DX、DX。言葉だけはたくさん聞くけど、それって実際はどういうこと?
ITには疎いけど、世の中の流れくらいは追っておきたい。
DXを担う人材にはなれないけど、せめてこういう領域のお仕事されている方とも多少の会話はできるようになりたい。
・・・という私にはぴったりの本でした。
「DXの実務――戦略と技術をつなぐノウハウと企画から実装までのロードマップ」(古嶋十潤 著、英治出版、2022年6月初版)
こんな人にオススメ
読んでみて感じるおすすめの読者は、こんな方々です。
- 技術者じゃないけど、DX、AIがどういうものなのか知りたい。(←私)
- 社内の技術者をもっと理解して協働関係を築きたい経営者やリーダーや戦略部門の方々。
- ベンダー任せのシステム開発に危機感を感じている方。
- どうやればいいかわからないけど、「とにかくこれからの時代はDXをしないと!」と焦って手っ取り早い何かを探している方。(→そんな簡単なものではないというのがよくわかります)。
- DXは始めたいけど、何から手をつけていいかわからない方。
- 日頃からデータの蓄積も管理もされていない組織なのに、社長や幹部が突如「我が社もDXするぞ!」と言い出して、振り回されそうな嫌な予感を感じている方。(←けっこう多そう)
- 自分は技術者だけど、社内のnon技術者の理解を得ていきたい方々。
本書では、対象者についてこのように表現されています。
本書は「技術者ではない方々」を読者として想定した、デジタルトランスフォーメーション(以後、DXと略記)に関する「戦略」と「技術」の双方を解説する書籍です。また、数あるDXのテーマの中でも「データ利活用」に焦点を当てて解説しています。(中略)
DXに関する書籍は多数出版されていますが、本書が他の書籍と大きく異なる点は、データやAIといった技術に触れたことがない方々を想定しながら、データ利活用に関する「戦略」立案の方法だけでなく、データ/AI活用で必要となる「技術」についても解説していることです。特に、エンジニアリングやデータサイエンスといった技術に触れた経験が少ない、もしくはまったくない中でDXに取り組む必要がある方々を想定しています。(p.2)
正直なところ、高1で数学をギブアップした私には、AIについて扱った章(Part 5)の途中くらいからはもう理解が追いつかなくなりましたが、
それでも、可視化や、分かりやすい言葉に置き換えて書かれていたり、スッキリしたページデザインなどに助けられて、不思議と読み続けることができました。
難しい話をするとき、こういうデザイン的なことも大事ですね、という気づきにもなりました。
(なお、図や脚注は文字がだいぶ小さいところもあるので、しっかり読みたい&小さい文字が見えづらい方は、読書用ルーペなど用意されても良いかもしれません。)
DXとは何か
さて本題。DXとはそもそも何か。
筆者はDXとは「データ利活用を基軸とした経営改革」だと考えています。
「大規模なシステム開発による業務自動化」や「AI活用による顧客への商品提案の最適化」、「製造ラインにおける不良品検知」など、DXによって実現したい内容には多種多様な見方、考え方がありますが、それが持続的に改善・拡大するためには、「その活動を通じてデータが一貫して活用されているか」という視点が根本的に重要だと、筆者は考えています。(p.15-16、太字はブログにて勝手にしました)
基本的なことなのかもしれませんが、単語だけが一人歩きしている感じもしたので、定義はありがたかったです。
「データ利活用」するものであること。
そして、「経営改革」であること。
データだけ捏ねくり回しても、それが経営改革に貢献していなければ、それはデータ遊びで終わってしまう。
一方、トランスフォーメーション(変容、変態)は、別にデータを使わずにできるものもある。その場合、無理してDXをする必要もない。
DXをやるならそれなりの覚悟を持てということは、本書を通じてひしひしと伝わってきます。
データ活用/DXありきの軽率な経営改革や施策実施は絶対にやってはいけない(p.56)
DXの実務は、経営戦略、顧客体験デザイン、サービス設計、ITシステム構築、AI実装などさまざまな観点が包含される、言わば"総合格闘技”のような世界です。(p.105)
戦略と技術 つながってこそ意味がある
DXの実現には、戦略と技術の両方が必要。
かつ、そのその両方が噛み合ってこそ意味が生まれます。
このことについて、口酸っぱくこの本で触れられていますが、本当にこれはどれだけ言っても言い過ぎではないだろうと思います。
戦略だけを描いても、絵に描いた餅になってしまう。
技術だけを極めていても、本当に必要なニーズに合っていない場合もあるし、社内で使える人間がごく一部になってしまっては、それも意味がない。
結果がうまく出ない時や、難しい局面になった時に、よく見る光景は、片方がもう片方を批判している様子。
川の両端にいることに喩えてみるなら、
ついつい、私たちは、相手側から橋をかけてもらうのを待ってしまいがち。
本来は、川の両端にいる人が、両方から橋をかけていくことが必要だと思います。
戦略の人も、技術を理解しようとすることが必要だし、技術の人も戦略まで理解しようとする必要がある。
多くの組織が「戦略を技術に落とし込む」ことができていない理由についての筆者の見解は、戦略を描くだけでなく、描かれた戦略の意図に沿ってビジネスの現場で実際に技術開発と実装、モニタリングを主導することができる組織体制、メンバーが欠けているからだと考えます。つまり、DX実現の成否は、戦略と技術を繋げられる組織/人材のレベルに依存する、ということです。(p.31)
戦略と技術を繋げられない組織で起きる問題の具体例は本書でも紹介されています。
