映画に詳しくない私は、カトリーヌ・ドヌーヴがどのような人なのかも全く知らず、ただ、表紙の顔が美しすぎて吸い込まれてしまい、
そして、山口路子さんの「読むことで美しくなる本」シリーズに絶対的な信頼を置いているので、絶対ハズレはないと思って読みました。
「カトリーヌ・ドヌーヴの言葉」(山口路子 著、2019年12月初版、だいわ文庫)
永久不滅のフレンチスタイル
「フランス映画界の至宝」(p.4)
美しくて、可愛らしい。
上品でもあり、魅惑的でもある。
それでいて、真っ直ぐで大胆でパンク。惚れ惚れするほどかっこいい。
恋多き女性。
自由奔放なのに、愛される。
いや、自由奔放だから、愛される。
いったい天は幾つのものを一人の人に授けるのでしょうか。
最初のうちは、なるほど、美しい女性はこういう考え方や気持ちを持つのか、など、勉強させてもらう気持ちで読んでいましたが、
読むうちにひとりの人として親近感が湧いてきて、最終章の「ドヌーヴ精神」を読む頃には彼女のことが好きになっていました。
今なぜ彼女を特集したのか、ということもわかりました。
集団狂気(マス・ヒステリア)への警句
自分にも他人にも嘘をつかない、カトリーヌ・ドヌーヴ。
その在り方が大きく現れたのが、2018年1月の事件。
2018年1月10日、5人のフランスの女性文化人によって起草された「100人の女たちによるもう一つの意見」と題された声明文が、フランス日刊紙「ル・モンド」に寄稿されました。
内容は、#Me Tooのムーブメントに行き過ぎを感じた人たちが、女性の立場から異を唱えたもの。
カトリーヌ・ドヌーヴもこれに署名していましたが、それによって大きく批判を受けます。
これに対し、彼女は、フランスの雑誌「リベラシオン誌」に声明を出しました。
この意見書によって傷ついた性暴力被害者に対してのみは謝罪する一方、自分の考え方についてとても明確に述べています。
*リベラシオン誌に発表されたカトリーヌ・ドヌーヴの書簡* 抜粋・意訳
事実、私はル・モンド誌に掲載された意見書「『性の自由』と切っても切り離せない『口説く自由』を私たちは擁護する」に署名しました。
それに対して多くの反響があったので、正確に私の考えをお伝えしなければなりません。
私は自由を愛しています。
ひとを糾弾したり裁いたり、仲裁に入りたがったりする、現在の状況が嫌いです。
SNSで告発されたことで処罰され、辞職に追い込まれ、マスコミにリンチ(私刑)される現在の状況が嫌いです。
私はセクハラという行為自体を許すつもりはありません。
ただ、この男性たちの罪について、判断を下す資格は私にはないし、私以外にも、その資格があるひとは少ないはずです。
人が群れることによって生じる影響力、圧力が私は嫌いです。(後略、p.216)
ぜひ本書で最後まで読んでみてください。
なお、坂本安美さんも、こちらのウェブサイトで全文を訳して掲載してくださっています。
「カトリーヌ・ドヌーヴからの手紙」
https://www.nobodymag.com/report/n/abi/2018/01/201814.html
とても注意深く選ばれた言葉。
事実を認めつつ、自分が起こしたインパクトも引き受けつつ、同時に、友愛の精神と共に自分の信念も尊重している。
背筋が伸びるような清々しさを感じますし、内容も共感します。
大きな批判を受ける中でも、自分の意見をここまではっきりとマスに対しても伝えいてける。その表現力と勇気が本当にすごいなぁと思います。
それは、きっと、しっかり自分自身の心で見て考えて判断して行動しているから。いつも真実に向き合おうとしているから。
本書や、上記の坂本さんのブログからも、彼女のまっすぐさや、今を生きている人間全体への愛がひしひしと伝わってきます。
そんな彼女のエッセンスを忘れないために、以下は私の備忘録:
「私はそれについて話すことを拒否することで、それについて離したくないという意志を主張しているのよ」(p.57)
「私は生まれつき内向的で、恥ずかしがり屋だったの。でもあるとき、その羞恥心は実は、傲慢な心の裏返しにすぎないと気づいて、そのとき自分を変えなければならないと決意したの。傲慢さって、大きな欠点だと思うのよ」(p.67)
「恋愛においては、経験はけっして役に立たない」(p.116)
「人生における重要な冒険は、愛すること愛されること」(p.122)
「この仕事で私ははじめて自分に目覚め、未来を信じることができたの」
(p.140、映画「シェルブールの雨傘」でのジャック・ドゥミ監督との出会いについて)
「映画を作っているときには、私の好奇心が覚醒していなければならない」(p.164)
「キャリアに関しては、したいことをすべてしつくした、とは言えないけれど、少なくとも、したくないことはしていないわ、それはたしかね」(p.169)
「この世界においては、どうすれば成功するのかなんて誰もわからないのだから、自分を信じるしかない。自分の感覚、信条に従うしかないの」(p.171)
「「規律」、それは私のためにある言葉ではない」(p.180)
「明日、この世にいられるかなんてわからない。だから現在を生きるのよ。そう、私は完全に、この瞬間、を生きたい」(p.187)
「私を愛してくれるひとたちのことはもちろん好きだけれど、そのことと彼らに対して義務を負うというのは別問題」(p.189)
「少数派にも存在する権利はある。それはたいせつなことだと思うわ」
(p.204, 公共の場に喫煙スペースはあるべきと言う自分の発言に賛同を得られなかった時に)
「大人らしく振る舞うことをせずに大人になりたい。それくらいの権利はあると思うの」(p.209)
「誰しも他人をジャッジする権利をもたない。正しいこと、正しくないことを決める権利ももたない。このことはぜったいに忘れてはいけないわ」(p.212)
言葉にはその人が現れる。改めて思います。
そして、その言葉を目で追いながら、私たち読者もまた美しくなれる。
この記事は、こんな人が書いています。
お気に召す記事がありましたら、ぜひシェア頂ければ嬉しいです。また、もしこのブログを読んで、ここで紹介されている本を購入しようと思われた際は、ここみち書店(神保町PASSAGEbis!内)、ここみち書店bigarré(神保町PASSAGE SOLIDA内)もしくは、このブログ内のamazonへのリンクを経由して購入頂けると幸いです。私にとって皆様が本に出会うことのお役に立ったことを知る機会となり、励みになります。
上記の書簡部分を書くにあたっての参考文献:
BBC News Japan:https://www.bbc.com/japanese/42688307
坂本安美の映画=日誌:https://www.nobodymag.com/report/n/abi/2018/01/201814.html
井上正昭さん「明るい部屋:映画についての覚書」:https://pop1280.hatenablog.com/entries/2018/01/11
関連記事: