ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

WORK SHIFT ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>

2012年8月に書かれた、2025年の未来予想図です。

私が読んだのは、確か2013年か2014年。興奮しながら読んだことを覚えています。

キャリア観にものすごく影響を受けました。

当時、なんとなく感じていた社会の進む方向や、ぼんやりと描き始めた自分のキャリアについて、「間違ってない」と思わせてくれた本でもあります。

2020年の今、ふと読みたくなって、ざっと再読しました。

やっぱりいい本だと思います。ライフ・シフトよりも好きです。

もし、まだ読まれていない方がいらっしゃれば、今からでも、とてもオススメする本です。

というか、コロナ禍の今こそ、オススメする本、と言えるかもしれない。

ワーク・シフト ─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>」(リンダ・グラットン氏著、池村千秋氏訳、プレジデント社、2012年8月初版)

 

ワーク・シフト ─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>

 

新型コロナは社会をひっくり返したのではない。始まっていた変化を加速しただけ。

初読当時、ここに描かれていた2025年の人や社会のストーリーについて、「確かにこんな世界になるのかもしれないなぁ」と思いましたし、世界は確かにその方向性に進んでいるんだろうとも思いました。

ただ、それは「『いつか』そうなるだろう。2025年というのは野心的かもしれない」、「2025年にそうなっているとしても、それは先進的なマインドと技術を持った、ごく一部の世界の話だろう」と思っている自分もいました。

 

ところが今。

新型コロナウイルスの出現を受けて、描かれているかなりの部分が既にそうなっています。しかも、かなり身近なところで。これまで、変化することに興味がなかったり、変化に対応する必要性がなかったような領域でも。

 

例えば、2025年の未来図として、2012年の本書に書かれているのは、こんな世界です。

  • パジャマのまま朝6時から仕事する。
  • 朝から晩まで世界各国と30分単位でテレビ会議を使って仕事して、時間が細切れになる。
  • 仕事の合間に食事や家事をして、オン・オフの境目がなくなる。
  • ほとんど家から出ずに、高度な仕事もできてしまう。
  • 一度も対面で会ったことのない、行ったこともない土地の人から仕事を受注する。
  • 両親や兄弟姉妹との会話はいつもオンライン。実際にはもう長いこと会っていない。
  • 先進国・途上国・都心・地方と住む場所にかかわらず、ITインフラがあれば同じ教育を受けられる。どこからでも仕事ができる。
  • 自分ができる仕事を明確にして、将来の顧客からも見つけてもらえるようなセルフマーケティングが重要になる。

去年の今頃であれば、こういう日常があと6年後に来るよと言われて、信じる人もいれば、信じない人もいただろうと思います。それに向けて準備する人もいれば、自分には関係ないこととしてしまうこともできた。

今は、これが全て世界各国で現実になってる。

本書では、未知なるウイルスが出現するシナリオは描いていないので、その意味での移動制限は考慮されていないのですが、代わりに、エネルギー・環境問題の深刻化の影響として「二酸化炭素を排出することの経済的コストが高まり、しかもバーチャル技術が目覚ましく進歩する結果、わざわざ通勤や出張をして人と会うのではなく、自宅にいたままでコミュニケーションを取るようになる」(p.109)としていて、コロナはこのような行動変容を早めただけだとも感じます。

 

そして、この先起きうるであろうことも、今は、かなり現実味を持って感じられます。

例えば、オンライン会議ではホログラムを使って自分の姿を立体映像で映し出す、となっていて、最初にこれを読んだ時は、そんなスターウォーズのようなことができる?と半信半疑だったのですが、今は、近い将来にはそんなこともありうるんだろうと思えます。

 

未来の見方は自分で選ぶことができる

人々の働き方の変化に影響を与える5つの要因として、本書では以下を挙げています。

  1. テクノロジーの進化
  2. グローバル化の進展
  3. 人口構成の変化と長寿化
  4. 社会の変化(家族のあり方が変わる、自分を見つめ直す人が増える、女性の力が強くなる、バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える、大企業や政府に対する不信感が強まる、幸福感が弱まる、余暇時間が増える)
  5. エネルギー・環境問題の深刻化

