なんとも気味の悪い本でした。読後も気持ち悪さが残ります。
「23分間の奇跡」(原題:The Children's Story... but not just for children、ジェームズ・クラベル氏 著、青島幸男氏 訳、集英社 1983年9月初版)
実家の本棚で、すぐに読み終わりそうなものを探して手に取ったら、偶然にも、今のような、第二次世界大戦などを思い出してしまう時に相応しい本。
一見美しいストーリーを想像する邦題には違和感がありました。が、またこのギャップがぞっとする感じを助長していて効果的なのかもしれません。
舞台は小学校。新しい先生がやってくるところから始まります。
読み始めればすぐに、それは敗戦国の小学校に、戦勝国の若い魅力的な先生が来たというシーンであることがわかります。
内容は、先生と子どもたちのやりとりだけ。
子どもでも読めるようにひらがなで、とてもやさしい文体で書かれています。
優しく、子どもたちを受け止めながら、とてもわかりやすく、もっともらしく、新しい考えに誘っていく。
あなたたちは悪くない。あなたたちのお父さんもお母さんも悪くない。ちょっと勉強のし直しが必要なだけ。前の先生がダメだっただけ。
ほら、こういう考え方、いいでしょう?
キャンディーもあげるわ。
びっくりしていた子どもたちも、たった23分で新しい先生を好きになっていく。
懐疑的な子どもですらも先生のことが好きになっていく。
いとも、簡単なこと。
ひとつの教義に染め上げていくことなんて。
戦後に限らない。
あらゆる教育に言えること。
私たちが受けてきた教育も、どこかの国で行われている教育も。
子どもだけじゃない。大人だって。
どこかの宗教にも言えること。
どこかの組織や会社にだって言えること。
それくらい、私たちの心理なんてチョロいもの。
じゃあ、どうしたらいいんだろう。
どうしたら、自ら、考えていける人が育つだろう。
答えが出せない問いを突きつけられてモヤモヤします。
今私が言えるのは、せいぜい、いろんな本を読み、いろんな歴史を学び、いろんなバックグラウンドの人・いろんな文化の人に、自分から触れていくことが大事だということ。
みんながそれをやってくのが大事なんだということを伝えていくこと。
それは、とても忍耐と根気のいること。
第二次世界大戦後に丁寧に慎重に積み上げられてきたいろいろなものが崩壊していくのを感じてきたこの6〜7年、そして今回のウクライナ危機で、ひとりひとりのコツコツとした営みが全て無意味にも感じてしまう、そんな中でこんな本を知ってしまい、ますますモヤモヤしています。
影響力、という意味で思い出す本:
改めて「独立自尊」を掲げた福沢先生が偉大に思えます。