タイトルがいいなぁと思って手に取り、本の手触りと、少し立ち読みした感覚で買いました。
「ナンセンスな問い」(友田とん 著、H.A.B(エイチアンドエスカンパニー)、2023年2月初版)
一人で飲みにいく時に持っていくのに最適な一冊。
カウンターで読みながら、ついついクスッと笑っちゃう、そんな本。
日常の中にある面白さを、クローズアップして、超スローモーションで体験させてくれる。
とてもくだらない。
きっと何の役にも立たない。
(注:↑著者の方への最大級の褒め言葉だと思って使ってます!)
けど、この本を面白いと思えるような人と友達になりたいな、というそんな本です。
ナンセンスな問いに私は駆り立てられる。そこには意味など何もないし、問うたところで社会が変わるというようなものでもない。しかし、しばしば当然と思っているところに風穴を空けてくれることがある。問わなければ気づきもしなかったことが、初めて目に留まる。いつもの日常がちょっと違って見えてくる。世界が可笑しさに満ちてくる。満ちてきたらどうなのだと言われると、困ってしまうが、困ったなあと言いながら、私は今日もナンセンスな問いを発している。(p.4, まえがき)
要するに、この半年私は書き散らかしているだけなのだった。ただとにかく私は面白い文章を書きつづけたい。何度も読み返したり直したりしていると、つまらないことを書いてしまったのではないかと不安になったりもする。だが、一晩寝て頭がスッキリしている時に読み返すと、大丈夫だ少なくとも自分にとっては面白いと、胸を撫で下ろす。一度は面白がって書いた自分の直感を少しは信頼してみてもいいかもしれないとも思えてくる。あとはその面白さをどう伝えるかだ。いつか近いうちに、書き散らかした文章がまとまってあなたにお届けできればいいのだがと考えて、そのこともまたこうして私は書きつづけている。(p.42, 旅日記を書きはじめると)
ちなみに、どんな感じかというと、
パンケーキを食べに行ったお店で店員さんがなぜ一部の人だけエプロンをしているのか?と考えて観察してみたり、
僕には荻窪で降りる人がわかる、であるとか、
ドラッグストアにハンドソープを買いに行ったはいいけど、「我が家のハンドソープは本当に「キレイキレイ」だろうか」と立ち止まってしまったり、
執筆場所であるドトール・コーヒーの店内で様々な人間模様を観察してみたり。
ごく普通の日常生活の中からテーマを拾ってきている感じ。
一見、拾うというのは何でもないことのようだ。だが、そもそも目に留まらなければ拾うこともない。それに、時間という道を進んで行く私たちにとって、日常の出来事を拾うのは一回きりのものであり、過ぎ去ってしまえば失われてしまうものでもある。ふと机の上に積まれた『ニューヨークで考え中』や『A子さんの恋人』に目がゆく。この結構な厚みの一枚一枚の紙に日常が描かれ、それが積もっているのだ。近藤聡乃によってまったく違う場所で拾われた日常の出来事を読むことで、すっかり忘れていた私の記憶が遡って拾われ、蘇る。それはなんと不思議なことだろうか。そして、そのようなことを可能にしているのは、単に日常の出来事を記号として収拾しているのではなく、日常を描きながら、出来事をフックにして何か別の記憶を呼び覚ました運動そのものを描いているからではないだろうかと思い至った。私もそうした日常のささやかな出来事を拾い、人の記憶を呼び覚ますような運動を書き記せたらと思う。(p.176-177, 積み重なっていく日常の先に)
この言葉はとても共感しました。
私も「ここみち便り」や「独立後のリアル(ポッドキャスト)」で毎週書いたり喋ったりしているのも結局こういうことなのかもしれません。
なお、私の主たる職業であるコーチングにおいても、どれだけ「ナンセンスな問い」ができるかが大事なんじゃないかと思っています。
誰かのコーチになろうとする時、つい、”いいコーチング”をしようとして、気の利いた質問をしなくちゃとか、そういうことを考えるフェーズが誰にでもあります。
そこに囚われている限り、いいコーチにはなれない、ということにまもなく気づきます。
だって、”もっともらしい”"コーチングっぽい”問いは、クライアントさんも、すでに自分で自分に問うているかもしれませんし、身の回りの誰かからも聞かれているかもしれませんし、自己啓発本にも書いてありそうです。
「何のためにそれをするのですか?」
「それはあなたの人生にとってどんな意味があるんですか?」
こういう問いももちろん使う時はあるけれど、固い場がぐっと動くのは、「なんでそんなこと言うわけ?」とクライアントが意表をつかれたようなとき。
大真面目にキャリアやビジネスの話をしているのに、映画や恋愛シーンに喩えてみたり、
難しい〜顔をして往年の悩みを話しているのに、今更それを聴く?!と言われそうな元も子もない質問をしてみたり、
タブーのような、相手が唖然としてしばらく沈黙してしまうような、あるいは大笑いしてしまいそうな、そういう時こそ、クライアントの本音が出てきたりするから、面白いのです。
"まともな問い”だけだったら、予定調和の範囲内。
人生、どれだけ”ナンセンスな問い”を持って生きれるかで、面白味が変わってくるんじゃないか、なんて思ったりします。
なお、「本屋にはいく。なぜなら、体にいいからだ。」(p.12)とおっしゃるくらいの方の本なので、中にも本屋さんの名前がたくさん出てきて、最近書店を始めた私にはその点でも興味深かったです。大阪での空き時間に、探して立ち寄ったtoi booksさんというビルの一室にある素敵なお店でこの本を買ったのですが、帰りの新幹線で読んでいたらそのtoi booksさんが出てくるのも、なんだか不思議な感じがしました。大阪の地下ではいつも迷うので、本町に辿り着くのがどれだけ大変かという話はとても共感しました。笑。
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本書に出てくる書店
下北沢B&B(Book & Beer)
荻窪Title
蔵前H.A.Bookstore(蔵前の店舗は閉店、現在の販売はオンラインショップのみ)
大船ポルベニール
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幕張lighthouse
早稲田NENOi(2023/3/31で閉店)
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