ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法

既に友人知人に紹介し続けてきた本。
けっこう売上に貢献していると思います。笑。

とはいえ、ここみち読書録はまだでした。
というのも、私も、実は、必要な時に必要な場所をかじり読むばかりで、通読はしていなかったので。。。

今回改めて、最初から最後まで読み通してみて、やっぱり良い本でした。
普段、本には線を引かない私ですが、本書は引きまくりでした。

経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法」(宮森千嘉子、宮林隆吉 共著、日本能率協会マネジメントセンター 2019年3月初版)

 

経営戦略としての異文化適応力

 

文化の知能指数=CQ

人間の能力を測るものとして、古くから使われているのはIQ(知能指数)。頭の回転の速さなど、いわゆる勉強の世界での頭の良さ。
その後、特にリーダーシップなどの世界で、EQ(Emotional Inteligence、心の知能指数)という概念が登場します。
知能指数(IQ)だけじゃなくて、感情や心への理解による対人的能力も必要だよね、と。

けれども、リーダーシップを発揮するときに必要なのは、頭脳と心だけではなかった。
文化の違いを理解したり、適応したり、違いに架け橋をかけたりする力も大事だね、と気づいた学者たちが示した概念がCQです。

CQはCultural Inteligence(文化の知能指数)

多様な文化的背景に効果的に対応できる能力、違う文化の人とともに問題を解決し、目的を達成することができる力のこと。(p.38-39)

今回私が本書をちゃんと読み直そうと思ったのは、
変な話ですが、私が日本人とうまくやっていくためには、日本の文化的な特性をしっかり理解する必要があるんじゃないか、と思ったからです。

私は、何代遡っても生粋の日本人ですが、
11歳〜15歳をドイツで過ごしたり、
日本の高校も独立自尊の精神が尊重されるユニークな場所だったり、
交換留学ではヨーロッパ各国の人と一緒に遊んでばかりいて、
MBAで行った学校は多様性を重視するところだったり(卒業生は今や168国籍らしい)、
そしてコーチングやリーダーシップのトレーニングを受けたりして、
その度にいろんな影響を受けて、自分の価値観や判断基準も壊れて再構成されたりして、
いわゆる「ザ・日本人」のそれとは、ずいぶんズレてきている可能性があるかもしれない、と最近よく思うようになりました。
(友人知人からすると、今更?かもしれません。)

自分がいろんな国の文化の中に入って混じっていくことは比較的できてきた。
でも、足元の本国・日本で、自分の考えを理解してもらったり、巻き込まれようと思ってもらうことは十分にはできてなかったな、と。

今まではそこに無自覚だったので、自分が他から拾ってきた良いと思うものや考え方について「なんでわからないのかなあ?」と訝しく思ったりすることもよくありました。

昨年、CTIジャパンのトレーニングでアセスメントを受けたりする中で、「文化や環境が人に与える影響」というものが確実にあるんだな、ということを理解して、そこにアンテナが立っている最近です。

そうすると、「なんでわからないのかな?」というのが、
今までであれば、苛立ちに転じてしまっていたのですが、
文化というものを意識の範疇に入れてみると、
「そういう文化の中にいたら、この考え方には抵抗を持つのは当然かもしれない」
「そのような文化の中で育てば、そのように考えるのは当然かもしれない」というふうに、
苛立ちよりも、なぜ相手がそう感じるのか、というところに関心が向く感じがしています。

また、私は、「郷にいれば郷に従え」で、環境の変化に合わせて自分の考え方や行動を変えたりして適応していく形で生きてきましたが、
ずっと同じ文化、ずっと同じ環境の中で生きてきたら、考え方や行動を変えていくというのは、これも当たり前のことではないのかもしれません。

本書は、そんな風に、世の中にはどんな文化があるんだろう
自分は、日本は、他の国とはどんな違いがあるんだろう、ということを知るのに、とても有益な本です。

6次元で文化の違いを分析

本書の共著者二人は、文化の違いの研究分野で権威のあるオランダのホフステード博士に直接師事された方々。ホフステード氏の研究を、よりわかりやすく、より実践的に書かれているのが本書、という風に理解しました。

ホフステード氏は、世界の文化を6つの次元でスコア化し、それぞれの特徴がわかるようにしています。
①権力格差(小さい- 大きい)
②集団主義 - 個人主義
③女性性(生活の質)- 男性性(達成)
④不確実性の回避(低い - 高い)
⑤長期志向 - 短期志向
⑥人生を楽しみ方(抑制的 - 充足的)

