3年ぶりに再読しました。やっぱり良い本だなと思います。
自分は一体何がしたいのだろう。今後のキャリア、どうしよう。
そんなことをぼんやりと思っている方がいらしたら、年末年始にオススメの1冊です。
「本当の仕事 自分に嘘をつかない生き方・働き方 」(榎本英剛氏著。2014年12月初版。日本能率協会マネジメントセンター)
帯の言葉がすごかったです。
「もし今のまま働き続けて、人生最期に「後悔しない」と言い切れますか?」
著者の榎本英剛さんは、日本にコーチングをもたらした人の一人であり、今もいろいろな活動で多くの人の生き方や働き方に影響を与えている方です。
本書は、榎本さんが開発された「天職創造」というプログラムの内容を、より多くの人たちに伝えるために、本にまとめたものです。
最初に書き始めてからいざ出版となるまでに約15年かかったとのことですが、それだけ読者に伝えたいメッセージがギュッと凝縮されているように感じます。
今の日本人にとって最も一般的な働き方—例えば、決められた時間に一定の場所に通勤して定時まで働いて帰宅する、一定の年齢になったら退職金をもらって定年退職するーが主流になったのは、多分、明治以降あるいは昭和になってからではないかと思うのに、これがもう当然であって他の道は普通ではない、というように思ってしまったりするのはある意味すごいことです。
本書は、働くということ、仕事というもの、について現代の私たちが無自覚に持っている思い込み気づかせ、新しい捉え方をする機会をくれます。
メッセージとしては、以前に紹介した「ソース」にかなり近いですが、現代の日本人である私たちには、本書はより現実的かつ実践的であると言えるのではないかと思います。
初版が出てから4年。もしかしたら、今初めて本書に出会っても真新しさを感じないという方もいるかもしれません。というのも、この間に、現実の社会で、日本でも本書が書いている生き方を選択する人が多く現れ、働き方改革や副業の承認など社会もその方向に動いていっていると思われるためです。
WORK SHIFT(ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉、リンダ・グラットン氏著、池村千秋氏 訳、2012年8月初版、プレジデント社) などにも共通して感じることですが、こうやって、ビジョンを示した方向に世の中は本当に向いていくのだなということを思う本です。あの時、ものすごく衝撃を受けたのに、今はもうそれが予測可能な将来の絵になっている。誰か一人の提唱者というよりも、世の中の人々の集合的な無意識の中に生まれるビジョン。榎本さんやリンダ・グラットンさんは、これらを適切なタイミングで言葉により表現して世に出してくれたという感じがします。
今という時代ー第4の解放の時代
現代について、榎本さんは、「モノの時代」が終わり「ココロの時代」になったといい、これについて、人類の歴史を「解放」というキーワードを軸に辿って、以下のように表現されています。
第1の解放:
時代:奴隷制
解放のレベル:身体的な解放
中心的な価値:自由
第2の解放:
時代:封建制
解放のレベル:社会的な解放
中心的な価値:平等
第3の解放:
時代:資本主義
解放のレベル:物質的な解放
中心的な価値:富
第4の解放:
時代:?
