ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

ナインティナインの上京物語

「ここみち書店」でポッドキャスト配信をしている人の本を集めてみよう...、と探していて、出会った1冊*。

ナインティナインの上京物語」(黒澤裕美 著、2012年10月初版、大和書房)

*ニッポン放送の「ナインティナインのオールナイトニッポン」が、Spotify限定でポッドキャストとして配信されています。

 

ナインティナインの上京物語

 

2人とそのマネージャーの物語

著者は、ナインティナインの岡村隆史さんと矢部浩之さんが1994年に上京した時に、約1年間、2人をマネージャーを務めていた方。

本業はイラストレーターなのに、あれよあれよと巻き込まれてにわかマネージャーになり、2人と沢山のケンカもしながら、激動激務の1年間を文字通り24時間365日伴走した方。

期間としては短いけれど、その時間の密度は濃くて、その中で見えていた2人の素顔や当時の感情がそのままに綴られています。

その後に続く、2人それぞれとの対談で、本人たちの言葉でそれが語られているのと合わさって、ナイナイのこれまでが立体的に伝わってきました。

結成して20年超が経った40代の頃の本。若かりし頃を振りかえりながら話しているからこそ語れることもあるのだとも思います。

 当時20代前半の二人が、数々の雑誌やテレビで取材を受けるたびに口にしていたのは、「天下をとる」という言葉。
 今思えば、右も左もわからぬまま入ったテレビ業界で、「これからの目標は?」と取材されるたびに、漠然とした未来に不安を覚えていたのだろう。
 今人気があったとしても、少し先は誰にもわからない世界。突然にブレイクした二人は、「天下をとる」という強い言葉で、不安や寂しさを抑えつけていたのかもしれない。
(中略)
 これは大阪の、おもしろくて人気者だった男の子と、カッコよくてモテモテだった男の子がコンビを組んで売れるまで。と、その後に岡村に起こる大きな出来事。そして、なんの運命のいたずらか、そのコンビにマネージャーとしてつくことになった、イラストレーターの女の物語である。(p.3-7 )

 

努力の人

全体を通じて伝わってくるのが、ナイナイの2人の真面目さ。その真剣さと努力は想像以上。

 彼らが自分たちの売れ方を「実力だ」と言ったところは、今も昔も私は見たことがない。負けず嫌いな二人は、いつどんな時でも真剣に「笑い」をとることを考え、今の場所にあぐらをかくことなく闘ってきた。
 岡村にいたっては、「芸人は幸せになったら人を笑わせられなくなる」と信じ込み、本当にストイックに生きてきた。(中略)
 一方で矢部も、岡村の存在感とぶつかることなく司会行に邁進。様々な場面で仕切りの実力を磨き、徐々に自分の居場所を確立していった。
 二人とも、どこまでも真面目に努力をして、コツコツとキャリアを築いてきた。その努力の上に、今の彼らの芸があるのだ。(p.30)


「天然素材」の中でも注目されていなかったナイナイが、「ABCお笑い新人グランプリ」で最優秀新人賞を受賞して、「とぶくすり」で突如東京でブレイク。

それは決して偶然ではなくて、天然素材の中に居てはダメだと自ら賞に挑んだこと、賞を取るために作戦を立てて漫才を選んだことなどの、選択と決意がもたらしたもの。

更にその漫才を完成させるために、ボケとツッコミの「タイミング」や「見せ方」「喋り方」を繰り返し練習し、何回測っても4分55秒で終わるまでに仕上げるほどの緻密さ(ネタ時間=5分)。

突如始まった東京でのテレビ制作の中でも、コントやバラエティについてやりながら学び続け、決して手を抜かない。

テレビならではの見せ方などにも気を配る。

笑っていいとも!のテレフォンショッキングに出るともなれば、友人のスタイリストに急遽服を用意してもらう、一回からんだ人全員に「お花くれ」と頼んでスタジオに入りきらないほどの花が届くよう仕組むくらいに、プロ意識で自分たちをプロデュース。


当時の毎日の生活は番組収録、ロケ、劇場出演、ラジオ、CM撮影、制作会議、取材の繰り返し。朝5時まで仕事をいてそのまま次の日の仕事に向かう日もあるような、慢性的な睡眠不足の生活。視聴率のプレッシャーも不安も常にある。

それでもやっぱり手を抜かない。

 楽しそうに笑いながら番組をやっている彼らに、悲壮感はない。だから笑える。
 でも、その裏にある苦悩を知ってしまったら、心底笑えないだろう。番組も楽しめない。だから、彼らは人知れず苦労を重ね続けるのだ。
 そしてもちろん、つらい思いばかりをして、番組を作っているわけではない。楽しんでもいる。彼らが楽しみ、のっていなかったら、本当の意味で番組はおもしろくはならない。
 真逆のことを言っているようだが、悩み苦しみながらも万全の準備をし、確認を怠らず、絶対におもしろくできるという信念を持って臨むからこそ、本番では安心して演じ、楽しむことができるのだ。(p.128) 

 

「天下をとる」という覚悟と、努力。その両方があってこそのあのポジションなんだな、と。

やっぱり人気が絶えない芸人の方々はすごいな、と思いました。

 

「キャー!」じゃなくて、笑ってほしい

「天然素材にいてはダメだ」と思った時のエピソードが印象的でした。

黒澤 「天素」卒業の時は寂しかった?

岡村 寂しくはなかった。だって、ここにおったらあかんと思ってたから。「天素」もたのしかったんやで。ほんま楽しかったけど、なんやろうな、「笑い」がないというか。ボケても、「キャーッ、キャーッ」っていう連発やって、お客さん笑ってへんな思って。で、みんながネタもやらんとギャグをやるようになってきた時に、「あ、終わったな」と思った。(p.145)


この精神は東京でのテレビ番組制作の時にも表れます。

 スタジオ観覧客についても、番組側は「天然素材」のファンを入れれば盛り上がるとも考えたのだが、岡村が拒否した。「キャー!」という歓声があがると、本当にウケているのかいないのかわからない。それでは「天然素材」と変わらない。自分たちを知らない人の前で実力を試したいというのが、岡村のならざる本音だったのだ。
 この真面目でトガった岡村の姿勢がスタッフに評価され、プロデューサーとはますます真剣に作戦会議の日々が続いた。それだけ作り込んだからこそ、彼らは鍛えられたのだ。(p.43)

 

変わるもの、変わらないもの

この真面目さとストイックさゆえであろうと思われる、岡村さんが2010年頃に「頭がパッカーンってなった」時のお話も、ご本人の言葉で語られます。

その前後の岡村さんの在り方の変化を読んで、「ああ、よかったなぁ」と思いました。

ご自身にも、周りの方にも、優しくなっている様子が伝わってきました。

 

黒澤 復帰してからさ、矢部君の中では、「ナイナイ」の第二ステージやと思ってんねんて。

岡村 (前略)そうやと思うで。今が本来あるべきコンビの形やと思うね。体調崩す前までは、全部一人でやってるくらいの気持ちでやってたけど、結局半年くらいずっと一人で番組守ってくれてたんよな、相方が。俺が勝手に「一人でやってる」と思ってたけど、そうじゃなかった。相方がいてるし、仲間がいてるし、スタッフがいてるしっていう。そういう、自分一人だけやないねんでっていうね、そういうふうには思えるようになったなぁ。そう考えた時には、一番近くにいるのがやっぱり相方やから、相方に対しても少し変化したかもしれん。

 

一方の矢部さんのストーリーでは、一番印象的だったのはここ。よしもとに入った頃を振り返っての話。

矢部 (前略)当時の俺なんか、先輩もどうしていいかわからなかったと思う。先輩にしたって、いじってあげたいけど、どこいじる?っていう。(中略)扱いも難しかったと思うねん。だからこそつらかったし、また吹っ切れるのも早かったよな、俺は。

黒澤 吹っ切れたんか。

矢部 うん、自分もおもしろい人になろうとしなくてええんやって、俺が笑いを取らなくてもええんやって気づいた。(p.180)

 

こうやって自分たち自身の変化を語る様子に、どんな人も人間なんだよなぁと、至極当たり前のことを思いました。

ピカソの作風がどんどん変わっていくように、芸人さんも、ミュージシャンも、作家も、舞台俳優も、アスリートも、誰も彼も、時代を経て、自分の経験を通じて、変わっていく。

葛藤や喜びやつらい体験をも受け止めながら。

著名な人たちはいつも完成形かのように思ってしまい、見ている方はいつも完璧な姿を求めてしまいますが、決してそんなはずはなく。

会心のパフォーマンスの日もあれば、課題が残るなと自分自身が思う日もあって当然。

その変化していく過程も、私たちは一緒に見させていただいているのだなぁと。


変化していく2人、そしてそこに変わらぬ誠実さであり続ける2人は素敵だなと思いました。

 

そんな二人のやさしさと、真面目で誠実な姿勢が、この本を読んでくれる人たちに伝わったらとても嬉しく思う。(p.201)

しっかり伝わりました!

 

ナインティナインのオールナイトニッポン

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なお、いろいろ起きるのは個々人だけではなく、コンビの関係性も同じ。

感情の起伏を隠さず何でも正面から侃侃諤諤やり合いたい岡村さんと、
いつも冷静で自分のスペースをしっかり取りたい矢部さんの関係性は、
毎週配信し続けていつの間にか3年以上になったポッドキャスト番組「独立後のリアル」での相方との関係性に重なって読めてしまいました。

 

私たちの番組も、よかったら聴いてみてください。時にケンカもしながらやっています。

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独立後のリアル :人生本気で変えたい人のコーチをしてきた2人が、これからの時代を賢く生きるヒントを愉快に無責任に話している番組です。ゆるいのにためになる、など感想いただいております。 毎週金曜21時配信。

 

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coaching.cocomichi.club

 

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