ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる

「良いものを作ったからといって売れるわけではない」と言われて久しく、ブランディングやマーケティングの重要性が説かれてきましたが、
最近は、埋もれるくらいならまだマシで、容易に製品やサービスも真似されてしまう時代。
一方で、何かを作る前からクラウドファンディングでお金が集まっていたり、無料配信から始めたYouTuberがそれが事業になっていたりする時代でもあり。

こんな時代は何が売れるのか。どういう売り方が売れるのか。

しばらく前から起きていることが、スッキリ言語化されていて、とてもよくわかる本です。
この新しい時代の売り方の弊害などについても述べられているのも良いなと思いました。

著者の意見を一から論じるというよりも、著名な方々や研究者たちの論をわかりやすく紹介し、それが今の時代にどう影響しているかを洞察をまとめた本という印象。
引用も出典が明記されているので、もし、ここ数年のビジネス系のベストセラーが積読になっているなら、この本は、それらの概要を知り大きな流れを知るのに助けになるかもしれません。

私自身もひとりのフリーランスとして、とても自分ゴトとして読めました。

プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる」(尾原和啓氏 著、2021年7月初版、幻冬舎)

プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる (幻冬舎単行本)

プロセスエコノミーとは

本書によれば、「プロセスエコノミー」は、クリエイターの制作現場をライブ配信する「00:00 Studio」創設者のけんすうさんが言語化した言葉。
最終製品ができてから売るのではなく、それができていくプロセス(過程)も売る稼ぎ方。

今の世の中、モノはもう十分足りてる。差別化ももう限界。
新しいアイディアで一歩先に行ってもすぐに真似られて追いつかれる。

一方、「プロセス」はコピーできない。著者は「人もモノも埋もれる時代の新しい稼ぎ方」と表現しています(p.4)。

kensuu.com

 

プロセスは、確かに、人の興味を引きます。

例えば、工場見学が好きなのは、きっと私だけではないと思います。
先日京都に行ったときにも、新京極でロンドンヤさんの「ロンドン焼」なるカステラ饅頭の、ガラス越しに見える製造工程があまりに面白くて、かなりの時間そこに釘付けになり、あんこは苦手なのに、買ってしまいました。

会社も、カンブリア宮殿などで社長のストーリーを聴くと、俄然興味が湧きます。

プロセスはこれまでもマーケティングの一助になっていたと思いますが、
プロセスエコノミーでは、現在進行形のプロセス自体にもお客さんを巻き込んでしまい、お客さんにも楽しんでもらいながら一緒に商品を作っていく、というカタチと理解しました。

 

モノが満たされた後に人が欲するもの

今の時代は、必要なモノはだいたい家にそろってる。
欲しいものも、たいていのものはお金を工面すれば手に入る。

著者は、生まれた時からこういう状態である30代以下を「乾けない世代」と表現していて、
その世代が求めるのは、マーティン・セリグマンが唱えた「幸せの5つの軸」の中の、
「達成」や「快楽」を除く、「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」だと。(p .27)

「良好な人間関係」の中には、所属意識のようなものも含まれると思われます。
昔のように、会社=家族みたいなもの、ではない現代。
それでも人はどこかに属したいもの。

その所属意識も、何でも良いわけではなく、「自分のアイデンティティを支えてくれる、自分の所属欲求を満たしてくれることをブランドに求め始めている」(p.38)。

「人々は商品そのものだけではなく、そのブランドのメッセージに自分の生き方を重ね合わせているのです。そしてそれはアウトプットに至るまでのプロセスの共有においてなされるのです。」(p.43)

プロセスエコノミーでは、消費者も生産者の活動に参加するので、”消費者としての賛同者”という立場を超える感覚になれると思います。

しかも、それが自分の得意な形で参画できたら「没頭」の機会もついてくる。

「意味がある」については、引用されていた山口周さんの言葉に大変共感しました。

(コンビニで)ハサミやホチキスは1種類しか置かれていない一方で、タバコは200種類以上が置かれている。なぜそういうことが起きるのかというと、タバコは「役に立たないけど、意味がある」からです。
 ある銘柄が持つ固有のストーリーは他の銘柄では代替できません。
 (中略)
 つまり、「役に立つ」というのは1種類でよく、価格勝負になりやすく、勝者総取り。
 (中略)
 役に立つものというのは1つあればいいということです。
 (中略)
 しかし、かたや機能性ではなくストーリーがあるものに対しては1つでなくて構わない。むしろ多様性がありなおかつその価値はかなり高い。(p.29-32、引用元:ニュータイプの時代


プロセスエコノミーでは、人々のこういった欲求に応えることができると。

 

プロセスエコノミー、どうやってやればいい?

