久しぶりに、映画の鑑賞録。
「うみやまあひだ 伊勢神宮の森から響くメッセージ」(監督:宮澤正明氏)
数年前の映画だそうです。最近時々出かけるNagatacho GRIDのCINEMA NITEで上映会の告知をみて、何となく直感的に観たいと思い、予備知識なく行ってきました。
そういう風にふらりと出かけて行って響くものに出会えると喜びも一層、というもの。
過去およそ1300年間に亘り、伊勢神宮で20年に一度行われている式年遷宮を主な題材としつつも、内容はそれ以上に深く、森、海、川、人間の自然とのつき合い方について大切なことを教えてくれる作品でした。
ドキュメンタリーではありますが、映像としてもとても美しく、心臓が踊り始めてしまいそうなリズムの音楽や尺八の音色が、この世界観に引き込んでくれます。
そして、登場する方々が豪華。神宮の神職の方だけではなく、建築家(隈研吾氏)、映画監督(北野武氏)、脳科学者・音楽家(大橋力氏)、気仙沼の養殖漁業家(畠山重篤氏)などなど。
伊勢神宮から森へ、森から川へ、そして海へと、自然な流れで誘われ、純粋に、映画として楽しめました。
2015年に同作品でマドリード国際映画祭・外国語ドキュメンタリー部門「最優秀作品賞」と「最優秀プロデューサー賞」を受賞。
森のめぐみ
お伊勢さんは、小さい頃に1度、大人になってから1度、行ったことがあります。こんな広大な森に抱かれた一角だということは知りませんでした。およそ5500ha。世田谷区くらいの広さ。
その森は、数百年先の遷宮で真新しいお社を造るための御神木を育てる場。200年、300年先の木と森の様子を思い描きながら間伐して、陽の光を入れ、大木に育てるために十分なスペースを確保します。
そして、もちろん、豊かな土壌と水と、多様な動植物を育む場。
おそらく通常は入ることはできないと思われるエリアの映像は、ただ美しくて、思わず口をぽかーんと開けて、ただただ見入ってしまいました。見ているだけで癒されます。
脳科学者の大橋氏によれば、そこには、アマゾンと同じように、高周波の音(ハイパーソニックサウンド)が飛び交っているのだとか。鳥や虫、木々、風。自然が作り出す音。森の中は本当は70dBもの賑やかさなのだけれども、高周波の音は、人間の耳には聞こえない。ただ、肌はそれを感じ取ることができ、肌が感じた音が、20〜30秒かかって脳に届くのだそう。
伊勢神宮の森でなくとも、森には高周波の音があり、これは、ストレスを軽減したり、美しさを理解する能力の発達に大きく役立っているのだそうです。この感覚、ちょっとわかる、という方、意外と多くいらっしゃるのではないかと思います。
海は森の恋人
また、改めて気づかされるのは、森と海、そしてそれらをつなぐ川の関係。
森は、海に流れる水が生まれる大地。
海で蒸発した水は雲となり、また森に恵みの水をもたらす。
海の中にも植物はあり、海の中にも森はある。
森と海は、相互に恋している関係。
海は森をお慕い申し上げている。森も海をお慕い申し上げている。
The sea is longing for the forest. The Forest is also longing for the sea.(畠山重篤氏)
英語表現を探していた畠山さんに、long for というヒントをくださったのは美智子皇后だそうです。
そして、その森と海をつなぐのが川。水が旅する道。
日本には35,000の川があるそうです。
普段あまり意識していませんでしたが、確かに、日頃、海と山というのは区別して話すことが多く、行政も分かれていたりします。
畠山氏の、これまでの日本は新幹線などでヨコをつなぐことに熱心だったが、(森から海へという)タテをつなぐことにもっと意識を向けて欲しいといった趣旨のコメントが、妙に印象深く残りました。
修復期
この100年で日本人が失ったものは、森。(隈研吾氏)
電車から眺める景色が一面コンクリートだったりすると、うわっと思う時があります。
川岸の堤防から始まり、アスファルトの道路、その道路の脇にびっしりと立つビル。
これ、全部人間が塗り固めたものなのだ、と思うとちょっと息苦しくすら感じます。
隈研吾氏は、この100年間で日本が森を失ってしまったことを憂い、でもそのことに人々が気がついて何とかしようとしている現代を、映画の中では修復期と呼んでいました。
今からの修復は、途方も無いように感じます。ただ、市民や企業、地元の自治体などからそれらが始まっているようにも感じます。自分が住む世界のことを、自分もその世界を構成する一員であることを認識して、自分ごととして取り組む。そういうとき、その活動はエネルギーがあり、人を集めるのだと思います。
なお、これは映画の中で語られていたことではないですが、コンクリートに使われるセメントは鉄を作る時に出る廃棄物(スラグ)を原料としており、アスファルトは石油から石油化学製品やガソリンなどを作る時に出る廃棄物を原料としています。
多消費社会がセメントやアスファルトという原料を低コストで大量に供給することを可能にし、より一層、道路やビルが建てられているのではないか、というのが最近ふつふつと思う仮説です。いずれそんな問題意識に刺さる本などにも出会えればと思います。
* * *
今回の上映会は、夜に屋外で、というものだったのですが、これも素敵な企画でした。
夜のシーンも多かったので、映画館よりもさらにその世界に引き込まれたかもしれません。
さらに、神様へのお供えに使われている品目に着想を得ての、天然塩、酒と昆布で炊いた『最高の鯛飯』という軽食付き。お腹まで満たされました。
また、こういう場に行ってみると、制作者側の方やイベント運営の方々から直接お話が伺えて面白いことに加え、伊勢市の方や官庁の方に出会えたり、不思議なご縁があるものです。
当日いらしていたプロデューサーの方に伺いましたら、式年遷宮の諸々の儀式は、いざ遷宮をするその年の8年前から始まっているとのこと。もともとは写真家でいらっしゃる監督・宮澤氏が、2013年までの8年間に撮り溜めた、普段は見ることのできない伊勢神宮の貴重な写真が多数織り込まれています。
森、海、伊勢神宮、建築、写真、伝統、歴史。
いろんな関心・切り口を入り口として入ることができます。
サステイナビリティに対する世の中の関心が高まっている今、多くの方々に響く作品だと思います。
自主上映会のほか、神楽坂で常設で上映されているようです。是非おでかけください。
(おことわり:引用した言葉については、メモしていたわけではなく、記憶から書いておりますので、実際の表現・言葉は上記とは異なる可能性があります。)
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