パーソナルトレーナーさんが貸してくれた本で、昨年読みました。
サナダムシ(寄生虫)を腸の中に飼っていたという東京医科歯科大学名誉教授の著書。
高校時代の保健の授業で、サナダムシに寄生されるとそれはそれは恐ろしいことになると教わった記憶が鮮明に残っており、そのサナダムシをわざわざ飼うっていったいどういうことだ?!、とびっくりして本を貸して頂きました。
いろいろ知らないことが沢山。
2015年の本ですが、コロナ禍の今に読むと、なかなかに考えさせられました。
「腸内細菌と共に生きる ---免疫力を高める腸の中の居候---」(藤田紘一郎 著、技術評論社、2015年2月初版)
主張は一貫しています。
人間の腸にはおびただしい数の腸内細菌が棲みついていて、それが私たちの消化を助けるだけではなく、私たちの免疫システムにも貢献している。
脳内の"幸せ物質"として知られるセロトニンやドーパミンも元々は腸で作られている。
腸内細菌は体質もメンタルも左右する。
細菌を排除しすぎることは逆にアレルギーなどを生む。
なので、細菌とうまく共生していこう。
私はヨーグルトなど大好きでよく食べますし、腸内環境を整えるのが健康には大事、ということはわかったような気になっていましたが、
本書を読んで、腸内細菌について何にもわかっていなかったということが、よくわかりました。
ましてや、腸内細菌と”共生”することについては、読みながら咀嚼するのに少々時間がかかってしまったほどです。
”共生”とは何か
この本を読むまで、私は、腸内細菌というのは、「自分の一部」のように理解してしまっていたのですが、これは完全な他者なのだ、と認識を新たにするところから読書が始まりました。
腸は体の中にあるので、腸内細菌が体内に住み着いているように思ってしまいますが、そこは腸という一本の管なので、厳密に言えば内部ではないのです。腸内細菌の大部分は小腸の表面に付着しています。棲み着いている菌たちからすれば、内部であろうと外部であろうと関係はありませんが、体内に取り込まれてしまっているわけではありません。(p.19)
では”共生”とは何なのか。
共生は「共に生きる」と書きますが、生物の進化の歴史の中では、共生よりまず生き延びることが優先されていました。生きることは生き延びること、それは進化というより、いまも続いている生物の生存の基本にほかなりません。(中略)
一般的には、「一つの生存圏に多種多様な生物が棲んでいる状態」を共生と呼ぶことが多いかもしれませんが、ここでは範囲を絞り、「一つの生き物に他の多様な生き物が一緒に棲んでいる状態」を共生と呼びたいと思っているのです。
こうした共生は、生物の進化だけでなく、いま生きている私たちにとっても無縁なものではありません。「共に生きる」ことを前提にして生命活動が営めているからこそ、健康を維持し、元気に過ごすことができているのです。(p.10)
「異物が体に共生しているなんてあまり気持ちがよくない」とイメージする人もいるかもしれませんが、生物の歴史をひも解いてみると、「異物ありき」「共生ありき」でここまで来たのが現実です。(p.16)
そして、私たちの体の中にいる異物の代表格が腸内細菌。
原初の生き物のなかで、いまでも我々の体を牛耳っているのが、一番古い時代の細菌たち、その代表が腸内細菌です。
(中略)こうした菌たちは酸素がない状況で増殖していく、太古の時代さながらの生活を腸内で続けています。
私たちのお腹の中では40億年前につくられた小宇宙がいまも残っていて、文字通り、我々が生きていくための物凄い大きな力を宿している、ということになります。(p.15)
簡単に言えば、私たち一人ひとりの人間に、細菌、という別の生物がくっついている。
野生の動物の皮膚や毛の中にはいろんな虫がくっついていたりしますが、イメージ的にはそれと同じようなことと言ってしまってもいいのかもしれません。
そして驚くべきはその腸内細菌の数…
なにしろ、腸内細菌はものすごく種類が多く、ここ数年の研究で3万種類は存在すると言われるようになりました。これまで腸内細菌は100種類・100兆個ほどだと考えられてきましたが、これは培養できる菌だけを対象にしたものでした。遺伝子検査でわかるようになってきたら、その数が3万種類・1000兆個以上というふうに変わってきています。(p.31)
自分の全身にぎっしり、特に腸を中心に、3万種類の、1000兆個の細胞がくっついている。。。
ちょっと想像してみるとゾワゾワします。
ただ、その細菌は、大いに私たちの役に立ってくれている、私たちを守ってもくれている、ということを学びました、
