ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

おこりっぽいやま

熊本地震の最初の揺れから早半月。被災された方々に心よりお見舞い申し上げるとともに、皆様の安全と、1日も早い地震の収束と復旧をお祈り申し上げます。

 

被災地の様子の報道には心が痛むばかりですが、地震や噴火など、自然災害があると決まってこの本を思い出します。「おこりっぽいやま」(作:三田村 信行氏、絵:武井 武雄氏)。 何の励ましにもならず、むしろ後味はとても微妙なのですが、考えさせられます。

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確か、祖父にもらった絵本だったと思います。もらった頃は、畏れ多くも武井氏の美しい絵にも興味を示さず(注)、本文も当時読んだかどうかも怪しいですが、絵も内容も、大人になってからの方が響きます。大人になって読み直したい本シリーズ第3弾にあたる、と今書きながら気づいています。(第1弾は星の王子様、第2弾はフォレスト・ガンプ)。

 (注)武井氏は大正13年に日本で初めて童画の個展を開き「童画」という言葉を誕生させた方だそうです。

 

こんなお話です。

かつて海の底にあった怒りん坊の山がどっかーんと噴火して海の上に頭を出した。

怒り疲れた山が風に吹かれてうとうと眠るうちに、山は緑の島になって、動物や鳥が住み着き、いつか人間も住みついて、畑を耕し小さな港もできた。人も動物も、何代も平和に暮らした。

ある日目覚めた怒りん坊の山。またどっかーんと火を噴いた。人々は逃げ去り、島はまた赤茶けた山に戻った。

山はまたぐっすりと眠った。何百年も。人間がまた街を作ろうとやってきた。ダンプカーを走らせて立派な街を創った。

そして、最後はこんな言葉で結ばれています。

ひとびとは おこりっぽい やまの ことを わすれて しまった。

もし ねむりつづけている やまが めを さましたら・・・。

そして また かっかと おこったら・・・。

でも いまでは だれも そんなことは かんがえも しなくなっていた。

 

自然は美しく私たちを癒してくれますが、同時に容赦ないものでもあります。自然を大切にしながら共存していらしただろう熊本の方々にさえもこんな試練を与えるのですから。 

 

自然の圧倒的な力と被害の大きさの前に、どんな言葉も不適切に思えますが、連鎖的に起きる地震や地形の変化からは、地球は地球のペースで生きており、私たち人間はその上に生かされている存在なのだということを、改めて感じさせられています。

本書の末尾の文章を今改めて読むと、私たちはそのことを忘れてしまって考えもしなくなっていたのか、それとも、考えてもどうしようもないので考えもしなくなったのか、あるいは、そんなことは信じたくないので考えもしなくなったのか、いずれの可能性もあると思いました。

阪神・淡路大震災、東日本大震災、そして今回の熊本の震災。多くの犠牲から私たちが学ぶべきことは、まず、私たちはこういう危険を抱えた土の上に生きているということを直視するということかと思います。

そして、考え尽くすことで工夫できるところは、途中で思考停止せずに、進歩した科学・技術の力を活用していく。

その上で、最終的には、どんなに人間が頑張ったところで、自然の力をねじ伏せることはできないという謙虚さを失わないことが大切ではないかと思っています。どんなに技術が進んでも、できるのは予測の精度を高め、それを行政や建設に活かし、そして災害が起きた時の対応に万全の備えをするまでではないかと。どんな免震・耐震を施しても、全ての建物が絶対に倒れないとは誰も言えません。ましてや、自然をコントロールすることなどできません。もし地球の動きを何かの方法で直接制御しようとするなら、それは人間のおごりではないかと懸念します。

現実を直視し、今私たちができる最善と思える危険への備え行った後に、私たち人間ができることと言えば、月並みですが、今日1日の命があることの有り難さに感謝し、今日の世界の美しさを味わって、毎日をただ生きて行くということしかないのではないか、と。そして、今日も明日も、自分が、あの人が、皆が、幸せに生きていけるようにとただ祈ること。それから、役所や専門家が発表する情報を待つのとは別に、自分たちが住む土地のご機嫌や変化の様子に意識を向けること、地球が生きている存在であり、変化している存在であることを体で感じること。災害時の対応の経験値と合わせて、非科学的ではありますが、人間の小ささや自然に対する畏敬の念も、平穏な時から伝えていくべきことではないかと感じています。 

 

日本は他国と比べても自然災害が多い国です。また木造建築ゆえ、過去には大火も多く発生しました。これは根拠のない勝手な仮説なのですが、日本人の助け合いの精神や思いやりの気持ちは、祖先の時代から、誰のせいにもできない災害に幾度も見舞われ、敵味方なく皆で団結して乗り越えてきたことも関係あるのではないかと思っています。また、勤勉に働いてせっせと蓄えたものを、自分には全く及ばない自然の力により、文字通り全てを失うことを多く経験したり見聞きしたりして、この世の諸行無常や儚さ、執着の無意味さを、体験的に・遺伝的に、知っているのではないか、とも思います。私たち日本人の真の強さはこういうところの中にあるのではないかと。

 

くじけても立ち直れるしなやかさが私たち一人一人に与えられていることを、

支え励まし合える関係性であることを、

全てを失ってもまたやり直せる世の中であることを、

祈ります。

 

本書はもう絶版のようで、Amazonでは中古品しか手に入らないようですが、武井武雄氏の美術館「イルフ童画館」のミュージアムショップで、復刻版が手に入るそうです(通販あり)。こちらの美術館、是非行ってみたくなりました。

 

おこりっぽいやま (ひさかたメルヘン (23))

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東京防災

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ガイア―地球は生きている (ガイアブックス)

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