ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

カラスの教科書

著者のカラス愛が止まらない、挿絵のカラスのイラストが愛らしすぎる1冊。

とにかくまぁ面白いから読んでみてください。

興味が湧いた方はもちろん、うるさくて迷惑なカラスを何とかしたい!という方も、どちらも楽しみながらカラスについて知ることができます。

カラスの教科書」(松原 始 著&スケッチ、植木ななせ イラスト講談社文庫、2016年3月初版/単行本は、雷鳥社より2013年1月刊行「カラスの教科書」)

 

カラスの教科書 (講談社文庫)

 

著者の松原さんは、京都大学理学博士、専門は動物行動学、東京大学総合総合研究博物館勤務。
研究テーマはカラスの生態、行動と進化。
大学の卒業研究から今までずっとカラスの研究をしておられ、本書の中でも、自分を「カラス屋」と名乗ってみたり、もはやカラスと同化しているかのように思えるところもある。

それくらいのカラス好き。

カラスの食事情、恋愛事情、子育て〜巣立ち、カラスを怒らせないための初級カラス語、カラスにゴミを漁られないための方法、頭を蹴られないための対策、など、
果てしなく地道な研究により見えてきたことを惜しみなく教えていただけます。

カラスに襲われそうで怖いというお悩み相談や、
なぜカラスは黒いのか、なぜうるさくてずうずうしいのか、人間の顔を識別できるのかといった、素朴な質問へのQ&Aなども面白いです。

ちなみに私は、以前、夕暮れの公園で、カラスに背後から首筋を蹴られたことがあります。
こわかったけど、カラスでよかったと思いました。人間だったらもっとこわい。

 

田舎のカラスと都会のカラス

世界には40種ほどのカラス属があり、うち日本では7種が記録されていると。

私は、くちばしが太いハシブトガラスと細いハシボソガラスと、その見分け方だけは知っていましたが、それぞれの生息地が違うのは知りませんでした。

ハシブトガラスは森林と都市部に分布していて、農耕地にはあまり見られない。その代わり、山奥にも高層ビル街にもいる。

ハシボソガラスは農耕地や河川敷に多く、大都市には多くない。いたとしても公園のようなところ。林縁部や疎林にはいるが、あくまで開けて見通しの良い場所に住んでいる。

体も、動き方も、鳴き方も、それぞれの生息地に合ったようになっている。(p.38など)

都内に住む私が見ているのは、ほとんどがハシブトガラスなんだろうと思います。

 

木々が高層ビルになっただけ 今も昔もスカベンジャー

カラスは、何でも食べる雑食性の鳥。

生きているものだけではなく、死骸も食べる「生物界の掃除屋」、すなわち「スカベンジャー」。(p.107)

サバンナで、ライオンが獲物を仕留めた後にやってくるハイエナ、リカオン、ジャッカル、ハゲワシなどと同じ。

その行動は、森林にいようが、都会にいようが同じであることが、著者の記述でとてもよくわかります。

つまり、カラスはもともと、死骸を見つければ喜んで食べる生き物である。そしてカラスがゴミ袋にくちばしを突っ込んで中身を引きずり出す姿は、動物の死骸から内臓を引っ張り出す行為と全く同じだ。そう、ゴミ袋とは「皮につつまれた肉」であり、それは要するに、死骸と同じなのだ。朝の道端はカラス視点では「うまそうな死骸がゴロゴロしている場所」であり、その横に人間がいるのは「オオカミの群れがたむろしている」状態そのものである。割り箸だのなんだのが混じっているのは、小骨の多い魚を食べている気分だろう。つまり、カラスがゴミを漁る行動、地面に転がっている死骸を漁るのと全く同じ、スカベンジャーとしてごく当たり前の行動である。彼らは「町に適応して」でも「山を追われて仕方なく」でもなく、「食い物があるからごくフツーに」ゴミを漁る。彼らの行動は、森林での生活をそのまま都市に持ち込んだものにすぎない。(p.222-223)

だから、

 カラスはゴミ袋を見つけると、つついたり、引っ張ったりしてあっという間にビニールを切り裂いてしまう。研究によると手当たり次第ではなく、赤やオレンジ系の色が見えるところを狙うという。肉や果実の色だからだろう。ミカンの皮を外側に入れておくのは「ここを狙え」と教えるようなものだし、茶色のストッキングも狙っていたという。
 カラスはビニール袋においしいものが入っている、という事を非常によく知っている。(中略)ラップや紙くずなど、食えないものだと「ぺいっ!」と放り投げるので周囲をひどく散らかす。そこまで無闇に投げなくても、と思うくらい、力一杯捨てる。カラスにしてみれば食えないものは放り投げておかないと、混じったら面倒だという事かもしれない。我々は「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」に分けるが、カラスは「食えるゴミ」と「食えないゴミ」に分ける。正確に言えば「食えるもの」と「ゴミ」。人間にとっては全てゴミだが、カラスにとってはかなりな確率で餌である。(p.221-222)


こうしてみると、なぜに東京にこんなにカラスが多いのかも納得です。

早朝の繁華街、ゴミ収集車がやってくる前の時間帯は、それはもう素晴らしいご馳走が並ぶパラダイス。

さらに、カラスの大好物は、マヨネーズやジャンクフード。

マヨネーズのチューブすらも突いて穴を開けてしまうマヨラー・カラスにとっては、ゴミ袋を引きちぎるなんて、それこそ朝飯前のことだろうと思います。

ちなみに、酔った人間がやらかす路上の吐瀉物もよく食べて掃除してくれる存在でもあるそうです。

街からカラスが減ってほしいと思うなら、この辺りがまず一番最初に対応すべきところのように思われます。

 

小心者でお調子者

これほど用心深いようでいながら、カラスはお調子者だ(中略)。我々が観察に行くと、向こうも同じく、観察に来ているのではないかと思える節がある。(p.180-181)


本書を読んでいると、だんだんカラスがお茶目で可愛らしくすら思えてきます。

一つには、ユーモラスな文章がそう思わせてくれる。つい笑ってしまう。

さらに、本文中に入っているカラスの挿絵が大いにこれに貢献しています。

 

著者ご自身による様々なカラスのスケッチは、とてもリアルで美しく、著者の愛情を感じます。

植木ななせさんによるイラスト(「カラスくん」)は、まるでカラスの気持ちや考えてることが伝わってくるかのように愛くるしい。

表紙の絵も、植木さんです。

この装丁でなかったら、多分、私、この本に興味を持たなかったと思います。

そういう意味でも、面白い本に出会わせてくれて感謝ですし、本書に出会ってすっかり植木さんのイラストのファンになりました。

東京・谷中で「旅するミシン店」という手づくりブックカバーのお店をやってらっしゃるとのことで、昨年末にいそいそと行ってきました。

残念ながらご本人はご不在でお会いできませんでしたが、カラスとポテトのブックカバーを入手してきました。

他にも可愛いものが沢山あったので、また行ってみたいなと思います。

tabisurumishinten.com

 

ブックカバーは細かくサイズがあります。四六判を買いました

 

本書に込められた願いはこちら。

この本をお読みいただいた方のカラスを見る目が、明朝は少しでも優しくなることを願ってやまない。(p.361, 結 何はなくても喰ってゆけます)


なりました!まだちょっとびくびくしてしまうけど!

皆さんも、ぜひどうぞ!

 

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続編:

 

松原さんの他の本:

カラスと京都

カラスと京都

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