ヒト様が細菌を棲まわせてやってる、などとゴーマンな考えを持ってしまっているとしたら大間違いです。
栄養を摂れるのも、細菌のおかげ
私たちは食物から栄養を取り出して摂取していますが、それも腸があるだけでは機能しないようです。
面白いことに、ヒトを含めた宿主には消化する力が備わってはいますが、自前の消化力だけでは栄養を十分に取り込めないため腸内細菌に頼らなくてはなりません。消化管(腸)がぜん動さえすれば、食べ物が分解され、吸収できるわけではありません。初めから異物との共生ありきで消化の仕組みが作られているのです。(p.19)
例えば、食物繊維。
ヒトはセルロース(食物繊維)を分解する酵素を持っていませんが、腸内細菌はそれを分解してくれます。もともと食物繊維は栄養素としては使えないものでありながら、腸内細菌によって重要な栄養素に変えられているわけです。(p.27)
ちなみに、どんな栄養をどれだけ取り込むのかも、腸内細菌の働きによるようです。
太るということは食品中のカロリーの摂取量が多いか少ないかではなく、「どういう腸内細菌が棲んでいるか」によって大きく変わってくるということ(p.149)
アメリカでは、痩せている人の便から腸内細菌を抽出して太っている人に移植すると、太っている人も痩せたという事例もあるそうです。「便移植」なるこの治療法はダイエットに限らず他の病気の治療にも使われていく可能性があるそうです。
病気にならないのも、細菌のおかげ
私たちの体を守る一つの代表格は白血球。身体への異物の侵入に対し体を守る働きをしてくれます。
ただ、そこには腸内細菌の働きもあります。
免疫に関して面白い話をすると、マクロファージやリンパ球だけでなく、腸内細菌もその働きに一役買っているという事実があります。
たとえば、O-157のような病原性大腸菌が入ってきた時、腸内細菌の共生がうまくいっていると自然と追い出されてしまいます。自分の免疫の力をことさら用いなくても、異物であるはずの腸内細菌がそうした病原体を自然と排除してくれるのです。
免疫のシステムは、腸内細菌も含めて成り立っている。(中略)免疫とは白血球だけの仕事ではなく、腸内細菌との共同作業として行われているものなのです。(p.20-22)
どれくらいの免疫がそこで作られているかといえば...
腸内細菌は、白血球のような免疫細胞と協働して、よく知られているように、腸内でから体全体の免疫の70%くらいを作っています。
免疫の大事さ、そのための腸内細菌の大事さについては本書の中で何度も説かれています。
最近では遺伝子検査なども進み、個々人のリスク要因も明らかにできるようになってきてはいますが、エピジェネティックスの考え方では、リスクのある遺伝子を持っていたとしても、発症するかどうかは環境によると。
ガンになりやすい遺伝子を持っていても、ガンになって早く死ぬとは限らないのです。(p.152)
ガンに限らず、大病された方や、余命何年と言われたはずの方がその後健康になって日常生活をするという実例も見聞きしていますが、それには偶然や幸運というだけではなく、もしかしたら腸内細菌の力も借りながら自ら治癒し回復する力が備わっていったということもあるのかもしれません。
ご機嫌でいられるのも、細菌のおかげ
幸せを感じさせてくれる"脳内”物質として、セロトニンやドーパミンがよく知られています。
この大元の出どころは脳ではなく、腸だとは初めて知りました。
セロトニンもドーパミンも脳に起源があるわけではなく、食べ物に含まれるタンパク質を原料にして腸で作られています。タンパク質は腸でアミノ酸に分解され、そのうちのトリプトファンやフェニルアラニン、グルタミンに腸内細菌の作ったビタミンが加わることで、セロトニンやドーパミン、GABAが作られているのです。(p.34)
当たり前といえば当たり前なのですが、私たちの体は、全て食べるもので出来ているんだなということも感じました。
また、藤田教授は、別のご著書「脳はバカ、腸はかしこい」で、脳よりもよっぽど腸の方が信頼できると書いていらっしゃいます。この辺り、確かに、納得感があるのです。
そもそも、心配事が起こったり、不安を感じたりするのは、腸に問題があるからで、脳が悪いわけではないことを知る必要があります。
腸をちゃんと元気にしておけば、余計な心配や不安は湧いてこないのです。それがわかれば、日常の不安への対処法も変わって来るでしょう。共生がうまく行っていないから気持ちがアンバランスになっているわけです。
