ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

彼女たちの部屋

お仕事で知り合った方からお薦めいただいて読みました。
多分、自分の感性だけでは出会わなかった本。
感情を揺さぶられる本でした。

彼女たちの部屋」(レティシア・コロンバニ著、齋藤可津子 訳、早川書房、2020年6月初版)

彼女たちの部屋

 

フランス・パリに実在する困窮女性の保護施設「女性会館(Palais de la Femme)」を舞台にした物語。

宮殿(パレ)とも言えるほどの豪華な建物。

著者はこの女性会館で取材もしているので、登場人物は実在ではなくとも、本の中で語られている、さまざまな女性たちの物語は現実に起きていることなのだろうと思います。

また、この施設設立の物語も織り交ぜられていて、20世紀初頭のパリやその頃の女性を取り巻く社会も知ることになります。

 

Palais de la Femmeについて
英語:https://museeprotestant.org/en/notice/palais-de-la-femme/
フランス語:https://fr.wikipedia.org/wiki/Palais_de_la_Femme


路上生活者(ホームレス)、家庭内暴力の被害者、薬物依存者、母の束縛から家出した女性、母国での戦禍や因襲(性器切除)を逃れてきた難民など。

メディアや映画やドラマなどで、そういう状況にある人たちがいるのは知っている。
路上で目にしてきたこともある。

けれども、どこまで心を寄せているか、何かをしているのかといえば、何か特に言えることはない。せいぜい心が動いた時の募金くらい。

 

本書に出てくるこの表現が本当によく表してくれています。

フランス国民が食卓につく夜8時のニュースで取り上げるには、気が利かない。夕食を終え眠りに就こうというとき、自宅アパルトマンの下で起こっていることを、人は知りたくない、目をつぶった方がいい

さらに訳者の表現は、私たちの多くの心理そのものと思います。

ソレーヌ(主人公)の態度も当初は消極的だ。軽蔑や無関心とまではいかなくとも自分の問題で手一杯、他人の悲惨な境遇には及び腰、気になっても躊躇して行動を起こせないといった微妙な心理が描かれる。

 

実際、この類の問題に自ら何か行動を起こすには、勇気が必要だと感じます。

何かに巻き込まれてしまうのではないか。
手が引けなくなるのではないか。
何か起きた時、自分に責任は取れるのか。

何より、人のつらい状況を目の当たりにするのは苦しいものです。

 

以前、海外出張の際、買いすぎたパンを出発までに消費できず、路上で物乞いをしていた年老いた女性に渡したことがあります。
それだけのことでも、とても勇気が要りました。
その時の女性の目、パンを入れた袋越しに伝わってきた力の感じは、今でも思い出せます。

 

情報として知ってはいるけれど、その実態からは目を背けているもの。

そこに起きていることを、本書は綴っていきます。

映画監督でもある著者の心理描写は、とてもリアルで、まるで映画を見ているよう。読む人の感情を揺さぶります。

 

こういうテーマに対して、直接的な支援活動に動こうという気持ちを持たれる方も、そうでない方も、両方いて当然と思います。

どちらでも良いと思いますが、いずれの場合であっても、

困窮するのは本人だけの責任ではないということ、
困窮している人たちの毎日がどのようなものであるのか、

それを知る人が増えるだけでも、きっとこの先の世の中のあり方は変わってくるのではないかなと。

私自身は、自分の今の持ち場をしっかりやることが、人が生きる喜びを感じられる世の中になっていくことに何かは役立っていると信じながら、この仕事しているんだな、と改めて感じる機会になりました。

日本全体、世界全体にとっては、とても小さな1滴にしかなっていないとしても。

本書で言うところの”ハチドリ”のように。

本書を読んで、目の前のクライアントさんや接する人だけではなく、その奥に広がる世界にも意識が向く気がしました。

 

世の中、本当に、知らないことが多すぎる。

せめて、まずは知るところから。

 


日本の現状も、気になって調べてみました。

●ホームレス問題の現状(ビッグイシュー基金:ホームレス・貧困問題を解決し、誰もが生きやすい社会をつくる)
https://bigissue.or.jp/homeless/
2022年調査で3,448人。その他に、ネットカフェ難民が4,000人くらいいるとも。

●配偶者からの暴力相談等受理状況(警視庁)
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/jokyo_tokei/kakushu/dv.html
2021年:8,011件。うち、女性が8割、男性が2割。
相談先はこちら。電話・メール・チャット。https://soudanplus.jp

●薬物依存関連
厚生労働省の薬物依存症対策について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubutsuranyou_taisaku/kaigi/zenkoku_r01/dl/s10.pdf
アルコール依存症患者数:4.6万人、薬物依存症患者数:2千人、ギャンブル依存症患者数:1千人。
相談件数はさらに多い。

日本における薬物使用・薬物依存の傾向(依存症対策全国センター)
https://www.ncasa-japan.jp/understand/drug/japanese
2017年全国調査:薬物を少なくとも1回以上使ったことがある国民は、全国で約216万人。うち大麻が約133万人。


救世軍(Armee du Salut、Salvation Army)についても、本書で初めて知りました。
神保町にある日本の本部の建物の側を通る度に、一体どういう組織なんだろうか?と訝っておりましたが、そういう団体だったのか、と本書を読んで調べて初めて知りました。
プロテスタント系キリスト教の慈善団体。困窮する人たちを助ける。宗教って本来はそういうものじゃないか、と、昨今のニュースを思い返しながら思いました。

 

 

お気に召す記事がありましたら、ぜひシェア頂ければ嬉しいです。また、もしこのブログを読んで、ここで紹介されている本を購入しようと思われた際は、このブログ内のamazonへのリンクを経由して購入頂けると幸いです。数十円の話ですが、私にとって皆様が本に出会うことのお役に立ったことを知る機会となり、励みになります(どなたが購入されたのかまではこちらではわかりません)。

 

前作の「三つ編み」