ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

計画と無計画のあいだ

誰かに教えてもらい、タイトルが「まるで私のことみたい」と思ってしばらく前に買っていた本。

約4年前、フリーランスとして独立すると決めただけでも無計画はなはだしいのに、最近それを超える無謀さで本屋を始めた今が、ちょうど読み時だった気がします。

計画と無計画のあいだ: 「自由が丘のほがらかな出版社」の話」(三島邦弘 著、2011年10月初版、河出書房新社)

 

計画と無計画のあいだ: 「自由が丘のほがらかな出版社」の話 (河出文庫)

 

「一冊の力」を信じて本づくりに従事する出版社「ミシマ社」の創業ストーリー。

新規参入が極めて難しい出版業界にて、2006年に創業。

“原点回帰”、”一冊入魂”、”野性の感覚を大事にする” など、ミシマ社を貫く経営理念・経営哲学が全体から伝わってくる本。

代表・三島邦弘さんというリーダーの物語でもあります。

計画と無計画のあいだにあるもの

タイトルに共感するくらいなので、中身も楽しく読みました。

一個人事業主と、人を雇う法人ではまるで話は違うので軽々に共感するというのはおこがましい気がするのですが、それでも大きく頷くところ多数でした。

起業って、教科書的には、世の中のニーズと自分の思いが合致するところで、ある程度マーケットもあるところでターゲットも定めながら、なおかつ売上とキャッシュフローの目処をつけて始めるもの、なのかもしれないですが、そんな起業は実際はどれくらいあるのだろう、と思ってしまいます。

上記の中で私が一番大事だと思うのは、「自分の思い」。言い方を変えれば、自分が世の中に願っていること。世の中に創り出したいと思っていること。

それ以外は、誰かが助けてくれもする。

でも、自分の思いや情熱は自分の中からしか生まれない。

仲間や応援してくれる人を惹きつけるのも自分の思いだし、

仮に、借り物の思いや、上辺だけの思いしかないところにお金だけが集まったとしても、それは持続可能ではないでしょうし、本人の感覚としても、もしかしたらそこはかとない不安や焦り、どこか満たされきらない感じや、場合によっては何かを欺いているような気持ちにもなるのかもしれません。

 

万全な計画無しで大丈夫なの?という方こそ、本書を読んでみると刺激があるのではないかと思います。

個人的に思う、"計画"の恐ろしいところの一つは、いつの間にか、計画を立てることや、立てた計画を遂行する方に意識とエネルギーの多くを持っていかれてしまうこと。

事業計画もなければ戦略的マーケティングもしないというミシマ社の動きには、そういう計画や数字のワナにかかることなく、無計画だけれども本質的、というものが多くあるように感じました。

 

といって本書は、計画は不要ともいっていません。そのバランス。

計画は安全ラインを教えてくれる。

でも、それだけでは、エネルギーにはならない。

それだけでは、驚くような展開もない。

それだけでは、自由はない。

三島さんによれば、計画をはみ出たところに「自由」がある。

「計画と無計画のあいだ」を揺れ動いているとき、人は初めて自由を感じる。そして、揺れ動く二つの感覚が広ければ広いほど、自由度は高い。

これが、この五年間を振り返る最中に得ることもできた、ぼくなりの発見だ。(p.249)

本の中には上記の図解もあります。

そもそも自由って何なのか。

いうなれば、自由とは自分の感覚がよく利くという状態をさすのだ。逆にいうと、感覚が働く範囲内において人は自由でいることができる(p.246)


この自由を感じていてこそ、アイディアも湧いてくるし、創りたいものを創っていくこともできる。何より、楽しい。面白い。

同じ社会に生きていても、同じ物理的空間にいたとしても、この自由の空間をどの程度広く感じるのかは、人によってかなり違いそうです。

茶室のような狭い空間にも自由はあるし、世界中を飛び回るセレブが実はとても不自由さを感じているというケースもありそう。

計画と無計画のあいだの広さは、自分の心が決めるのかもしれません。

 

いちいちブンダンしなくていい

いろいろあった共感ポイントの中でも、一番、「ですよね!」と思ったのはこの部分。

ミシマ社の本をご覧いただければわかるのだが、一見すると、ノージャンル、見事なまでにバラバラである。

「一体どこを目指してるんですか?」とは創業直後はもとより今もよく訊かれることだ。「あの本もミシマ社だったんですか。全然、ジャンルが違うんで気づきませんでした。出版社ってよく似た本を出すじゃないですか」ともよく言われる。そのたび、「そうなんです。あの本もこの本も実はミシマ社刊なんです」とも答えている。くわえて、「じつは、ミシマ社の本は一見するジャンルはバラバラですが、ちゃんと共通性があるんです」とも言っている。

(中略)

あるジャンルの本しか出せないということは、出口があらかじめ決められているということでもある。つまり、企画時からあらかじめ決められた出口を意識してつくらなければならない。でないと、出口のない本、結果として、形にならない迷い子の原稿を産むだけだ。

