昨年、フィガロ・ジャポンさんのオンライン・イベントにて一緒に鼎談させていただいた浜田敬子さんのご著書。
昨年秋に新しく著書を出されたということで入手し、少し前に読みました。
「男性中心企業の終焉」(浜田敬子 氏 著、文春新書、2022年10月初版)
以前に読んだ「働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、仕事はもっと楽しくなる」は、浜田さんご自身が、浜田さんの時代に家庭と仕事をどう両立してきたかというリアルなエピソードや、そのことがもはや現代には合わなくなってきているというお話であるのに対して、
本書は、日本企業の女性雇用の歴史、これまでの日本企業文化、そこから変わり始めている企業の実例など、社会全般やいろいろな企業の実例の方にフォーカスが向けられています。
出てくる企業は、メルカリ、富士通、キリン、丸紅、NTTコミュニケーションズ、ロレアル、などなど。
私も、最近、女性の幹部候補の方や女性マネージャーなどを対象にしたコーチングの依頼を受けることが増えてきており、知識や情報をキャッチアップするのにも助かりました。
「いったい今の日本企業の何が問題なの?」という方から、「女性が働き甲斐を感じられる会社にしていきたいけど他社はどういうことをやっているんだろう?」という方まで、きっと何か示唆が得られるのではないかなと思います。
女性の働き方を考えることは、日本人の「働く」そのものを検証する入り口になる
詳細は本書を読んでいただければと思いますが、「女性活躍」や「女性幹部を増やす」のような話をするとき、その根本的なところにあるのは男性と女性の性差の話だけではないということに気づきます。
なぜ、残業が必要なのか。
なぜ、若いうちから大きな責任ある仕事を任せないのか。
なぜ、若手とシニアの給料はこうも違うのか。
なぜ、日本全国幾つもの拠点を経験することが昇格の条件になるのか。
なぜ、これらに疑問を持つ人が少ないのか。
これらが、本当に必要だった時代や、十分な意味がある制度だった時代もあると思います。一方、時代はものすごいスピードで変わっている。技術も私たち一人ひとりができることも。かつては目的に合致していた制度も、その後未検証のまま、人々の生き方が変わった今もそのままになっているものも多数あるだろうと思います。
また、「長期に仕える」「逆らわずに従う」といったことで上司や組織への忠誠心を計るなど、平安時代には既にあったのではないかと思われる(もしかしたらそれ以前からも)日本の文化も影響しているかもしれません。
女性にとっての働きやすさ・働き甲斐は一つのわかりやすい入り口というだけで、この機会に、男性も「こんな働き方はもう懲り懲りだ」「本当はこういう風に働きたい」という声を出していけば、それは年齢や性別にかかわらず、誰にとっても働きやすい職場になっていくのではないかと思います。
制度を充実させるだけでは変わらない
出産休暇・育休など、制度を充実させていくことももちろん意味はあります。
が、大企業などの場合、すでに、制度面ではかなり充実しているところも多いと思います。
こんなに手厚くしているのに、どうして管理職になりたい女性が増えないの?というときには、手を討っている策が外的なものばかりに偏っているのかもしれません。
どれだけお金や休暇などの外的なものを充実させても、仕事本来の面白味や、仕事をしていく自信がなければ、結局、人の気持ちは仕事には向かいません。
また、長く育休を取ることを全ての女性が求めているとも思いません。実際に女性とお話していて、「できることなら早く職場に戻りたい、けれども、以前のような働き方は出来ないから職場には戻れない」と感じている方は少なくない印象です。
日本ロレアルさんの事例は、本質を突いていて、多くの示唆に富んでいると思いました。
女性役員・管理職30%を達成するのも四苦八苦している企業が多い中、日本ロレアルの女性管理職は52%、役員は41%。
インタビューと浜田さんの考察です。
「オフィススタッフの6割が女性なので気づいたら達成していたという感じで、この数字は自然なことでした」とヴァイスプレジデント、コーポレート・アフェアズ&エンゲージメント本部の楠田倫子本部長は話す。
「米系企業のような明文化されたクレド(行動指針)のようなものもなく、(企業としての存在意義を明確化する)パーパスが明文化されたのも2020年から2021年にかけて。ただ、フランス本社も含め、グローバルで、人権尊重、ジェンダー平等などの理念や思想が共有され、倫理的な会社を目指すという理想主義的なカルチャーはあります。それはフワッとしたものなんですが、人事制度などはその理想に基づいて作られています」
日本ロレアルが特徴的なのは、育休から復職するほぼ全員がフルタイムで復職するということだ。
(中略)