(中略)心配は日常的に誰もが感じていることだと思いますが、よほど腸内細菌がバランスを崩していないかぎり、大部分の人は「大丈夫、何とかなる」と思って生きているでしょう。こうした感覚は頭でコントロールできるものではなく、じつは腸がやっているのではないかということです。(p.111-112)
ということで、心身ともに健康でいられるのは腸内細菌との共生がうまく出来ているから。
調子がいい、元気であるのは、共生のバランスがうまくとれているから(p. 126)
寄生虫との共生
さらに、藤田教授が考える「共生」の相手方は、腸内細菌にとどまらず、回虫をはじめとする寄生虫にまで及びます。
かつて日本人のお腹の中にもたくさんの寄生虫がいて、その頃はアトピーやアレルギーはなかったと。それらの寄生虫がいてくれることで、アレルギー反応を起こさないような物質を分泌してくれていたりしたものが、寄生虫を排除し始めたら、そのバランスが崩れて、アトピーなどが増えたと。
なるほど、と思いました。詳しくは、本書をお読みください。
別書「笑うカイチュウ」などにも詳しく書いてあるのかもしれません。
笑ってしまうのは、この説を唱えていたところから、自分でサナダムシを飼うことになる件。
テレビ朝日の番組で、田原総一朗さんとのやりとりで「先生、回虫が体にいいと言ってるけど、あなた自分で回虫飼ってるのですか」とけしかけられて、その後、サナダムシ(日本海裂頭条虫)を飲み込んだのだそうです。
ちなみにサナダムシというのは、最初は1センチくらいの虫ですが、1日で20センチも伸びます。1ヶ月で6メートルにもなり、卵を1日200万個もうむため、宿主から多くのエネルギーを横取りします(p.88)。私が高校の保健の授業で習ったのは、サナダムシに寄生されると、頭の部分が腸に噛みついて離れず、お尻から出てくる尻尾を切っても切ってもまだ伸びてくる、という話でした。強烈に記憶に残っています。
で、藤田教授はこの飲み込んだサナダムシに「キヨミちゃん」という名前をつけて愛情を持って飼っていらしたとのこと。サナダムシが雌雄同体で、一つの体節の中にオスの性器とメスの性器を持っているため、男でも女でもない名前をつけている(p.86)、というあたりにもこだわりを感じます。
サナダムシをお腹に飼っていると、太らなかったり、健康状態が良かったり、心が穏やかになったりもするそうです。
細菌を排除していく社会の行く末は
だからあなたもサナダムシを飼えとまでは言わないものの、藤田教授が警鐘を鳴らし続けているのは、こういう共生の元に私たちヒトの健康は成り立っていたのに、清潔至上主義となりすぎていないか、ということです。
それではかえって生命力は落ちてしまうぞ、と。
例えば、O-157の話。
1996年に大阪でO-157が流行した時、堺市が小学生全員の便を検査したのですが、どの子供の便の中にもO-157がたくさんいたにもかかわらず症状はまちまちで、一回も下痢をしない子供が30%もいました。一方、ちょっとした下痢をした子供が60%。重症になって入院した子供は全体の10%だけでした。
それで、どういう子供が入院しているかを調べたら、わかりやすく言うと、みんな山手の一戸建てに住んでいたのです。しかも、お母さんがめちゃくちゃ神経質で、きれい好きでした。こうしたお母さんは、菌はすべて悪いものだと思って排除しようとする。その結果、免疫そのものが弱くなって、O-157に対する抵抗力が弱まっていったと考えられるのです。
一方、一回も下痢しなかった子供は、下町に住んでいて泥んこ遊びばかりしていた、いわゆる汚い子供でした。腸内細菌を調べると、そうした子は腸内細菌がちゃんと共生していて、O-157を取り込んでも重症化していないのです。(p.22)
この後に続くノロウィルスの感染事例についても同じようなご意見です。
免疫さえしっかり働いていれば、何の問題もないことがわかります。そもそもノロウィルスなんて、人に感染しても全く症状が出なかったため、昔は名前すらついていなかったのです。
要は、免疫が落ちてきたことで、感染症が顕在化してきた。免疫力を高めるための提案をするならともかく、ただ手洗いやうがいだけで解決しようなんて、どだい無理な話です。
過去の時代において感染症でたくさんの人が亡くなったことは事実ですが、清潔にすれば病気が防げるという考えは大きな誤りです。近代医学はその発想で異物を除去し、結局、「キレイ」を目指すことで共生を排除してきました。しかし、それで健康になれたかというと、そんなことはまったくありません。昔なら何でもなかったような菌やウィルスに、現代人はたやすくやられてしまっているのです。