解放のレベル:精神的な解放
中心的な価値:意味
(p.47, 表1「第4の解放」より)
物質的な豊かさを求める時代から、精神的な豊かさを求める時代へ。
この新しい時代においては、仕事観も変わっていくべきではないか、と。
そのためには、今まで私たちが仕事について見ている「メガネ」(=思い込み)をかけかえる必要があります。
メガネをかけかえる
古メガネ1:仕事とは、「生計を立てるための手段」である
え、そうじゃなかったら何?と聞きたくなるような、あまりにも私たちに浸透している考え方。
新しいメガネでは「仕事=存在意義」(p.53)。
あくまでもその活動や行為が仕事かどうかを決める基準は、収入の有無ではなく、それがその人の存在意義に沿ったものであるかどうかというところにあるのです。(p.54)
字面では納得しやすいところかもしれません。
自分はお金のために働いているわけじゃない、と口にすることがある方も多いと思います。
けれども、実際には、報酬が高い仕事の方が価値がある、無報酬なものは仕事とは言えない、という感覚が、もう無意識に根付いているのではないかと思います。
例えば、会社の仕事をする傍ら、好んでボランティア活動をしている方など、人から「あなたの仕事は何ですか?」と問われたときに、ボランティアの方を「趣味でこんなことやっています」という風に表現している例はよく見ます。
このボランティアも大事な仕事と言い切ってよいはずだ、家族のためにご飯を作ることも、子供と遊ぶことも、誰かをケアすることも、そして時には自分自身をケアして探求し、成長・進化していくことも立派な仕事だと本書は教えてくれます。そう思えば、有給休暇をとってそういう時間を持つことに、何の罪悪感を持つ必要もない、むしろその時間に集中すべき、と思えてきます。
このブログも、私にとっては大事な仕事なんだな、と改めて気づきます。
古メガネ2:仕事とは、「やりたくないことをやる」ことである
仕事とは我慢代、だから我慢が必要な仕事ほど高給、という表現も世の中ではよく聞きます。それもそれで、個人的に納得する表現とも思っています。
ココロの時代の仕事とは、「やりたいことをやること」(p.102)。
この「やりたいこと」については、「純粋意欲」(p.84)というのが重要なキーワードになります。
純粋意欲とは、心の奥底から湧いてくる「これがやりたい」という気持ち・意欲。
誰かに認められるためとか、誰かを見返すためとか、これをしておいたほうが将来的には安全、とかそういう思考・打算からではなく、「理由はよくわからないけど、これ、やりたい!」というようなもの。「ソース」では「ワクワク」、「ビガーゲーム」では「渇望」として表現されているものです。
この辺りは、過去の記事で何度も触れてきているので、ここでは榎本さんの言葉で強く共感するところを、引用しておきたいと思います。
日々日常的に小さな意欲を何の気なしに抑圧していると、知らないうちにより深い、より大きな意欲にまで一緒にフタをしてしまいかねない(p.94)
本当にやりたいことをやるのは自分勝手で、他人に迷惑をかけるのでしょうか。
(中略)
見方を変えれば、人は自分が心からやりたいと思うことをやったとき、迷惑をかけるどころか逆に最もほかの人たちたいして大きく貢献できるということになります。
こうして見ると、やりたいことをやる勇気がないばかりに、それを抑圧してしまうことのほうが、むしろ「自分勝手」だと見ることもできるのです。なぜなら、その人がそれをやっていれば、もしかしたら多くの人たちがその恩恵を受けることができたかもしれないのですから。
(中略)
自分の心の底から自然に湧いていくる「これがやりたい」という気持ち、すなわち純粋意欲に素直にしたがうことが自分のもてる可能性を最大限に発揮することにつながり、それがひいては世のため、人のためとなって、自らも己の存在意義を強く実感できるようになるわけです。(p.100-101)
「皆がやりたいことをやったら、世の中が回らなくなる」と言いますが、そもそも今の世の中はうまく回っているのでしょうか。(中略)もしかしたら「皆がやりたいことをやらないから、世の中がうまく回らない」のではないかとさえ思ったりします。(p.118)
「心から何かをやりたいという気持ちは、神様が自分に与えてくれた贈りものに違いない」(p.80)
古メガネ3:仕事とは、「既存の職業に自分を合わせる」ことである
これからの時代私たちがすべきなのは、「仕事に自分を合わせる」のではなく、「仕事を自分に合わせる」。(p.144)
それはすなわち、
自分を仕事よりも小さな存在と見るか(自分<仕事)、仕事より大きな存在と見るか(自分>仕事)という違いでもあるのです。(p.144)