詳しくは本書でご確認ください。

まずファンが大事。
「たとえ少数でも熱いファンを作ることは大きな武器になるのです。」(p.14)

例えば製品やサービスのユーザーがきっと一番ファンに近い。

「作り手一人では限界があるので、ユーザーをファンにし、セカンドクリエイターとして巻き込み、熱量を上げていく必要があります。
 ファンがコミュニティになっていけば、ファン一人一人が新しい物語を生み出し、さらに熱量も上がり、新しい人をひきつける。そしてその結果、多様な物語が生まれ、さらに新しい人を惹きつける……。仕組みとして価値がたまるので、他の企業やサービスと埋めようのない差が次第に生まれていきます。」(p.15)


ファンになってもらうためには、そして、巻き込まれてもらうためには、「Why」が大事。

私も大好きなサイモン・シネックのTED Talkが引用されています。

People don’t  buy what you do: They buy why you do it.(p.110)


この動画は何度見たかしれません(本書でも紹介されてます)。
サイモン・シネック TED Talk:優れたリーダーはどうやって行動を促すか(字幕あり)

www.ted.com

 

Whyが共有されることで、人は共感し、共に創り出す人になる。

この時の共感は、「Sympathy」(気持ちに寄り添う、同情的な共感)ではなく、「Compassion」(信念や思いを共に持つ共感)の方。

そして、「決まったゴールに向かって正確に歩き続ける「オーケストラ型」ではなく、どこに正解があるかわからない中で答えを探す「ジャズ型」」のような協働で(p.85)。

別の言葉で言えば、正解がわかってから進む「正解主義」ではなく、やりながら修正していく「修正主義」で。(元リクルート・杉並区立和田中学校校長・藤原和博さん, p.78-81))

最初はうまく届かないかもしれない。
けれども自分の内側からうる思いをインサイドアウトで、スパーリング方式で出していけば、次第に形になってくる(p.92-94)。

そしてファンと一緒にジャングルクルーズに乗ったり、バーベキューをしているかのように共犯関係になっていく(p.117-119,  p.136)。


この辺りは、コーアクティブ・コーチング®︎を身につけた人なら、きっともう自然にやっていることと思います。
Whyを見つけること・語ること、インサイド・アウトは「フルフィルメント」そのもの、
スパーリング、ジャズ型、修正主義は、礎の「今この瞬間から創る」でやっていると自然とそうなるはずです。

コーアクティブ®︎・モデルを知らなかったら、私の独立後の生活はだいぶ違うものになっていただろうなと思います。
それ以前に、これと出会っていなければ、独立することもなかったのだろうと思いますが。

 

ということで、首を縦に降り振りしながら読みました。

また、一時は、消費者が困っていることを解決する商品を売り出していく、いわゆるアウトサイド・イン的なものでなければ売れないと言われていた時代もある中、ぐるっと回って今はインサイド・アウトなんだなというところも興味深かったです。

 

プロセスエコノミーの副産物:寛容さ

人間というのは本能的に、他人とプロセスを共有することに幸福を感じ、主義主張を超え、つながることができる生き物(p.76)

これは誰しも実体験としてわかるのではないかと思います。

本書で紹介されていたハイネケンのCMが素晴らしすぎました。

まだ見たことのない方はぜひご覧ください。

 

ハイネケンCM「価値観の違う人と仲良くなれるか?」

youtu.be

 

ここからは私の私見ですが、
協働することで多様な人と力を合わせる経験が培われることに加えて、
自分がプロセスに関わってみることで、「やってみて初めてわかる難しさ、大変さ」みたいなものを経験すると思います。

この経験を持つと、人は、他者に対しても、最初からできなくても当然、失敗しても当然、正解が分からなくて当然、というふうに見ることができ、世の中に対してもっと寛容になれると思います。
クレームをする代わりに、大変だったね、と言えるようになると思います。

 

経済は誰かに創ってもらうもの、ではなく、自分も一員となって創っていくもの、と感じる人たちが増えてくれば、日本も、もっと変わっていくのではないかな、と期待します。

 

この記事はこんな人が書いています。

coaching.cocomichi.club

 

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以下は、知識的に覚えておきたいことの備忘メモ

●マーケティングの進化(フィリップ・コトラー)p.47-52
・マーケティング1.0=製品中心のマーケティング → 機能的価値訴求
・マーケティング2.0=顧客志向のマーケティング → 差異的価値訴求
・マーケティング3.0=価値主導のマーケティング → 参加価値訴求
・マーケティング4.0=経験価値志向のマーケティング → 共創価値訴求