日本ロレアルには、女性向けに特別な両立支援などの福利厚生制度があるわけでもないという。働き方に関してもコロナ前から月10日までのリモートワークやフレックスタイムは導入されているが、同様の制度は日本企業にもある。話を聞いていると、むしろ「特別扱いしない」ことが、違いなどだと気づく。
「周りが当たり前にフルタイムで復職していれば『私にもできるかな』と思えるのが大きい。復職して2-3年は大変だけど、その期間を頑張って、その後の職場で成果を出せば評価され、キャリアで遅れることもない。だったら、フルタイムで復職した方がいいと考える社員が多いのだと思います」(楠田さん)
日本ロレアルでは入社1年目から男女で全く同じ教育研修と機会を与え、昇級昇格のベースも性差がない。楠田さんが、厚労省の「女性の活躍推進企業データベース」に登録する際に驚いたのが、「女性にも研修の機会を与えていますか」という設問があったことだ。「当たり前でしょう」と思ったが、例えば「女性は事務職」など性別によって職種が固定化されていると、研修の有無や回数、内容も男女差が出てくるのだろうと気づいた。
楠田さんはこう話す。
「性別にかかわらず、入社1、2年で重要な仕事を任される機会も多く、出産前にはキャリアのベースが出てきるのです。急に30前後の人に『管理職どうですか?』と言っても、『やりたい』人のプールは増えません。最初から同じ機会を提供していれば、あえて女性に”下駄を履かせる"必要もない。下駄が必要なのは、人材育成に問題があるから。仕事を面白いと思える瞬間やリアルな手応えを入社1年目から積み上げていれば、どちらかの性に偏って管理職を躊躇するということはないと思います」
もう一つの特徴は、対話のプロセスを重要視していることだ。育休に入るとそのポジションは別の人が埋めてしまうため、別の職場に復職することになる。その際に、人事が本人の要望を聞いて、なるべく希望に沿ったポジションを用意する。
そもそも日常的に上司との間で、「どんなキャリアを目指したいのか」「そのためにどんなチャレンジをしなければならないのか」という対話を繰り返している。「テーラーメイド型のキャリア形成」と呼ぶ人事制度には、対話を通じて本人の自主性を引き出すというプロセスが反映されている。
この性別で差別、区別しない、個人との対話を重視する前提は、「人権重視」「ジェンダー平等」という倫理観があってこそのものだ。だから男性も含めて無理な働き方を強いないということが大前提となる。(p.136-140)
会社も、女性を”普通どおり”に育てるし、一方で、産休・育休の間にそのポストを戻ってきた時のために開けておくこともしないし、誰かを”期間限定”の”穴埋め"的に使うこともしない。社員の側も、新しい役割にチャレンジすることにオープンで柔軟でいる。
ライフステージによって、個人に変化があることを会社も当然とし、社員の側も仕事や職場が常に変化することについて理解している、健全な自立と協働の関係を感じました。
女性も男性的だったりする
「女性活躍」「女性の働き方」というトピックについて、男性の中にもいろんな感じ方があると思いますが、女性の中にもいろんな感じ方・考え方があると思います。
私自身も、女性だからといって良くも悪くも特別扱いされない環境で社会人経験を積んできたので、どこまで、このテーマについて語れるか、怪しいところがあります。
そういう私は、すっかり男性的な考え方に染まっていたとも言えるだろうと思います。
異文化研究の権威・ホフステード博士の調査・研究によれば、日本は世界でも突出して「男性性」が強い国です。
ここで言う男性性とは、「競争原理における成功や地位を重視する」傾向のことです(「経営戦略としての異文化適応力」p.102)。
この傾向が強い国で育った私たち日本人女性にも、この文化は染み付いていると思います。
人に頼らずに自分でなんとかしようとする、できないことがあったらとにかく自分に厳しく努力する、死ぬまでに何かを達成しなければ、一角の人間にならなければ。
こういう傾向は女性にも沢山みられます。むしろ女性の方がそういう傾向があるのでは、と思う時もあります。
この、すっかり男性的な思考で、女性と仕事にまつわることを解決していこうとすると、それ自体がすでに何かにハマっている可能性があるのかもしれません。
今の評価制度や給与体系がそもそも何かおかしいとしたら?
何でも自由に作れるとしたら?
全社員が違う働き方、違う報酬体系でも良いとしたら?
本当は自分たちは、この組織で、何を大事にしていきたいんだろう。
何を共有しながら、共に働きたいんだろう?
何を共有しなくてもいいんだろう?
そんな本質を問い直す機会を、最近のジェンダーの話はくれているように感じます。
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