 

これらの要因から起きることを、私たちはどのような風にでも見ることができます。

 

IT技術によって人間が担う仕事がなくなり、業務のオンライン化によって、仕事は新興国の人々とも争奪戦になる。先進国に生まれたからといって安心できない。下層階級の一員に落ちていってしまうかもしれない。長生きするので老後は資金が不足し、貧しい暮らしになる。人との接点が減って孤独になる。暇が増えてゲームばかりするようになる。古き良き家庭像が壊れる。温暖化が進み、住む場所はなくなる。

 

IT技術によって、どこに住んでいても教育が受けられる。新しい技術を自分も安価に・簡単に利用できるようになる。好きな場所に住んで、好きな人と好きな仕事ができるようになる。生涯現役で居られる。世界数十億人と瞬時に繋がれる。世界中の知恵を集めて、クリエイティブに協働できる。多様な生き方・働き方が許容される世の中になる。新しいエネルギー技術で、私たちはもっと地球のことを考えて生きるようになる。

 

不安視することも、機会と捉えることもできる。

それは自分で選ぶことができる。

そして、自分で描くこともできる。

 

この手の本に触れる時、私はいつも、未来は誰かが描いたようになっていくな、と感じます。

描くことが持つ力はとても強い。

誰かが止めようとしても、止まらない。

 

最初のうちは、周りからは何も見えないかもしれない。

けれども、徐々に、ゆっくりと、でも確実に起きていくな、と。

それが同時多発的に起きていることと合わさって、いつしか本当に社会もそうなっていく。

 

引用されている言葉に、とても共感します。

「未来はすでに訪れている。ただし、あらゆる場に等しく訪れているわけではない」(p.20、SF作家ウィリアム・ギブスンの言葉) 

 

シフトを加速する

産業革命に匹敵するくらいの、「働き方の常識の数々が根底から覆る」(p.20)くらいの変化が起きつつある。だから、未来を「漫然と迎える」のではなく「主体的に築く」ことをしよう。それが著者の警鐘とも言えるメッセージでした。

 

それが、コロナにより、すごい速さで来た。

だから私たちも今、シフトを加速させる時なんだろうと思います。

 

その第一歩は、「あなたの頭の中にある固定観念を問い直すこと」(p.25)。

仕事とはこういうもの、働くとはこういうこと、成功とはこういうもの、幸せとはこういうもの。

本書でもそれぞれについて提案してくれていますけれども、きっと大事なのは、それを自分自身で定義し直していくことだろうとも思います。そしてそれは多分、今一度やれば終わりなのではなくて、ずっとやり続けていくことだろうとも思います。

 

そして、この新しい社会で主体的に未来を築くために、著者が具体的に提案するのは、3つのシフト。訳者のまとめ(p.385)もお借りします。

第一のシフト:ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ

一つの企業の中でしか通用しない技能で満足せず、高度な専門技能を磨き、「自分ブランド」を築くこと。

第二のシフト:孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ

難しい課題に取り組む上で頼りになる少人数の盟友グループ(「ポッセ」=同じ志を持つ仲間)と、イノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢の知り合いのネットワーク(「ビッグアイデア・クラウド」)、そしてストレスを和らげるための打算のない友人関係(「自己再生コミュニティ」)の3種類の人的ネットワークを育むこと。

第三のシフト:大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ

大量消費主義を脱却し、充実した創造的経験をすることを重んじる生き方に転換すること。

 

詳しくは是非ご自身で読んでご確認ください。

 

