ここみち読書録

心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

夜中の電話 父・井上ひさし 最後の言葉

諸事情あり、最近よく家族会議をしています。そんな中で母が「すぐに読んでほしい」と言った本。

井上ひさしさんが癌の告知を受けた後、ご自身がつくった劇団・こまつ座の引き継ぎ手として任命した三女・井上麻矢さんに対して、毎晩のように電話をかけて話したことを麻矢さんが書き留めていたものです。

夜中の電話 父・井上ひさし 最後の言葉」(井上麻矢氏 著、2015年11月初版、集英社インターナショナル)

夜中の電話 父・井上ひさし 最後の言葉

23時過ぎに「マー君ちょっといいかな。三十分だけ。今日はどうでしたか?疲れていないですか?」(p.18)と電話がかかってきて、それが終わるのは明け方、遅ければ朝の8時や9時まで続くこともあったそう。

生きるということについて、劇団の社長業という仕事について、娘に伝えた言葉には、ひさしさんの生き方、価値観が滲み出ています。

 

私自身は井上さんの著作は、大変失礼ながら、読んだのは絵本の他は多分1冊程度、劇は観たことがなく、そういう意味ではニュートラルに読みました。

本書を読む限り、ご自身が育った家庭も、自分がつくった家庭も、非常に複雑そうであり、ウィキペディアなどによりますと元奥様へのDVなどもあった模様で、もしかしたら本書は、お父さんが大好きな麻矢さんにより、良く描かれ過ぎている部分もあるのかもしれませんが、77の言葉はメモしておきたいものばかりでした。全部ここで引用すると著作権上よろしくなさそうなので、さすがにそれは控えておきます。

母がどの言葉を私に伝えたかったのかはわかりませんが、今の私に特に響いたもの、後から読み直したらきっと自分の助けになりそうなものを、引用しておきたいと思います。

 

二 人生はなるべくシンプルに生きる。複雑にしてはいけない。複雑になっていると感じたら、どうしたらシンプルになるか考える。(p.35) 

三 問題を悩みにすり替えない。問題は問題として解決する。(p.37)

四 人間は誰でも頭の中にやっかいな不安の虫を飼っていて、それが暴れ出して、不安を作り出す。その虫を飼い慣らして、騒ぎを抑えること、人生はその連続。(p.39) 

五 自分という作品を作っているつもりで生きていきなさい。(p.41)

一一 自律しないと本当に人なんて助けられない。まず自律すること。(p.52)

一三 むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと。まじめなことをだらしなく、だらしないことをまっすぐに、まっすぐなことをひかえめに、ひかえめなことをわくわくと、わくわくすることをさりげなく、さりげないことをはっきりと。(p.55)

一五 言葉はお金と同じ。一度出したら元に戻せない。だから慎重によく考えてから使うこと。(p.58)

一七 自分を大切にすることは、人を大切にすることと同じ。(p.61)

一八 決定的なことは最後まで口から出さない。(p.62)

二〇 逃げ道は作らない。(p.64)

二七 笑いというのは財産である。(p.73) 

三五 種を蒔くこと。たとえ今、芽が出なくても、ひょんなことで花を咲かせる。(p.84)

四〇 プロには美学というものがあって、その中で生きている人は静かに仕事をする。(p.91)

四四 切符が売れないのは、死に物狂いで売ろうとしていないから。(p.100)

五八 最後のいいところをお客様に持って行ってもらうため、作り手は熱くならない。常に同じ温度で淡々と仕事をする。作り手が熱すぎると受け取り手は冷めてしまう。(p.118)

七七 忙しい時こそ、映画を観て本を読め。(p.142)

 

それぞれ、言葉の後に、いろいろなエピソードが書かれています。 

 

とりわけ四〇は響いたので、もう少し引用させて頂きます。

 

四〇 プロには美学というものがあって、その中で生きている人は静かに仕事をする。

 「プロというのは、静かにやってきて黙々と仕事をし、静かに帰っていくよ。それが本物というもの。見ていてごらん。うるさく音を立てる人間は、よく観察していると結局愚痴や文句ばかり言って何をやったかわからない。仕事は静かにするものだ」

(中略)

 「仕事場にいく時に、気分が落ち込む原因は、その場所で自分の立ち位置がよくわかっていないからだ。仕事が楽しくないのを会社のせいにしたり、自分の実力不足のせいにすることは簡単ですが、少し見方を変えて立ち止まってほしい」と父は話してくれた。

 プロというのは、仕事場で自分がしなくてはならない仕事が何かわかっている人のことである。だから騒ぎ立てて時間を浪費したり、自分の仕事以外のことで口を挟んでこない。自分の居場所がわかるから相手の領域もきちんとわかっているのだ。

(中略)

 「駆け出しの頃は何も知らないから毎日が発見と驚きの連続だ。それを過ぎて中途半端な時期に、どうやら人は思い悩む。早くプロという地点まできなさい。その過程がどれだけつらくてもそれを超えたところに道はある」と言っていた。

 「プロになるのは厳しい。今の仕事がつらいのは、まだプロになっていないから。本物のプロになれば大変だけど楽しいよ。プロというのは、自分で決めたことはどんなことがあっても実行してしまう、強い魂の持ち主を言うのです」と父は嬉しそうに言った。(p.91-93)

 

何事であっても、何かを極めた方の言葉には力があります。

 

それにしても、この麻矢さんは本当にお父さんのことが大好きなんだなーというが、本から伝わってきます。そういう感想を母親に伝えたら、「あなたもね」と言われてしまいました。

確かにね。親子というのは、衝突しても、ウルサイ!と思っても、最後は戻っていく、不思議なものですね。

ひさしさんも、大好きなお嬢さんを通じて、自分の言葉が世に表現されていることを、きっとあちらの世界で喜ばれていることと思います。

 

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