ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

コーチング・バイブル(第3版) ー本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション

先日、コーアクティブ・コーチングの基本がわかるものとして「マンガでやさしくわかるコーチング」を紹介しましたが、もっと深く学びたい、という方にはこちら。「コーチング・バイブル―本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション

コーチング・バイブル―本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション (BEST SOLUTION)

コーアクティブ・モデルをベースに、コーチの役割、在り方やスキルについて、とてもよく説明してくれています。語りかけるような文体ですらすら読めてしまうのですが、立ち止まって一語一語じっくり読んでみると、余計な言葉は削ぎ落とされていて、実はとても深い。それだからでしょうか。コーチというものについて初めて知ろうと思ったとき、学び始めたとき、上達や成果を感じているとき、スランプに陥っているとき、その時々の自分のステージによっても刺さるところが違っていて、いつ読んでも学びがあります。常に立ち返る本、まさにバイブルと呼ぶに相応しい1冊だと思います。(線を引きたくなるところやポストイットをつけたいところが変わっていくので)いずれほとんどすべての文章に下線、本はポストイットだらけ、となりそうな。。。

この本を良書と感じる一つの要素は、和訳(意訳)の素晴らしさだと思います(※)。構成や文章の流れは、原本(Co-Active Coaching: Changing Business, Transforming Lives)に忠実であるため、その点少し不自由さ(ぎこちなさ)を感じるところはあるのですが、特にキーワードの翻訳は絶妙だと思います。例えば、コーアクティブ・モデルの礎の一つである"Dance in this Moment"は「今この瞬間から創る」、スキルの一つである"Articulate What's Going On"(英語で学ぶ場合はAWGOと略されています)は「反映」など。原書を読んだとき、本書と並べてみて、なるほどここをこう訳したか、と唸ったりしました。コーアクティブ・モデルの中身をどうすれば創始者から学ぶときのの手触り感のままに日本人に伝えられるか、コーアクティブ用語を頭で覚えるのではなく腹落ちさせるには日本語だとどう表すのがよいのか、そういうことを突き詰めながら翻訳なさったのではないかと想像し、その膨大な労力を思うとますます一語一語味わって読もうという気持ちになります。

※おことわり:和訳については、読みにくいので改善すべきとおっしゃる方もいらっしゃいます。読みやすさの感じ方には個人差がありますので、あくまで一つの個人的な感想として参考にしてください。

私自身のこの本との出会いは、「コーチング」というものを学ぶことを友人から勧められたものの、どんなものなのかよく知らず、むしろ、なんとも胡散臭い、という印象を持っていた頃でした。先にカウンセリングについて学んでいたこともあり、なんとなく薄っぺらい、商業的な臭いを感じていたのだと思います。ですが、この本に出会ったことで、コーチングというものに対する見方が大きく変わり、その後体験学習コースに進むに至りました。コーチングは、質問と答えのやりとりという淡白なものや、ゴールを目指してタスクをこなすというものではありません。ましてやコーチが望む方向にクライアントを誘導するものでもありません。コーチとクライアントがありのままの自分で、人間と人間のgenuineな対話をする。ときには踏み込む。コーチはクライアントの存在そのものを聴く。クライアントは自分自身を聴く。そういう時間です。それはとても深いもので、双方とてもエネルギーのいることです。いろいろな感情も引き起こしますが、それこそが人間らしいことだなと思います。そこから生まれてくるものは、発見だったり、感動だったり。それが本質的な変化に繋がっていきます。そして、学べば学ぶほど気づくのは、実はそれらを可能にするのは、どのような質問をするかとか、細かいスキルとかではなく、コーチの在り方(Being)次第だということ。本書でも、きっとそのことを感じられると思います。逆に、スキル的なものを求めている方には、スキル以上に、在り方や人生に対する考え方やものの見方について多く書かれている本書はもどかしさを感じるかもしれません。

コーチングを始めてみて感じるのは、(自分自身も含めて)多くの人が、自らのことを本来よりも小さい存在としてみているということ。夢を描いたことがない、やってみたいことはあるけどそんなことは無理だと思い込んでいる、「馬鹿らしい」と自分の心の声を聞かないようにしている、など事情は様々。その一方で、同時に感じるのは、どんな人も、成長することや、自分の力を誰か・何かのために使うことを望んでいるということ。コーチの役割は、クライアントが自分の本来の大きさや持っているリソースを改めて感じて、様々な怖れを手放して素直に自分のありたい姿を目指していくことを応援することだと、今の時点では思っています。一人一人がそのように花開いていくことが、社会全体のためにもなっていく、そんな風に思います。

