ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

ココ・シャネルの言葉

とても好きな、山口路子さんの「読むことで美しくなる本」シリーズ。

選び出された言葉から、ガブリエル・シャネル(愛称:ココ・シャネル)の人物像が浮かび上がります。

 

ココ・シャネルの言葉 (だいわ文庫)

 

シャネルについて、単なる高いブランドと思っていたら、ココ・シャネルという人物の本当の価値を見失っています。

・・・ということに気づかせてくれる1冊です。

 

革命家

シャネルが生きたのは、20世紀初め。

パリの芸術が花開くLes Années Folles(レザネフォール、狂乱の時代、1920年代)の代表的存在。

それまでの女性像や女性のファッションを悉く覆し、全く新しい女性像、新しいスタイルを打ち出した革命家。19世紀的なものをすべて葬り去った「皆殺しの天使」(by ポール・モラン)。

リトルブラックドレスはあまりに有名ですが、その他にもジャージー素材、ツイード、マリンルック、パンタロン、プリーツスカート、イミテーションジュエリー、ショルダーバッグなど、どれも彼女が生み出したものだったというのは、今回知りました。

 

それまでの時代とは、女性といえば、上流階級では、コルセットをつけて、大きな帽子をかぶって、衣服や身につける宝石で自分の階級や価値を示そうとするような人が主流だったような時代です。更に言えば、高い階級に自分がいられるように地位や名誉のある男性と結婚することにも躍起になった時代です(まぁ、これはどの時代も変わらないといえば変わらないような気もしますが)。

 

孤児院育ちということももちろん関係あるのでしょう。

シャネルはこういう表面的な、自分の価値では勝負せずに配偶者や身につけるもので価値を示そうとする上流階級の女性達が大嫌いでした。

 

普通であれば、そういう人たちを批判しつつ、内心は恨めしく思いながら、別の世界で生きる、となるところでしょう。

シャネルの凄さというか面白さというのは、自らも上流階級に入り込み、そこに全く新しい価値を投入して、自分の新しい提案に彼女達を夢中にさせてしまったところです。

 

シャネルが重視したのは、着心地の良さ、動きやすさ、シンプルさ。女性に動く自由を与えました。と同時に、身につけるもの=階級、という構図も壊しました。

上流階級婦人達がそれまでの豪華なドレスを置いて、自分がデザインしたシンプルな服やアクセサリー(しかもイミテーションの!)に大金を払うのを見て、さぞかし小気味よかったのではないでしょうか。自分のビジネスのために彼女たちを上手に利用していたとも見えます。

一方で、シンプルな洋服は模倣しやすく、シャネルはコピーされることをむしろ歓迎していましたから、一般庶民もセンスを磨いたり工夫をすることでおしゃれな装いができるようになりました。

 

読んでいると、彼女を突き動かしたのは、洋服が好きとか、おしゃれが好きとか、そういうレベルのものではなく、世の中にはびこる、くだらない秩序や、気に食わない価値観を覆してやりたい、という強い思いだったのではないかと感じられます。

ファッションは、それを大きなインパクトで表現し、世の中に浸透させていくための手段にすぎなかったのでは、と。

別の見方をすれば、世の中の女性についての見方・考え方を覆すために、宇宙が彼女をこの時代のヨーロッパに遣わしたのではないかとすら思えてきます。

 

一般庶民である私は、シャネルというブランドについて、半端でないお金持ちしか相手にしない鼻持ちならないブランド、くらいの印象を持ってしまっておりましたが、ガブリエル・シャネルという人物について知れば知るほど、ものすごく芯のある、揺るぎないビジョンのあるブランドに感じられてきています。

ついでに、庶民は、シャネル本体に手を出すような無理はせず、遠慮なくシャネル風のスーツなどを着ていていいんだなとも思いました。

 

社会的なインパクトを起こそうとするときに、お金の話をするのが難しくなりがちなのはよくあることですが、シャネルの例は何かの参考になるのかもしれません。

お金は、あるところには、沢山あります。

 

仕事、恋、葛藤

実は朝から夜まで仕事して、翌日の仕事のために夜もさほど出歩かなかったというシャネル。

「かけがえのない人間であるためには、人と違っていなければならない」(p.20) という言葉からは危機感や焦燥感、覚悟のようなものも感じられます。

生涯独身で、87歳で亡くなるまでマドモアゼルと呼ばれましたが、パリに導いたエチエンヌ・バルサン、最愛の実業家アーサー・カペルに始まり、ピカソやダリ、ストラヴィンスキーなどこの時代を代表する芸術家と浮名を流し、ウェストミンスター公爵、ディミトリ大公(ロシア皇室)などの高貴な人からも愛され、彼らの人生にも大きなインパクトを残しています。

当時の女性が動きづらい華美な装いで男性に依存して生きていたとしたら、ショートカットにギャルソンヌルックで、大胆に自分を表現し、自分の人生を切り開いていくシャネルはきっと、退屈な女性たちを持て余していた先進的な男性達を魅了したことでしょう。

 

仕事と自由を愛し、自分にも他人にも厳しい人。徹底して美を追求した人。

と同時に、残された言葉からは、一人の女性としての弱さや葛藤も垣間見られ、人間らしさも感じます。

孤児院から出発した人生。大成功へと駆け上がる一方で、愛する人が家柄やを取って別の人と結婚したり、あるいは死に別れたり、壮絶な人生でもあったと思います。

それでも、人生は自分で創るものだ、ということを見事に体現したこの稀有な人物は、シャネルの服や香水が好きとか嫌いとか、彼女の生き方に賛同できるかできないかとか、そういうことを超えて、世界を変えた人としていつまでも名が刻まれるに相応しい人と思います。

 

香水で仕上げをしない女に未来はない。(p.30) 

女性は強さではなく弱さを楽しまなくては。(p.44)

奇抜さはドレスではなく、女性のなかになくてはならない。(p.56)

 

私の愛する人は、私の意欲にけっして水をさしたりしない人だった。(p.64) 

老若にかかわらず、女の幸せは愛されることにある。(p.94)

男が本当に女に贈り物をしたいと思ったら結婚するものだ。(p.96)

 

私は、私の人生を作り上げた。なぜなら、私の人生が気に入らなかったからだ。(p.170)

友人から忠告されるのは嫌い。それは頑固だからではなく、私が影響されやすい性格だから。(p.184)

 

20歳の顔は自然がくれたもの。30歳の顔は、あなたの生活によって刻まれる。50歳の顔には、あなた自身の価値が表れる。(p.190)

私はこうなりたいと思い、その道を選び、そしてその想いを遂げた。そのためにしたことで、人に嫌われたり、いやな女だったとしてもしかたない。(p.192)

 

私はこれから起こることの側にいる人間でありたい。(p.194)

退屈していたの。それに気づくのに15年かかった。無よりも失敗を選ぶわ。(p.202)

人が何を残せるのかといえば、人生のなかで何を考え、何を愛してきたかということだけ。(p.208)

 

ふと自問しました。

ジャージー素材もパンツスタイルもイミテーションジュエリーも今でこそ当たり前だけど、もし同じ時代に生きていたなら、彼女の言葉や彼女が作り出すものに、どれくらい、最初の最初から賛同できただろうか、と。

今という時代も、何か古いものが終わって、世界の仕組み・構造自体が新しくなるときにあると感じます。

新しい声が聴こえる耳、新しい風を感じられる敏感さを持っていたいなと思いました。
 
 
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