ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

静かに生きて考える

一つ前の記事で紹介した「お金の減らし方」が面白かったので、同じ著者の本をもう1冊読んでみました。

静かに生きて考える Thinking in Calm Life」(森博嗣 著、KKベストセラーズ、2024年1月初版)

静かに生きて考える Thinking in Calm Life

 

まるで、読む薬。

あらゆるスペースが情報で埋め尽くされている情報過多の今の時代に、

そして、何かと同調が求められる日本の空気に窒息しそうになる中に、

静かなスペースをくれて、

きわめて冷静に、淡々と、我に返らせてくれる本。

ぐさっと刺さるときもあれば、そう、それでいいですよね、とホッとする感じもある。

 

工学博士だからからなのか、理路整然とした感じも、

それを誇張することもなく、当たり前のようの語る文体も、好きです。

 

ところどころ、私はこう思うな、と違う意見を持つ箇所もありましたが、多くの部分について、わかるなぁ、そうか、そういうことか、真っ直ぐに言語化されていて気持ちがいいなぁ、と思いながら読みました。

 

たとえばカバーの裏の言葉を引用すればこんな感じ。

無駄だ、無駄だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間はなぜ生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)

 

小見出しからいくつか取ってみるとこんな感じ。

「仕事って、本当に忙しいのか?」

「謝ることが問題解決だという勘違い」

「虚しさと楽しさを同時に味わおう」 など

 

第38回「簡単な方法に縋って(すがって)失敗する」と

第39回「そんなことできるわけない症候群」は、特に強く共感した章でした。

 

こういう本を読んだら楽になる人がたくさんいるであろうに、

または、こういう考え方の人が増えたら、日本も静かで過ごしやすく、クオリティ・オブ・ライフも全体的に上がるだろうに、と思うのですが、

悩ましいのは、そういう人たちはなかなかこういう本に出会わないのかもしれない、というところ。

こうやって、読書録に書いておけば、数人でも、出会う機会は増えるでしょうか。

 

読みながら、次元は全く及ばないものの、私自身が毎週メールで配信している「ここみち便り」や、仕事仲間と毎週配信しているポッドキャスト「独立後のリアル」も、本書のような効果があるのかもしれないなと思いました。

特にポッドキャストの方は、例えば「#215 逃げていい時、逃げちゃいけない時」などのように、正解のない話題について2人それぞれの経験と視点からくる意見などを話していて、リスナーの方々にも、「聴くとラクになる」「新しい視点をもらえる」「共感する」「自分はどうだろう?と考える機会になる」 などの声をいただいています。

私自身も、さまざまな本から呼吸するスペースをもらいつつ、

その私の存在も、誰かが自分のスペースを思い出して取り戻すことに何か役に立っていたら、それは嬉しいなぁと思います。

 

よかったら、覗き聞きしてみてください。

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脱線しましたが、本書は、著者がどういう人であるのかを知ってから読むとますます面白いのではないかと思います。

たとえば「お金の減らし方」では、これまでのキャリアが詳しく語られていますので、合わせてどうぞ。(読書録でも少し紹介しました)。

 

以下は、私自身のための備忘録。

 自分が影響を受けたものや、自分が成し遂げた仕事などは、いずれも過去の事柄である。つまり「今」の状況ではない、という点に僕は違和感を抱く。だから、過去を語る人たちには、「で、今は何をしているの?」と尋ねたくなってしまう。
 (中略)研究者というのは、なにがしかの問題を抱えている。課題で頭を悩ませている。そして、大きな問題、あるいは多数の問題を抱えている人ほど、研究者として優れているのだ。だから、人と話をするのは、いつも、「今考えていること」になる。(中略)
 どれくらい自分が困っているかが、その人の能力なのである。誰にも理由はわからない。今のところ解決策がない。そういう状態こそが、人間が能力を投じる対象であって、それこそが、毎日の楽しみでもある。頭を抱え、不機嫌そうに顔を顰めていても、楽しくてしかたがない。普通の人にはわからないだろうか?「君の悩みは深そうだ。良いね。まったく羨ましいよ」といった感覚になる。(p.70-72)

 

