相当の本好き・活字好きでなければ、まず出会わないであろう1冊。
編集者の方のための本。
「たのしい編集(和田文夫氏・大西美穂氏 共著、ガイア・オペレーションズ発行、英治出版発売、2014年1月初版)」
帯は「<本づくり>に携わる、すべての人に伝えておきたい編集技術」
私がこんなマニアックな本を手にしてしまったのは、それこそ「ここみち」(=心の向くまま・導かれるまま)な感じです。
英治出版さんのオフィスを使って開催されたワークショップに行った時に、壁一面にずらりと並ぶ本、今日は全部割引で買えますよ、とご案内があって、それはすごい!と物色して出会ってしまった中の1冊です。
サイズといい、手触りといい、なんだか妙に惹かれてしまいました。
CD(これ自体古い)のジャケット買いみたいな。
奥深い編集の世界
また、その頃、現代ビジネス・オンラインの記事の編集を手伝っていたことがあって、「編集」というものの面白さ・奥深さにも関心があったからと思います。
「編集」と言えば、タイトル、文章の構成、表現、校正といったことしか思いつかなかったのですが、
細かいレイアウトから、装幀、紙質、色合いまで、
そしてもっと本質的に、どのような本を世に出すべきか、というところまで、
とても壮大で、奥深く、そして果てしなく細かい世界を垣間見ました。
プロの編集者の方のための本なので、「文字を組む」といった私にとっては新鮮な表現があったり、「ダーシ」とか「ハシラ」とか、意味不明な言葉も満載な部分もありますが、まぁその辺りは流して。
本のサイズ、紙質、余白や行間・字間、行数・文字数、読者の読むスピードまで考えたページ繰り、フォントといった細部までに心を配る著者の姿勢から、本と活字への果てしない愛、著者への敬意、読者への想いを感じます。
いちいちナルホドと思うことが多かったのですが、とりわけ、余白についての美学は、ほほーー、と思いました。
僕がまず気にするのは、余白だ。余白というのは、余った白ではなく、白を余らせることである。余白は<何もない空間>という意味ではもちろん、ない。外部世界と物語の世界を遮断する緩衝地帯のようなものといえよう。映画館のスクリーンのまわりが闇で閉ざされているのと同じだ。つねに目のまえにある日常の現実を遮断するための闇、あるいは余白。それによって僕らは未知の世界へ没入することができるのだ。(中略)
(中略)美しいレイアウトとは地味なデザインであり、読む人に文字や文字のかたまりを意識させず、文字から喚起される想像の世界へすんなりと導いてくれる。そのためには余白の存在が不可欠だ。(p.37-38)
コーアクティブ・コーチング®️でも、スペースというものをとても大切にしていますが、そこにも通ずるものを感じます。
ちなみに、ここで、「ただ見ているだけで幸せな気分になれる余白」として紹介されている本は、先日、このブログでも紹介した「壁を破る言葉」(岡本太郎氏著)。確かに、彼の世界に吸い込まれました。
本づくりの哲学は、すべての仕事に通ずる
本づくりについての本なのですけれども、そこに流れる哲学は、そのまま、ものづくり全般、いえ、仕事全般に共通するものと感じました。
そう、本なんて、とことん、たのしんで作らなければ伝わらないし面白くない(p.23)
やっぱり、自分がつくった本を伝えたい、読ませたいっていう強い熱意じゃないでしょうか。そういう想いで作った本は、かならず残る。きっと読者に伝わると思う。そういう本だったら、私は損得勘定ぬきでお手伝いしたいですね。(p.153、(これから編集者に求められることは、という著者の問に対しての尼ヶ崎氏の言葉))
相手を尊重し、偏見をすて、無意識のうちに傷つけないように気をくばることは、なにも編集者にかぎらず、人間としてのあるべき姿ではないだろうか。そうした視点に立って、言葉に対する感覚を磨いていってほしい。(p.191、ことばの暴力について)
いわゆる編集者然とした人がつくった本が面白いかっていったら、そんなこともない。つくりたい人が面白くつくったほうが、俄然、面白い本ができるわけですよ。(中略)<面白い>というのは、なにも楽しい内容だったり、ハデなつくりだったりなんてことじゃなくて、地味でも貴重なコトだとか、真に伝えたいコトだとか、その人個人の中での<面白さ>という意味です。(p.222-223、大森氏)
ただひとつ言えるのは、読む人は、おもしろい作品、感動する作品、好奇心を満たしてくれる作品、世界の見方や自分の生き方を根元から変えるような作品をつねに求めていることだ。(p.242、未来の本について)
<おもしろい>の対象は人によって様々だ。また、これまでにない新しい企画(テーマ)など、そうそうお目にかかれるものではない。膨大な既刊本のなかで、すでに出尽くしている。企画の<おもしろさ>とは、実は、視点、切り口、見せ方、構成、すなわち編集の仕方にあると再確認できたのである。(p.250)
売れそうだとか、意義があるとか、著名な人の作品だからとかに惑わされてはいけない。もちろん、それらも重要な要素ではあるが、まずは素の自分がひたすら<おもしろい>と感じる感覚を大事にしろということだ。(p.251)
本をつくるとは、その色気をどうやって箱のなかに閉じ込めることができるかだ。(中略)
読みたいと思わない本にはオーラも色気もない。なんとかして自分を売り込もうという姿勢しか見えてこない。(p253)
日本語の豊かさを感じる
漢字の使い方、句読点の打ち方、表現の仕方、タイトルのつけ方・・・。
こういったことについてこんなに沢山の書くべきことがある。
また、本書で紹介されている編集に関する本の数も膨大。
本や活字、編集についてこれだけの本があるということ自体が、日本語の豊かさ、日本人の美的感覚の豊かさを感じます。
私自身、例えば、「寂しさ」と「淋しさ」には、異なる感覚を持っていて何となく使いわけていますが、こういう機微をも表現しうる、日本語という世にも奇妙で美しい言語を母国語に持っていることを、とても幸運に思っています。
もちろん、すべての言語にそれぞれの良さがありますけれども。
編集とコーチング
ところで、編集とコーチングは、ものすごく相性が良いと思っています。
本書から伝わってくる編集者に求められること、
例えば、
著者の願いは何か、作品の奥底に眠るものは何か、を探して言葉にしていくこと、
著者の壁打ち相手となり、新しい視点をもたらし、また客観的に自分を観れるようにすることを手伝うことなどは、
コーチングスキルそのものです。
私自身、先述のオンライン記事編集に関わった際、編集は初めてでしたけれども、コーチングスキルがものすごく活きました。
編集に携わる方々には、コーアクティブ・コーチング®️、是非ともお勧めしたいです。
このことは、いずれまた、ここみちノートの方で書いてみたいと思っています。
余談:
明らかに校正力が試されている箇所もある一方、その他にも、読みながら、あれ、この項、この順番でいいのかな?と思うところ、ここのスペース必要なんだろうか?と思うところ、ここは漢字にしないんだろうか?と思うところが数カ所。意図的なのかどうか、ご本人に聞いてみたい。
Author: 畑中 景子|コーチを探す|CTIジャパン
(お気に召す本がありましたら、ぜひシェア頂ければ幸いです。)
インタビューに登場されていた方々の本:
越前敏弥氏(翻訳家)
大森裕二氏(装幀家)
尼ヶ崎和彦氏(プリンティング・コーディネーター)
本書で紹介されている本。いろいろな本があるのですねぇ:
優秀な編集者と言えば: