父からおすすめとして回ってきた本です。
「読書会という幸福」(向井和美 著、岩波新書、2022年6月初版)
1987年から30年超にわたり毎月の読書会を続けていらした翻訳家の著者が、読書会の活動について紹介する本です。
まず、その継続の力に恐れ入ります。
任意で集まるサークル活動は、誰かが火を絶やさずに、場を開き続けてくれることが必要。
参加者が減った時も、思うように場が盛り上がらない時も。
これをホールドする力って、本当にすごいなぁと思います。
私自身は、かつてのこの著者と同じように、読書は一人でするものだと思っておりまして、「読書会」なるものに参加したことはありません。
集まって一体何を話しているんだろうか? それは面白いんだろうか?と思ったりもしていました。
本書では、読書会とは実際、どういうことをやっているのか、どんな雰囲気なのか、というのが感じ取れます。
また、実際に読書会を開催されたい方のためのヒントなども織り込まれています。
そして読書会の利点はこんなこと。
読書会の利点はまずなんと言っても、自分では手を出さないような本や挫折しそうな本でも、みなで読めばいつのまにか読めてしまうことだ。ひとりだったら途中で放り出していたかもしれない本でも、来月までに読んでいかねば、と思うとつらいページも乗りきれる。そして、生や死や宗教など、日常生活ではまず口にしない話題でも、文学をとおしてなら語り合える。さらに、ほかの人の意見を聞くことで、自分では思いもかけなかった視点を得られるのも読書会の醍醐味だ。ひとりで本を読み、物語の世界を味わう段階から一歩踏みだし、読書会という場でアウトプットすることで、自分の考えがはっきりとした形になっていく。つらい出来事があって鬱々とした思いを抱えているとき、それを文章にしてみると気持ちがすっきりすることがよくある。同じように、読書会で自分の考えを存分に喋りつくスト、帰りには不思議とすがすがしい気分になっている。
もしかしたら、わたしがこれまで人を殺さずにいられたのは、本があったから、そして読書会があったからだと言ってもよいかもしれない。(p. vi)
なるほど。
本という共通のものを入り口に、人生についても語られていく場なんですね。
参加されている方々が、自分に引き寄せて読書を楽しんでいらっしゃったりするからだろうなぁとも思います。
そして、この部分は、とても共感しました。
学校でも職場でも、友人や同僚とはその場しのぎの会話しか交わさないという人は多いだろう。だれかともっと深い話をしたいと願い、そういう場を探している人は潜在的にかなりいるはずだ。とはいえ、いきなり「さあ、人生について語り合いましょう」と意気込んで集まったとしても、愚痴の言い合いになったり、雑談や人生相談になったりしてしまうのがオチだ。けれども、文学を媒介にすれば人生のどんな話題でも語り合える。物語に登場するどれほどの悪人も善人も自分のなかには少しずつは存在しているし、どれほど昔の話でも、登場人物たちの微妙な心情は現代のわたしたちとまったく変わらないからだ。そうした普遍性があるからこそ、本について語り合うことは、人生について語り合うことでもあるのだ。(p.4-5)
本当にそうだなぁ、と思いますし、これこそが、私がコーチングに出会って昇華したものだと思います。
上記の引用箇所の「文学」を「コーチングセッション」に、「物語」を「その人の人生の物語」に置き換えたら、そのままコーチングの効用と思います。
以前の私は、おそらく、潜在的にもっと深い話をすることを欲していた。
でもそんなことを自覚しているわけではなかったし、自覚したところで、いきなり話す相手もいない。
コーチングでは、ド直球で「人生で実現したいことは何?」と最初から聴いていきます。
夢についても話すし、つらい話も、悔しい話も、悲しい話も、そらさずに、真っ直ぐ聴いていきます。
セッションの中でクライアントさんと話す機会だけではなく、こういう話ができるコーチ仲間やコミュニティの存在もありがたいことの一つです。
コーチングを学び始めた頃、初めて会う仲間とも、話し始めて数分で、「それで、あなたの人生の目的は何?」とお互いに話し始めることができて、感激したのはよく覚えています。
ここから語られることはその人そのものだから、親しくなるのもとても早くなりました。
私の場合はコーチングというもので、このニーズが満たされていきましたが、読書会という形で満たされるものもきっとあるだろうと思います。
本書のもう一つの魅力は、30年間の読書リスト。
名前だけは知っている名作がずらり。
いつかは読みたいと思いつつも、「読むぞ!」と決めなければ、読まないままこの世を去ってしまいそうな本ばかり。
「自分では手を出さないような本や挫折しそうな本でも、みなで読めばいつのまにか読めてしまう」は確かにきっとその通り。
自分の読みたい本で読書会を開いてもいいかもしれない、と、本書のおかげで初めて思いました。
もし、万が一にも、企画を考えたら、ここみち書店にてご案内したいと思いますので、インスタなどフォローいただければと思います。
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