ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

八日目の蝉

角田光代さんの講座に参加する機会があったので、その前に、と思って読みました。

サスペンスは苦手なのに、そうと知らず表紙をめくってしまったら、もうその後は、読むのを止められなかったです。

素晴らしく没入させていただきました。

「小説って、こうでなくちゃ。」と思わせてくれる本。

「八日目の蝉」(角田光代 著、中公文庫、2011年1月初版)。

もともとは、2005年11月〜2006年7月に読売新聞の夕刊に連載されていたもので、単行本としては、2007年3月に出版されています。

 

八日目の蝉 新装版 (中公文庫)

 

不倫相手の乳児を誘拐した女・希和子の3年半の逃亡劇、そして、その誘拐犯に育てられた少女の物語。

希和子が誘拐した子供「薫」を愛情深く育てる様子に、犯罪者であるのに彼女が逃げ仰ることを応援してしまうのは、きっと私だけではないのではないかと思います。

 

物語の展開も構成も素晴らしいのですが、それ以上に、この本は、フェミニズムや母性、シスターフッドについて書かれているものです。さらに言えば、愛とは何か、家族とは何か、を問う一冊でもあります。

だから、犯罪者の逃亡劇でありながらも、読みながら、どこか、自分ごとにもなっていきます。

社会にある通念や制度の不自然さにも気づかされます。

 

「ほら、あなたが言っているのは、美貌は目的ではなくて手段だということでしょ。美貌というものを使ってあなたが手に入れたいものは何?力?仕事?いい条件の結婚?」

「すると別れた人の心というのも手段ね」(p.99-100)

「もし魂で人と出会えることができたら、私たちの苦しみはほとんどが不必要だということになるよね。自分は女だ、自分は若くない、自分は醜い、そういう思い込みは全部、いらない荷物だと思わない?手放してしまえば、うんと軽くなるようなものだと思わないかな」(p.104-105)

 

そして、ストーリーに深みをもたらしてくれるのが、とても繊細で自然な情景描写と心理描写。

主人公が目にするもの・感じる風を、私たちも見て感じることができますし、
その情景の中で人間の揺れ動く心理を、こんな風に思い描いて表現できるというのは、
日頃からとても注意深く中立的な感性で世界を見ていらっしゃるからだろうと思います。

 

私が家を好きになれないのは、父と母が私に背を向けるのは、すべてあの女のせいだと思えば、少しだけ気持ちが楽になった。楽でいるために私はあの女を憎んだ。(中略)憎むことで私は救われ、楽になれた。(p.353)

 

人には、そうなっていくだけの事情がある。

この小説の登場人物だけではなく、自分にも周囲の人たちにも、そんな眼差しを持つことを教えてくれているようにも思いました。

 

本もベストセラーでしたし、映画にもなり、ドラマにもなったので、多くの方々知っている作品と思います。

小豆島に住む友人は、映画版を強く勧めてくれました。

まだ読んだり見たりしていない方は、ぜひどうぞ。

 

なお、講座(神保町PASSAGEの書評講座)で初めて直接お話を伺った角田さんからは、「本当にご自分が感じたことだけを、誠実に語る方」という印象を受けました。

余計な言葉で合間を埋めようとしたり、なんとなくの反応で流していくこともしない。

自分の内側を探りながら丁寧に言葉にしていかれる様子に、自分に嘘をつかないあり方と、言葉とオーディエンスに対するリスペクトも感じました。

アーカイブはこちらで視聴できます。

 

allreviews.jp

 

おまけ:

本書のことを、今回読むまで、ずっと「八月の蝉」と思っていたのでした。。。

「100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集 」でも、同じ間違いをしていた人がいたような気がします。。。

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八日目の蝉

八日目の蝉

  • 井上真央
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