 原点回帰の出版社としては、とに書く「面白い」から始めたいのだ。その「面白い」を最大限に引き出しきった後に、その「最大級の面白い」にもっとも適した出口を見つけたい。

 それに、そもそもーーー。

 本は本なのだ。

 どこまでいっても、本は、本でしかない。

(中略)

 人間をどこまでいってもブンダンできないのと同じことだ。

(中略)

出版社のなかには、ジャンルごとにファンがいるのだと疑ってかからない人がいる。そういう先入観があっての「ミシマ社の本ってバラバラですね」という発言なのだ。

(中略)

 少なくともぼくは、「本そのものを面白い」と思う人の絶対数増に挑むことから、新しい出版社を始めたいと思った。

 読者にとっての入口はどこだっていい。最終的に本が面白い。体感を通して、それが実感まで深まるきっかけになるのであれば。

(中略)

 一見するとバラバラなミシマ社本に共通点があるというが、それは何か?

 答えはすでに述べた通り。ミシマ社本の共通点とは、全てが「本」ということにほかならない。さらにいえば、「面白い」と信じ込んでつくりきった本たちばかりなのだ。

 願わくば、ミシマ社の本だからと買ってくださった方にとって、これまで読んだこともなかったジャンルの本の面白さと出会うきっかけになってほしい。(p. 203-208, 原点回帰ってなんだろう?)

 

 本来、仮に読者ターゲットというものを設定するとすれば、これしかないと思う。

 読者ターゲット:老若男女みな

 そういう思いから、ミシマ社では読者対象は設定していない。マーケティングのやり方を否定するわけではないが、あまりにもそれ一辺倒になっている現況で失われて言っているものを、少しでも掬いたいと思っている。

 本質的に面白いものは、世代や性別や時代を超える。

 愚直なまでに、そう信じたいのだ。

 それはいってみれば、人間を信じるということである。

 人間である以上、生き物である以上、本質的に「面白いもの」は、人間の奥底に眠る動物的感覚を必ず揺さぶるはずだ。

(中略)

 ターゲットを設定しない。人間を信じる。

 そこにあるのは、一冊入魂の精神だけだ。(p.212-213,  原点回帰ってなんだろう?)

 

自分の読書も、この「ここみち読書録」も、まさにノージャンルですし、4月から始めた「ここみち書店」もノージャンルです。

面白そうと思ったものは読むし、実際面白かったらブログに書くし、本屋でもおすすめしたいので、結果的にノージャンルになります。

「それでいいのだ!」と背中をバンッと叩いてもらったような気分です。

 

また、本業のコーチングという仕事でも、「何のコーチングなんですか?」「クライアントさんは性別や年齢やお仕事はどういう人が多いんですか?」と、よく訊かれます。

訊かれた時は、その時の状況や相手の興味・関心に合わせてそれっぽくお答えしておくのですが、実際のところ、一番真正面から答えるなら、

「人生を面白く生きたい人、生きてる実感を感じたい人、悔いのなく生きたい人、死ぬ時によく生きたなって思いたい人。そこに喜びがあると信じている人!」

ということになります。

自分のクライアントさんにはいちいち年齢や性別は聞いていませんし、ご職業やご経歴の仔細も聞きませんが、若手の会社員の方から、大企業管理職、経営者、起業家、フリーランスなどなど、実に多様な方々がいらっしゃいます。それでもコーチングが成立するのは、結局目指しているところは皆さん同じだから。もっというと、根源的に人が求めているものは普遍的だから。

本当はポッドキャストなども、ターゲットを絞った方が視聴者数は増えるのかもしれないですが、上記のように思う人たちは、やっぱり「老若男女みな!」ですし、

「本質的に面白いものは、世代や性別や時代を超える」と思うし、

むしろ、そういう人たちが「独立後のリアル」や、「ここみち書店」や、PASSAGEや、このブログや、コーチングや、 CTIという場所で出会ってつながっていってくれること、そういう場になっていくことにこそ面白味・醍醐味があるなぁと思ってしまいます。

何かと、分類したくなるニンゲン社会。

その時代も、そろそろ終わりに近づきつつあると感じているのは、ちょっと楽観的に過ぎるでしょうか。

 

本書は一つの起業ストーリーにとどまらず、私にとっては、自分が最近片足を突っ込み始めた(広い意味での)出版業界のことでもあったので、より一層自分に関係ある世界のものとして読めました。

まだ始めたばかりですが、本だけではなく本屋さんや出版社さんの情報にも自然とアンテナが立つようようになり、ミシマ社さんもユニークな本を沢山出されている出版社さんなのだということも知りました。

今度は、ミシマ社さんが出版された本も読んでみたいと思います。

 

mishimasha.com

 

ミシマ社さんのウェブ雑誌:ミシマガ

www.mishimaga.com

 

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本書に出てくる本:

街場の大阪論

街場の大阪論

Amazon
遊牧夫婦

遊牧夫婦

Amazon

 

本書に出てくるポッドキャスト:

podcasts.apple.com

その他ミシマ社さんの本

などなど。