実はまだ読んでなかったベストセラー。
積読から取り出して読みました。
頷きすぎて、首が痛くなります。
「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~」(山口周 著、光文社新書、2017年7月初版)
企業にお勤めの方は、是非ともお読みいただきたい。必読書と言って過言でない。
また、「すでに本書が論じている内容は自分はわかっているし、共感もしている」という方も、もし周囲の方々を巻き込むことに苦心しているのであれば、本書を読むことで、どのように伝えれば周囲の人たちにも届きやすくなるか、ということを得られると思います。
世界のエリートが美意識を鍛える理由とは
要点は、「忙しい読者」のために、冒頭にまとめられています(p.14-21)。
世界のエリートが美意識を鍛える理由とは...
- 論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつあるから
- 分析的・論理的・理性的な情報処理スキルにより導かれる答えは同じになってしまう。しかも、勉強と練習で習得も可能なので、多くのビジネスパーソンがこのスキルを身につけた結果、「正解がコモディティ化」し、単純に正解を導き出せるだけでは「差別化」しづらい状況になっている。
- さらに、分析的・論理的・理性的な情報処理スキルだけでは、先行きを見通しづらく変化も激しいVUCA時代には「分析麻痺」を起こしてしまう。様々な要素が複雑に絡み合うような世界では、全体を直感的に捉える感性と「真・善・美」が感じられる打ち手を内省的に創出する構想力や創造力が必要になる。 - 世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつあるから
地球規模で経済成長が進み、飢えることなく生活できる人が大半になった現代では、世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある。「自己実現的消費」をめぐって戦うには、人の承認欲求や自己実現欲求を刺激するような感性や美意識が重要になる。 - システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生しているから
現代は、変化のスピードが速く、システムの変化にルールの制定が追いつかない状況。明文化されたルールや法律だけを拠り所にするのではなく、自分の中で「真・善・美」を判断するための「美意識」が必要になってきている。
経営における論理と直感、サイエンスとアートのバランス
組織に勤めていると、意思決定のためには、関係部署、上司、上司の上司、経営陣、株主、関係するお役所など、実に多数の人の了解を取り付けていく必要があります。
その時に必ず求められるのは「分析」や「論理」。
私自身の経験でも、稟議書の辻褄が合っていないなんていうのは論外で、論点がちょっとずれたり、論理を飛躍させていたりするところは、必ず突っ込まれました。
この背景にあるのは、本書の言葉を借りれば、「ビジネスにおける知的生産や意思決定において、「論理的」であり「理性的」であることを、「直感的」であり「感性的」であることよりも高く評価する傾向」(p.38)です。
ただ、確かに分析も論理も大切なのですが、ここだけを詰め過ぎていると、新しい発想が出てこなかったり、時間だけがやたらとかかる、といったことが起こります。
また、実際には、皮肉にも、「過去の優れた意思決定の多くは、意外なことに「感性」や「直感」に基づいてなされていることが多い」(p.38)。
これは、個人レベルで考えれば、誰にでも経験のあることだと思いますし、アップル社をはじめとするヒット商品を生む企業も、重要な判断はトップの感性によるところがほとんどだったりもします。
本来はもっと、感性や直感の力を信じていい。
なお、感性だけで論理はいらないと言っているわけではありません。それは「非論理」。
論理はあったうえで、それ以上に、説明はつかないけれども優先すべき感性がある時、それは「超論理」。
この論理と感性のバランスが本書のテーマであり、読者は、自社におけるそのバランスはどんなものだろうかと考えることにもなるのではないかと思います。
頼れる感性は養うもの
そして、今必要とされる「美意識」は、個々人の中で養うものだというところが肝だと思います。
特定の本を数冊読めば身につくものでもなく、決まった練習メニューをこなせば身につくものでもない。
生まれた時から今まで、本物に触れ、何を感じ、何を考えてきたか、ということによって養われます。
オフィスにいる以外の時間に何に触れているのか、ということでもあると思います。
海外では文系・理系を問わず「哲学」が必修科目になっていること、フランスのバカロレア(大学入学資格試験)には哲学試験がある、つまりフランスでは高校生から哲学を学んでいることなどは、本書で初めて知って驚きました。
少し脱線しますが、家柄や資本の格差というのは、持っているお金の量の違いそのものよりも、美意識を育む機会に恵まれていたかどうか、というところで表れてくるように思います。とはいえ、お金持ちでも美意識がない人もいます。だからお金があればいいっていう話でもない。でも、やっぱり良いものに触れようとするとお金がかかることが多いのも事実。
ヨーロッパなどでは、美術館の入場料が子供は無料だったり大幅割引だったりするのは、本当に素晴らしいなと思います。日本も「子どもの平等」について策を打つとき、単なるバラマキではなく、こういう美意識を養う機会が平等になることにこそ、お金とエネルギーを注いで欲しいなと思います。
いつも思うことですが、山口周さんの素晴らしいところは、みんながなんとなく思っているところを、見事に美しく言語化なさるところ。
そして、こういう反論はありそうだな、と思うところも先手を打って論を進めるところ。
そういう意見はお見通しですよ、というように。
言葉は鋭く厳しくもありますが、「わかる人にだけわかればいい」ではなく、その世界をまだ想像できない人と、新しいパラダイムとの間に架け橋をかけているところがすごいなぁと思います。
たくさんの本も紹介されているので、この新書1冊を読むだけで、もっと読んでみたい本が増えます。(この読書録の末尾にメモしておきます)
本書の初版は2017年。
出版当時から人気の本だったと思いますが、コロナ禍を経て多くの日本人の考え方やライフスタイルが変わった今こそ、本書の内容はより多くの人にとって実感値を持って読めるのではないかと思います。
まだ読んでいない方は、ぜひ、読んでみてください。
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