらず、です。(はじめに、より)
「人質」というと、誰かに捉えられているような言葉ですが、実際は、人は、「できない理由」「やらない理由」を自分で探して列挙しているだけなのかもしれません。
そうこうしているうちに、
出口がないと思い込んでいる間に、少しずつ出口は狭くなってしまうのです。(p.27)
だから、
そこにいたらダメだという危機感があるなら、早く抜け出してください。(p.32)
マインド・アイ(心眼)を使う
では、鳥カゴからどう出るか?
これも、同じキャリアコーチからの助言です。
「マインド・アイ(心眼)をしっかり使って、目標を見つけなさい」
心の目、つまり本心に忠実になり、目標を見つけたらそれを絶対に離さないこと。そして、それを追い続ければいつか必ず目標は達成できるということです。
迷ったときに、私はこの言葉を思い出し、目標を達成した自分をイメージするようにしています。(p.28)
河合さんは、「意味のある努力」をしなさい、と説きます。
心が動かない仕事を無理して頑張ってやり遂げるための努力ではなく、マインド・アイを使って、響く方へと向かう努力をしなさい、ということだと、私なりに理解しています。
そのためにはリスクを取ることも含まれます。
いつもいる場所、いつものやり方を手放すのは、誰だって怖いもの。
こういう時に自分を後押ししてくれるのは、自分の内側にあるワクワクや感情と思います。
ワクワクする自由で広大な世界で、自分の道を切り拓きたい。(p.4)
「新しい環境と自由への憧れの方が勝っていたのでしょう。「とりあえず行ってみれば、何とかなるだろう」」(p.5)
実際、飛び出してしまえば、なんとかなる。
というか、人は意外と強くて、なんとかするものでもある。
鳥カゴの中にいる方が、実際、ラクです。
でも、それが、自分自身を裏切っていると気づいているなら、飛び立つ時かもしれません。
私自身を振り返ると、大学卒業以来いつも首から下げていた社員証を会社に返却して建物を出た時、確かに、鳥カゴの外に出たと感じました。
この先、どんな生活になるのか全く見通しもついていなかったけれど、秋のよく晴れた日の空気は、いつもと違って感じられました。
心許なさもそのままに、大きく吸い込んで歩き始めて、風を感じて、「ああ、私、生きてるなぁ」と思ったのをよく覚えています。
そういえば、ちょうど4年前の今日のことです。
世間は後からついてくる
本書を読むと、かつての日本は本当に女性の扱いが低かったんだな、ということに改めて愕然とします。
その状況を当たり前とは思わずに、でも日本ではその環境は変わらないから、海外に場を求めた。
こういう先輩たちの苦労や悔しさや努力の上に現代の日本の女性の働く環境があるのだと気づかせてもらうたびに、感謝と敬意の気持ちが湧いてきます。
ご主人も素晴らしい方なのですが、お二人の関係が素敵で、役割が固定せずに、ときには妻のために、ときには夫のために、しなやかに人生を歩まれて来たことも伝わります。
今でこそ、このようなパートナーシップは増えて来ましたが、以前ではかなり珍しい形だったのではないかと思います。
それができるのは、それぞれに、そしておふたりに自分軸があるからだと思います。
世間に自分たちを生き方を決められるのではなく、自分たちで決める。
文字にしてしまえばさも当たり前のようになってしまいますが、実際はそれは簡単じゃない。
河合さんがもう一つ強調されるのは、「「鳥カゴ」の出口は日本だけでなく、海外にも開けている」ということ。(はじめに、より)
環境もずいぶん変わりました。
英語ももう特別なものではなくなりつつあります。完璧に美しい英語を話せなくたって、母国語が違う人たち同士のコミュニケーションは可能な時代になりました。
オンラインも日常になったコロナ禍では、拠点を日本に置きながら海外とだって仕事もできる。逆も然り。
望めばいつでも世界を広げられる。飛び立てる。
今の日本では、環境は全員にとって完全に平等とはなっていません。けれども、それを理由に自ら動き出すことをしないでいれば、人生はいつまでもそのまま。
自分の人生は自分で掴み取って欲しい、という河合さんのメッセージを感じる1冊です。
*河合さんご夫妻は、International Management Forum株式会社を設立され、国際社会で活躍するリーダーの育成のために活動されています。
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自分の小さな「鳥カゴ」から飛び立ちなさい 京大キャリア教室で教えるこれからの働き方
- 作者: 河合江理子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2013/07/26
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本書に出てくる本:
- 作者: スペンサージョンソン,Spencer Johnson,門田美鈴
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2000/11/27
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- 作者: George Kohlrieser,Joe W. Forehand
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「とにかくリスクを取ってみろ。チャレンジをすることが大事なんだ」(中略)「マインド・アイ(心眼)をしっかり使って、目標を見つけなさい」心の目、つまり本心に忠実になり、目標を見つけたらそれを絶対に話さないこと。そして、それを追い続ければいつか必ず目標を達成できるということです。(p.28、同氏のキャリア・コーチを受けていた時の同氏の言葉を回顧して)
- 作者: ベルンハルトシュリンク,Bernhard Schlink,松永美穂
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関連書籍:
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 (日経ビジネス人文庫)
- 作者: シェリル・サンドバーグ,川本裕子,村井章子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2018/10/02
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