ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

近江商人の哲学 「たねや」に学ぶ商いの基本

たいへん面白かったです。

近江八幡のたねや創業家10代目の方の本。

和菓子の「たねや」、洋菓子の「CLUB HARIE」の社長、と言った方が話がはやいかもしれない。

近江商人の哲学 「たねや」に学ぶ商いの基本」(山本昌仁 著、講談社現代新書、2018年8月初版)

近江商人の哲学 「たねや」に学ぶ商いの基本 (講談社現代新書)


先日、滋賀県に旅行に行ってきた際、たねやグループのフラッグシップ店「ラ コリーナ」に寄ったときに入手しました。

お菓子を買う行列に並ぶよりも、こっちを買ってしまうところに私の趣味趣向が表れているなとも感じます。

たねや、クラブハリエ、ラ コリーナをご存知ない方のために少し補足。

たねやは、滋賀県・近江八幡の和菓子屋さん。
クラブハリエは、たねやさんが始めた洋菓子ブランド。バームクーヘンで一躍有名に。
今や、たねやグループ全体のスタッフは2,000人、うち1,100人強が正社員(p.20)。

ラ コリーナは、近江八幡の古い街並みのエリアからまた少し離れたところに創られた、店舗 兼 たねやさんの世界観を表現したような場所。
近江八幡の観光客は年間80万人程度だったところ、2015年にラ コリーナがオープンすると2017年には285万人がラ コリーナを訪問するようになり、今や、ラ コリーナが滋賀県一の観光スポットになってるそうです。

本書で知ることができるのは、たねやの歴史、現在のように繁盛するまでの道のり、創業家の哲学、山本昌仁氏の哲学・美学など。

10代も続く創業家のストーリーとしてもとても面白かったですし、和菓子業界、洋菓子業界の裏側を知るという意味でも大変興味深く拝読しました。

初代(江戸時代)は材木商だったこと、
散財して全財産を失くしたところで穀物や根菜類の種子を売る仕事に転じたこと、
明治5年(1872年)に、7代目当主が菓子屋に転じたことなど、
へぇ〜と読みました(p.20-21)。
種屋をやっていたから「たねや」なのか!と。

小さい近江八幡のエリア内に、たねやグループの店舗は3箇所(和菓子と洋菓子を別カウントするなら4箇所)あり、私は、それらの店舗を先に見てから本書を読んだので、それぞれに込められた想いなども知って、なるほど、そういうことだったのか、とますます楽しく読めました。


たねやさんに限らず、街中で繁盛しているお店を見ると、商品も、パッケージも、接客もどれも素晴らしく、買い物しても気持ちがいい。
もちろん食べても美味しい。
つい、これが何の苦労もなくできていると感じてしまうのですが、
実はその裏に、とても深くまで考えられた美学や、とてつもなくたくさんの試行錯誤がある。
ここを知らずして、ここをやらずして、表面的だけ真似たところがあっても、それはすぐに見破られるか、もしくは長くは続かない。
本書からは、たねやさんが大事にしてることや、昌仁社長の探究心やこだわりなど、信念などが伝わってきます。

私が特に素晴らしいなと感じたのが、社長がお菓子以外のいろんなところにアンテナを立てて、日本国内外いろんな場所、いろんな業種、いろんな優れた方々に会いに行って話を聞いたりしているところ。

これはきっとご自身も楽しんでやっていらっしゃることと思いますが、これをひょいひょいとできるかどうかで、世界の広がり方はだいぶ違うと思います。

 人に会うほうは、建築家や設計士に限らず、いろんな分野の方からお話を伺いました。ちょっとでも面白そうな人がいたら会いに行く。持続可能な社会のあり方を研究している方、あるべき経営のあり方を研究している方、昆虫の研究をしている方、ロボットやAIの研究をしている方……、いろんな大学の先生に会いました。(p.131-132)

こんな中から、ラ コリーナのロゴをデザインした建築家・デザイナーのミケーレ・デ・ルッキさんとの出会いも生まれています。

さらには、各方面での学びを実際の経営に本気で取り入れているところも、なかなか簡単ではないことです。

 ラ コリーナの本社棟を作るにあたっては、アメリカでさまざまなオフィスを見学しました。グーグル、フェイスブック、アマゾン、ワーナー、ピクサー、ディズニー……。Google本社にはビーチバレーコートもボウリング場も子供が遊べる公園もあります。アマゾン本社はまるで植物園のようです。そこにいるだけでワクワクするし、想像力が溢れてくる。
 ラ コリーナの本社には遊び道具があったり、不思議なオブジェが並んでいたり、入り口にブランコがあったり、無駄なものがいっぱい置いてあります。若手作家の造形作品とか、芸術学校の生徒の卒業制作とか、気に入ったものがあれば並べます。スタッフの目を肥したい。数字ばかり眺めていても、何も生まれませんから。
 こうした遊び心は、アメリカのオフィスから学んだものです。それまで愛知川工場にあった本社には、笑ったら怒られるような雰囲気があった。それを「笑わなければ怒られるような場所」に変えたかった。(p205)


また、変えることと変えないことをしっかり見極めているところ。
伝統を守ること=何も変えない、ではない。

 私は伝統とは「続けること」だと思っています。では、続けるために何をすべきなのか?時代に合わせて変えるしかない。伝統を守るとは、変えることなのです。(p.233)

実は私はあんこを食べないので、これだけあんこを大事にしてらっしゃるたねやさんの価値を多分理解しきっていないのだと思いますが、伝統も大事にしていただきつつ、あんこを使ってない和菓子も、もっと増えていくと嬉しいな、などと思いました。


たねやや和菓子にかける思いも、とても心に響きましたが、もう一つ、とても共感したのは、滋賀県や近江八幡に対する思い。

今回、初めて滋賀県を訪問しました。

彦根、安土、近江八幡、信楽、大津、坂本、比叡山、琵琶湖。
どこも本当に素晴らしかった。
誤解を恐れずに言えば、ちょっと地味な印象の滋賀県。
それは、何も人の注目を集めたりするようなことをしなくても、もともとがこんなに豊かだから、なのかもしれないなぁ、と思いました。

電車の便があって、現代の生活も便利。
一方で、美しい水田が美しいままに残ってる。お米も美味しい。
周囲の山々は美しい景色を作ってくれてる。と言って近すぎるわけではなく、行こうと思えばすぐに行ける。
たぷたぷと豊かで穏やかな琵琶湖。
古くから人の往来があったせいか、よそ者にも開かれている感じがする。
古い時代から培われている文化と美意識。

滋賀県出身の友人は、皆どこか大らかで、柔らかい感じがしますが、これはこの県ゆえなのかも、と思ったりしました。

無用な競争心でギスギスする感じもなく、こういう場所で生活すると、もしかするとコーチングとかもいらないのでは、と思ってしまったりしました。

旅の行き先におすすめです。
私も、ぜひともまた、今度はもっとゆっくり、訪れたいと思っています。

 

 

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