これは1つの次元単体で見るものではなく、組み合わせて見ていきますが、それを見ると、日本が世界の中でもかなりユニークな国であることが見えてきます。

興味深い点はいくつもありますが、私が特に腹落ちしたのは、集団主義と個人主義のところ。

日本のスコアは46で、中間レベル。
これにより起きることについて、とてもよく表現されていたので、抜粋しておきます。

組織に忠誠を誓っているように見えて、状況の変化に応じて、とても個人主義的な行動をとる。(中略)
 一見集団主義的な行動をとっているように見えて、その行動の裏側には個人主義的な思考が行われているという日本人の習性が、ホフステードの中間的にスコアに絶妙にあらわれているのではないでしょうか。(p.100)


日本の歴史をみても、今の企業人や政治家を見ても、情勢をじっくり見極めて自分がつく大将や上司や派閥や政党をコロコロ変えるのは、よく見られることで、上記の解説はとても納得しました。

文化を知るとラクになる

ちょっとフツーの日本人の感覚とズレてるかも、と思う私も、日本人の両親のもとで、日本の教育で育っていますので(ドイツにいた時も日本人学校でした)、基本的には日本の文化の影響を受けています。
本書で、なんでそういう行動をとってしまうのか、自分でも「しょーもないなー」と思うところが、文化的な影響を受けているんだなと知って、だいぶラクになりました

例えば、私は、ものすごく心配症。
その心配を越えるくらいやりたい仕事があったので独立しましたが、それに出会わなければ、きっと独立なんかしなかったと思います。
もともと、石橋を叩いて叩いて叩いて、渡るまでに随分と時間がかかる人間でした。渡らないことも沢山ありました。
この間の葛藤はとても苦しいもので、臆病すぎる自分を情けなく思ったことも何度もあります。
このヒントは、「不確実性の回避」のスコアにあります。

日本は、不確実性の回避が、世界の中でも際立って高い。
不測の事態が起きないように、しっかり準備して、ルールもしっかり作る。
私は、個人レベルでも多分、これがとても高いはずです。
この本の共著者・宮林さんは、私が、ホールケーキを切ることを嫌がるのを見て、見抜いておられました。

大なり小なり、こんなものが私の日常や人生の中に沢山あります。

つい先々のことを考えすぎて、身動きが取れなくなる。
ついつい、肩の力が入りすぎて、突き詰めてしまう。

これは私自身の特性という以前に、日本の長期志向の高さや達成を重視する(男性性)という日本の文化に起因するところが大きいんだなぁ、と思うと、
自分がこんなふうに考えるようになっても当然か、と思えます。
そうすると、少しラクになる。

それに気づいたら、その文化のままに振る舞ってもいいし、
別に自分は違うスタイルを選択したって構わない。

罪悪感や無力感、葛藤などから自由になった身になれば、選択も可能になってきます。

外国の人と仕事する時には必携

私にとっては、自己理解にとても役立つ本でしたが、
外国の人と仕事していて、どうしてこうなるのか???と憤慨している方にもきっと役に立ちます。

私も、東南アジアや中東など、いろんな国の方々と仕事してきて感じていたこと(その多くは「どうしてそうなるの?!」ということ)が見事にこの6つの次元の組み合わせで説明がついて、共感しても仕切れないほどでした。

もどかしいのは、これは、おそらく私が実体験が先にあるから自分事として読むことになり、線を引く手が止まらなくなるのですが、
まだ体験していない人が読むと、「ふーん」「へー」で終わってしまうかもしれないなぁ、というところ。
そういう意味では、やっぱり本は体験への誘いや、体験の理解を助けるものであり、体験そのものを代用できるものではないなぁとも思います。

とはいえ、まずは知ることから。
おすすめの1冊です!


また、先日、共著者の一人・宮林さんに、私たちのポッドキャスト「独立後のリアル」にゲストに来ていただきました

「日本人は独立に向いているか?」というタイトルで、3人で鼎談いたしました。
大変お話が上手な宮林さんのおかげで面白い内容になっています。

本に書かれていないお話もあったりしますので、ぜひ本も音声も、合わせてお楽しみください。

 

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経営戦略としての異文化適応力

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本文中でリファーされている本:

孫正義 300年王国への野望