国際協力、特に途上国支援に関心がある方、もしくは、人生半ばに至ってこの先自分はどうしていくのかなぁ?と思った方に良さそうな本。
「悩んでも迷っても道はひとつ: マリ共和国の女性たちと共に生きた自立活動三〇年の軌跡」(村上一枝 著、小学館、2024年2月初版)
著者の村上さんは、もともとは歯科医として日本で開業されていた女性。
40代半ばでマリ共和国を観光で訪れたことをきっかけに、その3年後には、48歳で開業医を辞めて、マリ共和国でボランティア活動を開始。その後30年間にわたって活動を続けてきた方。
「カラ* = 西アフリカ農村自立協会」というNGOを立ち上げて、現地の方々と共に活動してきた様子が、本書に描かれています。
*CARA。英語では、Cooperation Association for Rural Independence in West Africa、現地の公用語であるフランス語では、ASSOCIATION POUR LA COOPERATION ET L'AUTOGESTION RURALE EN AFRIQUE DE L'OUEST。
「ムラカミ」と呼ばれて現地で慕われてきた彼女がCARAを通じてマリ各地で行ってきた建設、設置、人材育成などの活動は、以下のとおり(p.147-148)。
小学校21校、中学校3校
産院・診療所 16院
識字教室70か所、女性センター19か所
深井戸掘削71基、浅井戸掘削80基、トイレ設置30基
野菜園34か所、造成林20か所
助産師・看護師の養成16人、女性健康普及院の養成207人
マラリア予防、腸内寄生虫駆除、エイズ予防
海外協力畑を歩んできたわけでもない。
フランス語に堪能だったわけでもない。
それでも導かれるように、自分の道に出会った方。
子どもの頃、本で読んだアルベルト・シュバイツァー博士のアフリカでの奉仕事業に心を打たれ、憧れていた。また、私が歯科医師を目指したきっかけでもある歯科開業医だった父が、地元、岩手県宮古市の山間部で無医村を回り無料診療していた話が心に残っていたこともあるだろう。
しかしなんといっても、西アフリカのマリの旅先で目にした、巡り合わせとしか言いようのない経験がすべての始まりだった。(p.13)
仕事を辞めるだけでも大きな決断なのに、私財を惜しみなく投じているところにも、本気のコミットメントを感じます。
ただ、それは、本書から伝わってくる限りでは、「そうしなければならない」という義務感や犠牲の気持ちよりは、ご自身がそうしたくてそうしている、というように感じられました。
それは何か、著者が天から授かった使命がそうさせているような感じ、とも表現できるのかもしれません。
小さい頃に憧れたもの。
どうしても、それが気になってしまうもの。
旅先で心を動かされること。
こういうことは誰の身にも起きていると思います。
それを心に留めるか、一つの体験として終わりにするか、
動き出すか、はたまた忘れ去るかで、
人の人生は変わってゆくのだなぁと思います。
自分のミッションに真っ直ぐに生きる姿に、村上さんのリーダーシップを感じます。
本書では、援助の実態も、現場の目線で描かれています。
お金を渡すのは実は簡単で、その瞬間はとても華々しいけれど、現実はその先にある。
現地で根付かせることや継続することは、果てしないとても地道な活動です。
そして、それは外国人がやってあげるべきものではなくて、最終的には現地の人たち自身でやっていけるようにならなくては意味がない。
援助しようとするなら、どうやって根づかせて、どうやって自分たちは退出していくのか、そこまで考える必要があります。
そもそも「援助」って何なのか。どこまでが必要なのか。
どこまで行っても正解がない世界。
援助の実務に当たる方々も日々悩まれながら活動されているのではないかなと思いますが、本書は、本当に現地のためになる援助とはどのようなものなのか?を考える時に一助となる一冊かと思います。
そして、キャリアという側面からは、こういうスゴイ人のストーリーを読んでしまうと、圧倒されて、自分には無理、となってしまいそうですが、それは著者の願うところではありません。
むしろ、48歳から真新しいことを始めてもキャリアになるのか!
40半ばで始めても、30年も活動できるのか!
というところに刺激を受けて、小さなところから始めていくことを、著者もきっと願っていらっしゃることと思います。
それにしても、地道に活動してきたことも、国内でのイスラム過激派組織によるテロや襲撃などによって脆くも崩れ去っていくところにも、なんとも言えない切なさを感じました。
これもまた現実。
でもご自身がやってきたことの価値を無意味なものとはしない姿勢が素晴らしいなと思いながら読みました。
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CARA(カラ)について