ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

総員玉砕せよ!

先日の水木しげるさんの展示会で見て読みたいなと思った本(漫画)。

総員玉砕せよ! 新装完全版」(水木しげる 著、講談社文庫、2022年7月初版)

1995年に出たものに、構想ノートなどの写真を掲載した新装版が今年出ています。

 

総員玉砕せよ! 新装完全版 (講談社文庫)

 

妖怪漫画、妖怪絵師として知られる水木さん。

妖怪と並ぶ、この方のもう一つの大きなテーマは戦争だと思います。

エッセイなどを読むと、何度読んでも、何度書かれていても、戦争や日本軍に対する強い憤りが伝わってきます。

その現地での様子を、「90パーセントは事実です」(あとがき)という形で絵に表した本作。

映画や小説などには描かれてこない、一兵卒の視線と現地での実情。

 

いや、もう、日本って、本当にひどい国だな、おそろしい国だな、と思わざるを得ません。

人の命がこんなにも軽く扱われてしまうなんて。

現場を知らない”上”の人間の馬鹿げた命令が通ってしまうなんて。

真っ当な声、真っ当な提言が、こんなにも聴き届けられないなんて。

 

どんな過酷な環境に行ったとしても、人間の人間としての欲求は変わらない。

食べたいし、生きたい。恋もしたい。

 

けれど、総員玉砕!と命令が下れば、もう死ぬしかない。

それが、弱冠27歳の”大隊長”の「死に場所を得たい」というエゴからくる命令だとしても。

一度大本営に玉砕したと報告してしまったからには、それと異なっているのは許されない、示しがつかない、という、異常な硬直性からくる理不尽な命令だとしても。

生き延びることが罪になる。

 

玉砕したとしてもどれだけ敵に損害を与えられることか・・・。
どうして食うものもろくに食っていない我々が、こんな陸の孤島のようなところで死なねばならぬのです。
いったいこの高地はそうまでして守る必要のあるものなのですか。
それ自体が大きな喜劇じゃないですか。(中隊長)

 

君はだまって俺と一緒に死ねば良いのだ(大隊長)

 

生きるのは神の意志ですよ
自然の意志なんですよ
虫けらでもなんでも、生きとし生けるものが生きるのは宇宙の意志です
人為的にそれをさえぎるのは悪です(兵士の命乞いをする軍医)

あなた方は意味もないのにやたらに人を殺したがる
一種の狂人ですよ
もっと冷静に大局的にものを考えたらどうですか

もっと命を大事にしたらどうですか (軍医)

 

一体なんのための玉砕なのか…
なんのための自決なのか...  (自決を命じられた兵士)

 

出征の際、戦地にて、そして帰還後も、ずっと水木さんご本人が日本中に言いたかったこと、
次々と死んでいった仲間たちがきっと感じていたこと、本当は言いたかったであろう悲痛な叫びが、込められた作品だと思います。

 

「将校、下士官、馬、兵隊といわれる順位の軍隊で兵隊というのは“人間”ではなく馬以下の生物と思われていたから、ぼくは、玉砕で生き残るというのは卑怯ではなく、“人間”として最後の抵抗ではなかったかと思う」(あとがきより)

 

原発や大空襲で被害者ではあるけれど、戦争の痛ましさを引き起こしたのは、決して敵国だけではない。暴走を止められなかった日本自身も加担している。

 

今、「これはひどい」と思いながら読む読者たちも、いざ戦争が始まると、この愚かな思考になったりするのかもしれない。

 

「戦争だというのにリクツばかりいうな」

 

日本がそういう極端な思考になりやすいところもあるでしょうし、
そもそも戦争というものが人に通常の判断をできなくさせるものである、ということでもあるのだろうと思います。
まるで戦地に送られる人数が、まるで弾薬を数えるのと同じように数えられる。
だからやっぱり始めてはいけない。ロシアとウクライナの報道を聞いていても思います。

 

戦争を経験した方々がどんどん他界されていく今、こうして残してくださったものをつないでいくことは大事だなと思います。

 

文章で読む水木サンの言葉も、とても沁みます。

ぜひ漫画でも、本でも、両方で水木さんのメッセージを受け取ってみてください。

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