さらに私が付け加えるならば、「その戦略って妥当なんですかね?」と技術側から戦略側に領空侵犯することができる組織は強いだろうと思います。
そういうことができる能力がある、加えて、そういうことをしようとする意欲と勇気のある人材のニーズがますます高まっているだろうと感じました。
データは利活用され続けてこそ意味がある
私がとても共感したのは、戦略も技術も、「作りっぱなし」になりがちだと本書が繰り返し警鐘を鳴らしている部分です。
戦略や企画、各種施策は往々にして”作りっぱなし”になりがちです。経営課題や事業課題、顧客ニーズは日々刻々と変化し続けるため、戦略や企画、施策は変化に応じてアップデートし続ける必要があります。(p.33)
"作りっぱなし"は、DXに限ったことではなく、実にいろんなところで起きると思います。
- 一度立てた戦略が作りっぱなしになって、ビジネス環境は変化しているのに戦略はそのままになっている。
- 最初の戦略のためにデザインした施策が、今や効果はわからないけれど、誰も検証することなく施策だけが続いている。
- データ利活用が検証されず有効性も活用方法も曖昧なまま、繰り返しデータだけは集めて分析する、など。
DXにおいては、何のためのデータ利活用かといえば、「データの利活用を通じて経営が継続強化される」ためのもの。だから「データ利活用が継続強化され続ける”サイクル”を描くこと」が必要。(p.54)
「そもそも分析結果を組織的に運用する目的の主眼は、可視化したデータを元に、何かしらの組織的意思決定の「効率化・迅速化・質的向上」を実現すること」(p.94)
そんなふうにデータが十分に使い倒されているのか。
各取組の成果確認ができるようなKPIの設定の仕方とモニタリング(p.119-124)などは、データを扱うなら、なおのこと意味を持ってくると思います。
なお、こういった検証をする際、「顧客視点」を起点にすることは、忘れそうなので、備忘的にメモしておきます。(課題を考察する際、その起点は当然「顧客視点」です。(p.56))
そして、この実行と検証と反映の取り組みを「続けていく」ことが大事。
ビジネスは刻一刻と変化し続けます。それはつまり、ソリューションを生み出すエンジンとして機能するデータ基盤も刻一刻と変化し続けなければならないということです。(p.81)
ずっとやっていくもの。そのつもりでやっていく必要がありますね。
DXは単発・短期で終わる取り組みではなく、今後数年、あるいは10年以上かけて推進される取り組みです。その取り組みが継続されるには、DX実現に向けた実務担当者の「熱量」が、絶対に必要です。(p.60)
ローマは一日にして成らず
DXは魔法なのか、そうじゃないのか。
それは、魔法を使える土台がその組織/人材にあるのか、ということも大いに関係がありそうです。
組織的にデータ活用そのものが浸透していない、DXに関する取り組みが未成熟な状況では、まずはデータを分析して示唆を見出し、活用するという組織風土や活動の定着が不可欠です。そういったフェイズをスキップし、いきなり組織横断で高度なデータ活用が求められるソリューションを実装していくことはハードルが高すぎて、DX担当者には耐えられない重責となります。(p.83)
「収集したデータの質と量が、施策を生み出す成果に結実する」(p.127)のですから、データを収集する体制になっていないと、そもそも、出発点にも立てません。
せっかくデータ収集して利活用できるように準備をしても、それを経営判断に使わないのであれば、やる意味もありません。
組織の中で多くが協力的ではないのに、 DX担当者/部署に丸投げするのは本当に酷だと思います。
いい喩えかどうかわかりませんが、たとえば、サーフボードは、泳げて、体幹がしっかりあって、波の特性もよくわかっている人には、海の上に立って波に乗る爽快さを体験できる素晴らしい道具ですが、
そうでない人にとっては、単なる大きな長い板で、海に入ってからも邪魔になりかねないものです。
海にいる多くの人がサーフィンの面白さを知らなければ、こんな危ないものを持って海に入ってこないで!となってしまいます。
変革というと、何事も大きく行きたくなってしまいますが、「まずは手動で運用するレベルの取り組みから始めることを筆者としては強く推奨します」(p.261)という言葉には、とても共感しました。
DXに取り組むということは、社内の人事や採用まで大きく変えていくことになりそうです。
データの利活用を組織的に実装すると、このような仕組みが構築されるだけでなく、着実な運用が求められるため相当程度のエンジニアリング力が求められます。また、このような活動を外部に委託していると、エラー等の状況にスピーディに対応できず機会損失が一定期間発生し続けることになります。(中略)データ利活用の実現には、データエンジニアリングやデータ基盤構築/運用ができる体制が組織内に構築されていることが望ましいと筆者は考えます。(p.136)
余談:やっぱり数学は基礎だけでもしっかりやっておくといいですね・・・
本書は、技術者ではない人を対象にわかりやすい言葉が使われているので、DXやAIの考え方について少しその世界を垣間見れた気がしますが、私の場合は、数式までは理解できず。
数学をちゃんとやっていれば、、、と後悔するのはこういう時です。
もし中高生が、何かの偶然でこのブログを読んでいたならば、たとえ文系であったとしても、数学、ちゃんとやっておきなよ、と助言したくなるところです。
その他、AI側でやっていることを読みながら、Web閲覧しているだけでこんな情報も取られちゃうのかー、などという視点でも興味深かったです。(p.164)
自分の専門や得意分野以外の本を読むのは、世界を広げてくれますね🍀
この記事はこんな人が書いています。
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