テレビを見ていると、石鹸でゴシゴシと皮膚の常在菌を無くすことを熱心に進めていますが、いったいどこまで続けるのかと思います。「かかっても平気な人間になりましょう」というキャンペーンをする番組が一つくらいあってもいいかと思うのですが、みんな判で押したようにキレイ、キレイと言っていますから、この先も免疫は落ち、体はますます弱くなって、何でもない菌にやられてしまうでしょう。(p.26)
コロナゼロが無理であることが明白となり、これとどう生きていくかということに直面している今、このメッセージには大いに共感します。
また、腸内細菌は幼児期にできていくため、お母さんがどんな考え方やスタンスであるかは、赤ちゃんの腸内環境に影響しそうです。
赤ちゃんは、お母さんお腹の中にいる時は無菌で育っています。つまり、免疫ゼロの状態です。いわばゼロの個体が、いきなりこのバイ菌だらけの娑婆へ生まれてくるわけですから、生き延びるためには短い期間に免疫を高めて行かなくてはなりません。具体的には、ばい菌を口に入れて抗体を作らないといけないのです。
赤ちゃんがいろんなものを舐めたがるのもそのためで、体に備わった本能で免疫を作っています。そうすることで、無菌で育った赤ちゃんの腸内はあっという間に細菌だらけになりますが、すでに異物に対処できる免疫もついています。
これは、ほかの生き物も当たり前のようにやっています。たとえば、ユーカリを無毒化する酵素を、生まれたばかりのコアラは持っていません。そのため、コアラの赤ちゃんは生まれたら母親の排泄する「パップ」と呼ばれる離乳食を食べたり、土を舐めたりして腸内細菌を増やし、酵素を作り出そうとします。そうしないと、ユーカリを食べられず、生きていけないからです。
同様に、パンダも生まれたら必ず土を舐めたり、お母さんのウンチを舐めたりしますが、それもそうしないと笹を消化する酵素が作れません。このように生まれた直後から共生が始まり、互いに助け合いながら生きる関係が続いていくのです。(p.46-47)
もし、あまり面倒見てあげられなかったわ、と罪悪感を感じていらっしゃるお母さんは、むしろいいことをしたかもしれません。
今、ちょっと手をかけすぎているお母さんは、もう少し自由にさせてあげてもいいのかもしれません。しつけのためというよりは、生涯にわたる健康管理という意味で。
2020年のコロナ禍から徹底的な消毒がますます行われるようになって、生後もずっと無菌状態が続いているような2020年〜2022年に生まれた赤ちゃんたちの免疫力は大丈夫かな、とちょっと心配にもなりました。
本書からは、他にもいろんな学びがありました。善玉菌だけでは免疫はあがらず、"チョイ悪菌"が必要だとか、腸内環境が脳の発育や性欲にも影響するとか、サナダムシをお腹に飼うと自殺しなくなるとか、便の構成成分は水分を除くと50%が腸内細菌の死骸であるとか、どれくらいの菌たちと共生しているかで便の大きさや状態も変化してくるとか、かつては人間がかかることのなかった食中毒や感染症が発生する経緯など。
興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。
この本を読んでから、何を食べたいか迷う時に、自分の頭ではなく、自分のお腹に棲む細菌に聞いてみるようにしました。気のせいか、うまくいってる時は、ちょっと調子がよかった気がします。
その細菌を無視して、「今はこれが食べたい!」と脳に暴走させてお酒や脂肪を多く取りすぎると、だいたいその後体調を崩す、ということを繰り返しています(学ばない・・・)。
自分と自分の腸の中に棲む細菌のバランス、リズム。
自分なりのそれを身につけていくことが大人になっていく、成長していく、ということかもしれません。
もう一つ、この本を読んで湧いているのは、「問題」を解消することが本当に正しいのか?という問いです。
身体のことに限らず、心の中のことでも、私たちはついつい「問題」を排除しようとするけれど、それが本当に目指すところだろうか?
不快なものだけど、それと共生する。
そんな世界観だったら、今までとは違う社会を創っていけるのかもしれない?と思ったりします。
この辺りは、いずれ、「ここみち便り」(毎週水曜配信のメールのお便り)や「独立後のリアル」(毎週金曜配信のポッドキャスト)などで書くなり喋るなりしてみたいと思います。
今回は、長くなりました。お付き合いありがとうございました!
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