 ものを作っていて味わう「完成」には、苦い失望感が伴うことも(特に僕には)事実である。ものを作り上げたときは、「やった!」と両手をあげてはしゃぐ場面ではない。何かしら、期待外れで、残念な箇所が目につき、自分の能力不足に直面しなければならない。(中略)
 完成品の欠点は、作った本人が一番感じているものであり、これがあるからこそ、次の作品に心を向けることができるし、また、この幻滅を感じられるのは、次を作る能力があるということだ。「万歳!」とはしゃぐのは、今がピークであり、もう成長がない人間だからである。(p.113)

 

 事象を客観的に捉えるには、ぼんやりと全体を感じることが大切だ。客観的に捉えると、自身を離れ、いろいろな立場から物事を考えられる。すると、他者がどのように感じ、むこうはこちらをどうみているのか、という高い視点が生まれる。(p.128)

 

 判断や方法などについて、他者の意見や経験などを参考にすることが多い。だが、ちょっと考えればわかることだが、条件が違いすぎる。なんとなく、成功した人の方法を採用すれば、自分も成功できるような気になるけれど、自分はそもそも成功する人かどうか、という点で疑問を持った方が良いだろう。
 成功した人は、その人なりの方法を採用したから成功した。あなたは、その方法よりも、むしろ自分なりの方法を考えた方が、成功確率が高くなるのでは?
 「自分なり」というのは、自分を知っている人にしかわからない。つまり、あなたの方法は、あなたにしかわからない。
 逆に、失敗するような方法は、かなり役に立つ。失敗した人の経験を聞いて、同じ失敗をしないように注意をすることは有意義だ。(p.144)

 

 人間というのは、相手に対して褒めたり叱ったりするけれど、結局は、「自分の期待」に対する結果の到達度で、満足したり不満を持ったりする。ときには、その評価が、相手の「人間性」に向かうこともあるけれど、それは、人間性に期待していたからだ、と理解できる。
 自分自身についても、何らかの期待を無意識に持ってしまい、その結果、一喜一憂することになる。ということは、その期待の精度をもっと上げて、精確な予測をすれば、もう少し期待どおりになって、自分に腹を立てることも少なくなるだろう。(p.151)

 

 歳を取っても、自分の知識に立脚せず、自分の経験を活用しないような思考を心がけることがよろしい。稚拙であれ、未熟であれ、幼稚であれ、ということ。
 知らないことが馬鹿なのではない。知ろうとしないことが本当の馬鹿である。(p.172)

 

 戦うことは貧しさの表れだ、と僕は考えているけれど、それも、戦うことの尊さに隠れてしまうようだ。(p.196)

 

 人は、生きている間、ずっとなにかを作っているのだ。たとえば、料理は普通に思いつくだろう。それだけではない、人間関係、地位、権利、そして自由なども、自分の力で作るものだ。(p.223)

 

  余裕には、時間的なもの、金銭的なもの、スペース的なもの、がある。このいずれもが必要であり、さらに、能力的な余裕もあった方が良い。自分の能力の最大出力ではなく、少しセーブして臨む方が良い結果となる。目一杯ではなく、八分目くらいをリミットだと考えること。たとえば、〆切は早めに、資金は全額使わない、できるだけ広い場所で作業する、そして、疲れるまえにやめておく、などである。(p.233−234)

 

 自分の視点しか持っていない人、自分の気持ちしか考えていない人は、新たな「発想」ができない。他者の視点、他者の気持ちを想定すること、つまり、より高い視点に立つことで、新しいものに着眼できる。さらに新たな発想を可能にするのは「想像力」である。だが、まずは別視点に立つことが先決で、その視点から観測を行い、以前は見えなかったものに着眼し、それに基づいて考える、という手順になる。(中略)
 このように、多視点を持つことが、あらゆる「発想」の源と言える。革新的なアイデアをいつも思いつく人は、自分とは関係がないもの、自分と反対のもの、常識ではないものを見ているから、新しいことを発想する。これができる人が、「頭が良い」「天才的」と評価されるのである。(p241-242)

 

 多くの場合、問題を抱えている人というのは、問題を解決しようとしていない、といっても良い。解決したいというよりは、問題を曖昧にしたいのだ。このため、問題を明確にすると腹を立ててしまう。(p.263)

 

 

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