なお、この3つのシフト、全般的に賛同するのですが、唯一、「ゼネラリストはもう価値がない」的な部分については、私は少し違う意見です。

確かに「浅く広く」というのは、知識の話だけをしているならば、誰でもすぐに簡単に情報を入手できる今は、その存在意義は薄いのかもしれません。

ただ、特別な専門領域を持たずとも、いろいろな視点から物事を見て、多方面の利害にも思いを馳せながら、組織や個人の力が最大限発揮できるように関わる能力は、これから協働が進む世界ではとても価値あるものではないかと思います。

むしろ、自分の専門領域は磨いても、協働できなければ、仕事の機会はきっと少ない。

また、技能だけで勝負しようとすると、結局、その技能が売り物になって商品化してしまい、延々と「人より優れた技術」を身につけることに忙しいままキャリアが終わってしまうことにもなりかねないのではないかな、と思います。

ゼネラリストか専門領域を持っているかが問題なのではなく、鍵は、「リーダーシップの有無」と「創り出す」側なのか「使われる」側なのか、ということではないか、と。

今、ゼネラリストの立場にいらっしゃる方々は、過度に悲観的になったり、焦って転職したりするよりも、(今の仕事がお好きであれば)今の場所でリーダーシップを磨き、「どの領域にも自分より詳しい人はいるが、どの領域であっても、プロフェッショナルを束ねることをさせたら右に出るものはいない」という形で貴重な人になっていくという可能性は大いにあると思います。もちろん、専門領域も築いていければ、なお素晴らしい。

 

悶々とする中にシフトがある 

私にとって、コーチをしていて得られる大きな喜びの一つは、クライアントの方々の様々なシフトに立ち会えることです。

特に、意識が進化するという意味でのシフトに立ち会う瞬間は、背筋がゾクゾクするような体験です。

 

そこに至るまでに、悶々とした時間や苦しんだ時間があることを知っているから、余計にそう感じるのかもしれません。

不安に向き合って、居心地の悪さから逃げずに、そこから勇気を持って踏み出した一歩なのだとわかるからこそ、心からの祝福を送りたくなります。

 

シフトをした後の人たちを見て、その手前の人は「いいなぁ」と言います。

もしかしたら、知らないのかもしれません。

今は自分の道を見つけた人たちも、悩んだ時間があることを。

 

もし、 今、悩んだり、苦しんだり、もがいたりしているならば、それはきっといいサインです。

今、大切なことに向き合っている、というサインです。

 

 未来に向けた<シフト>について理解を深めれば、あなたはきわめて大きな選択を迫られるようになる。(中略)あなたがバランスのとれた生活を重んじ、やりがいのある仕事を重んじ、専門技能を段階的に高めていくことを重んじるのであれば、それを可能にするための<シフト>を実践し、自分の働き方の未来に責任をもたなくてはならない。

 そのためには、不安の感情に対する考え方を変える必要がある。自分が直面しているジレンマを否定するのではなく、強靭な精神をはぐくんで、ジレンマが生み出す不安の感情を受け入れなくてはならない。自分の選択に不安を感じるのは、健全なことだ。深く内省し、自分の感情にフタをしない人にとって、それはごく自然な心理状態なのだ。不安から逃れたり、不安を無視したりする必要はない。

 そのジレンマのなかにこそ、あなたが光り輝くチャンスが隠れている。五つの要因が働き方の常識を土台から揺さぶる結果、自分の人生を自分自身で形づくれる可能性が大きく開ける。組織の中で人間らしい性質を押し殺して生きる必要はないし、会社という大きな機械の歯車の一つとして生きる必要もない。自分で選択をおこない、選択の結果に責任をもてるようになる。そういう生き方を選択するために避けて通れないのが、自分の感情を受け入れ、欠点を率直に認めること。そして、ぬるま湯に浸かったままでよしとせず、リスクを背負い、勇気をもって行動することだ。(p.370-371、第10章 第三のシフト)

 

コーチとして、このジレンマや不安と向き合うことを支えたいと思いますし、仮に本人がそうと信じられないときであっても、その中にその人が光り輝くチャンスを見続けていたいなと思います。

 

もちろん、私も私で、さらにシフトしていきたいと思います。

 

 

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