マーケティング4.0では「感情価値」や「参加価値」が光を増し、消費者は製品やメッセージをただ消費するだけではなく、企業のミッションに共感し、さらに自分自身が価値創造に参加したいと考え始める。「すべてのサービスは自分が自分らしくなるためにある」。
受動的な消費者に甘んじるのではなく、誰一人置き去りにしない世界を構築するために、消費者もメーカーの活動に参加し社会変革に挑戦していく。
実際にプロセスを歩むことに価値を感じ始めている。

www.dhbr.net


●6D(p.52-61)
AIの進化によって、AIが人間の知能を凌駕するシンギュラリティ(技術的特異点)が到来するとき、あらゆるものは6Dになる。
①Digitized(デジタル化)
②Deceptive(潜在化)
③Disruptive(破壊的)
④Demonetized(非収益化)
⑤Dematerialized(非物質化)
⑥Democratized(民主化)

プロセスエコノミー的には、
④非収益化でモノやサービスが溢れて安くなっていくにつれ、モノを作っている過程を一緒に見て楽しんだり、参加したりプロセスとストーリーを共有する見返りにお金を支払うようになる。
また、⑥民主化で誰でもモノづくり・サービスづくりに参加できるようになる結果、「遊び」感覚でプロセスを手伝ってくれる人たちが現れる。30代以下の「乾けない世代」は、「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」を求めて、喜んで参加する。

singularityhub.com

 

●Self Us Now理論(p.64-66)
オバマ大統領の演説。パブリック・ナラティブ、コミュニティ・オーガナイジング。
Story of self(自分がここにいる理由)を語り、Story of us(私たちがここにいる理由がある)を聴衆に投げかけ、Story of now(今行動を起こすべき理由)を訴える。大統領候補の生い立ちという「他人の物語」から「自分の物語」へと変換させることにおって人々を巻き込む。
自分の中にあるストーリーが、異なる他者のストーリーとどんどん重なっていく。
「私はこういうふうに生きてきた」「君は今こういう道を歩んでいるんだね」「私と君は共通点がある。その共通点をきっかけに連帯しながらみんなで何かを起こそうよ」
自分のプロセス(生き様)を開示し共有することで、この熱狂が集団の熱狂へと広がる。

 

●システム1、システム2理論(ダニエル・カーネマン p.67-68)
システム1=感情脳(直感的プロセス)
システム2=論理脳(論理的プロセス)
人間が行動を起こすときには、論理的なシステム2ではなく、直感的なシステム1に従っている。
人間が新しい行動を起こすときには、理屈や正論を並べていくら論理的にアプローチしても簡単にはいかない。
ワクワクを共有し、キュンと動く感情脳にアプローチした方が効果的。
感情脳にビビッと訴えるのは、ロジックではなく、ストーリーでありナラティブ。

 

●2種類の感謝(カリフォルニア大学リバーサイド校、アルメンタ博士ら)(p.73)
・恩恵的感謝(Doingの感謝):誰かに何かをしてもらったり、何かをもらったりするなど所為(Doing)によってする感謝。
・普遍的感謝(Beingの感謝):感謝の気持ちをいつも感じている心のあり方(Being)。あらうるものに感謝の気持ちを感じている状態。

 

●Effectuation(←effectuate (何かを引き起こす))(p.80-84)
①Bird-in-Hand(自分の手の中にいる鳥:まずは自分の手の内にある楽しいこと、幸せだと思うことから始める)
②Affordable Loss(許容範囲内の失敗:小さな失敗をしながらトライし続ける≠ゲームオーバー)
③Patchwork Quilt(パッチワークキルト:いろんな人とコラボ)
④Lemonade(レモネード:失敗の中にも成功がある。それを見つける。)
⑤Pilot-in-the-plane(飛行機のパイロット:祭りの中心で楽しそうに操縦桿を握り続ける)
「Affordable Loss」を寛大に許容していっぱい失敗しているうちに、一見失敗に見えるものの中から新しい出合いがあり、予期せぬ成功が生まれる。
 なにより大事なことは、このプロセスの中で、新しいゴールと新しい仲間、そこから新しい意味合いが立ち上がってくることです。
 変化の時代では最初に決めた戦略は自分を狭めますが、手の中にいる小さな鳥から始めた冒険の末に見つかったゴールや仲間は自分らしさを広げてくれるのです。(p .84)


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本書の中で紹介されている本など

ニュータイプの時代

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現実を視よ

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www.cinra.net