なお、本書でも多くを学べますが、やはり体験学習のインパクトの大きさにはかないません。百聞は一見にしかずで、コーチングに興味を持たれた方は、是非本書にとどまらず、CTIジャパンの基礎コース に行かれることをお勧めします。本書を読む前に飛び込んでしまう、というのもお勧めです(予備知識なくても全く問題なく学べます)。

この本は、コーチにはならずともコーチングのエッセンスを学んで仕事や家庭で役立てたいという方にも役に立つと思います。そうではなく「コーチング業界の概観が知りたい」というような方には、本間先生の「コーチング入門」がとてもわかりやすくかつニュートラルに書かれていて参考になると思います。

 

コーアクティブ・モデルについても若干触れますと・・・、

まずこのモデルの土台となっているのが「4つの礎」。大前提となる人間観と、ダイナミックで本質的なコーチングを可能にするためのコーチの関わり方、そしてコーチングの目的を、コーアクティブ・コーチはしっかりと胸に刻み、その上に立ち続けています。

▪️4つの礎(4 Cornerstones)

・人はもともと創造力と才知にあふれ、欠けるところのない存在である(People are Naturally Creative, Resourceful and Whole、NCRW)

・今この瞬間から創る(Dance in This Moment)

・その人すべてに焦点をあてる(Focus on the Whole Person)

・本質的な変化を呼び起こす(Evoke Transformation)

 

そして4つの礎と同じくらい重要なのが「意図的な協働関係」。

▪️意図的な協働関係(Designed Alliance) 

どれだけコーチが卓越した人であっても、クライアント自身からのコミットメントがなければ目指したところには到達できません。クライアントとコーチがお互い100%の力で、コーチングの関係性に力を注いだときにこそ、クライアントもコーチも驚くような気づきや進展があります。

 

実際のセッションで取り扱うテーマはクライアントによって異なり、実に多様です。が、コーアクティブ・コーチングでは、それが何であれ、これらの指針に表されるような願いが現在の具体的なテーマとして出てきていると考えます。

▪️3つの指針(3 principles)

・フルフィルメント(Fulfillment):より生き生きとした人生を生きる。

・バランス(Balance):よりバランスの取れた人生を生きる。(ここでいうバランスの取れた、とは、均等配分やスピードを落とすといった意味ではなく、何かにはまり込んで二進も三進もいかないような行きづまり感の中で滞っていたクライアントの人生の流れを元に戻し、クライアント自身が人生の主導権を取り戻すことを指します。)

・プロセス(Process):より味わい深い人生を生きる。

 

様々なテーマでその場から創っていくコーチング。セッションにおいて、コーチには常に5つの資質が求められます。

▪️5つの資質(5 Contexts)

・傾聴(Listening)

・自己管理(Self-Management)

・直感(Intuition)

・好奇心(Curiosity)

・行動と学習(Forward the Action / Deepen the Learning)。

 

具体的にはこんなスキルを使います。文字で見る方が難しいです。学んだ後に読むと、ああ、あれね、とわかります。ぜひ、体験学習にて、体で学んでください。

▪️スキル(本書の目次より。体験学習ではこれに±あり。)

・傾聴関連:反映(Articulate What's Going On)、明確化(Clarifying)、俯瞰(Meta-view)、比喩(Metaphor)、認知(Acknowledgment)

・直感関連:中断(Intertrude)、感じたままを口にする(Intuition, Blurting)

・好奇心関連:拡大質問(Powerful Question)、設問(Inquiry)

・行動と学習関連:確認(Accountability)、目標設定(Goal-setting)、ブレインストーミング(Brainstorming)、要望(Request)、挑戦(Challenge)

・自己管理関連:立て直し(Recovery)、許可取り(Asking Permission)、核心(Bottom-Lining)、励まし(Championing)、浄化(Clearing)、視点転換(Reframing)、区別(Making Distinction)

 

上記のうち、スキル以外の部分は、モデルらしく、一つの図に表されています。コーアクティブ・コーチング自体は1992年にアメリカでトレーニングが始まったものですが、「 7つの習慣」だとか「U理論」だとか、欧米人はモデル化するのが本当に上手だなぁと思います。

 

上記はコーチには必須で求められるものですが、ビジネスにおいて、ご家庭においても、これらのことを知っていること、少しだけでも身につけていることは、間違いなくお役に立ちます。より多くの方にコーアクティブ・モデルが届くこと願っています。

 

※この本については、後日、再度記事を書きました。指針についてもう少し詳しく書きましたのでよかったらお読みください。

www.cocomichi.club

 

上記の記事を書いた時は、第3版が最新でしたが、2020年に6月に第4版が出ます。

こちらから予約可能です。

 

 

第3版はこちらです。

コーチング・バイブル―本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション (BEST SOLUTION)

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コーチング入門 (日経文庫)

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