私たちは、職業という小さな箱にうまく収まるほどちっぽけな存在ではありません。(p.139)
日本の新卒時の就職活動は、この古いメガネの最たるものと思います。
どうしても最初のうちは、自分を採用してくれる会社があるだろうか、という意識で就職フォーラムや面接に臨んでしまいます。
ときどき学生の方に助言する機会もあるのですが、こういう意識でいる時は大抵どこの就職試験も受からない、と思います。
むしろ、会社に自分を当てはめに行くというよりも、自分がやりたいこととこの会社のビジョンはあっているだろうか、自分のやりたいことをここで展開していくことができるだろうか、ということを確認しに行く意識でいることをお勧めしています。
今世の中に自分の求める仕事がないならば、創ればいい。榎本さんの言葉を借りれば「創職」すればよい。
現代、当然のように存在する仕事の全て、過去に誰かが創った仕事です。
起業家でなく会社勤めの人であっても、今勤めている企業がそのままの仕事と形で生き残っていける保証はありません。会社は存続していてもその中身は大きく変わっていく、あるいは変えざるを得ない可能性があります。それを変えているのは、そこで働いている人たちです。
自分で仕事を創っていく、クリエイティブでいる、これはどこにいても可能なことであり、必要なことだと思います。
古メガネ4:仕事とは、「同時に1つしかもてない」ものである
副業を認める企業も出てきていて、このメガネの度はだいぶ緩んできたかもしれません。
かけ替えるメガネは「仕事とは、同時に複数持ってもいい」ものである(p.152)。
副業、というよりも、どちらも主ととらえて「複業」。
メガネ1の話とは矛盾しますが、本当にやりたいことをやってそこで生計を立てられるようになるまでの移行期間、「タクシー・ジョブ」(p.153、生計を立てるためにやむなくやる仕事)をして、生計を賄うということも現実的な手段の一つです。
また、そうやって複数の職業を持つことで「ポートフォリオ・キャリア」を形成することは、「リスクが少ないうえに、より自由で創造的な生き方ができる」(p.159) ことにつながります。
本書の中には、いくつかのワークが織り込まれており、それを進めていく中で、自分の純粋意欲にも触れることができます。
できることなら周囲の人にも対話につきあってもらったり、突っ込んでもらったりする方が効果が高いと思います。榎本さんご自身による天職創造セミナーの活動は今はされていないと思うのですが、トレーニングを受けた方々が「本当の仕事」ワークショップを開催されているので、こちらに足を運ばれるのも良いと思います。
いつも新しい視点を提供してくださる榎本さんに敬意を表するとともに、多くの方がこの本と出会われることを願って、最後は著者ご本人の言葉で締めくくりたいと思います。
私は、1人でも多くの人が仕事を通じて心の深いところから湧いてくるような真の喜びを感じられるようにという願いから「天職創造セミナー」という風変わりな名前の参加体験型プログラムを長年にわたって提供してきました。
これまで延べ1000人以上にそのプログラムを通じて接してきて思うのは、「もっと生き生きと仕事をするにはどうしたらいいのか」と悩みながら、間違ったところを探しているために、その答えをずっと見つけられずにいる人がいかに多いかということです。
世の中のほとんどの人は、生き生きと仕事をするためのカギは「どんな仕事をするか」や「その仕事をどうやってやるか」といった仕事の”目に見える”部分にあると思っています。しかし残念ながら、そこには探している答えはありません。
生き生きと仕事をするための本当のカギは、実は仕事の”目に見えない”部分、すなわち「仕事をどうとらえるか」や「なぜ仕事をするのか」といったことにあるのです。
もしかしたら、たまたま自分にぴったり合った仕事に出会い、しばらくの間、生き生きと仕事をすることは可能かもしれません。ただ、仕事を”目に見える”部分だけで捉えている限り、経済環境の変化や所属している組織の体制変更、あるいは人事異動など、自分ではどうにもできない外部要因によって、その仕事がいとも簡単に奪われてしまう可能性があります。
一方、仕事の”目に見えない”部分としっかり向き合い、「仕事をどうとらえるか」や「なぜ仕事をするのか」について自分なりの答えを見出した人は、いかなり外部環境の変化に遭遇しても、そう簡単に翻弄されることはなくなります。
つまり、それは生き生きと仕事をするためのカギであるだけでなく、レジリエント(変化に強い)で持続可能な生き方をするためのカギでもあるのです。(p.4-5 はじめに)
本年も、ここみち読書録を訪問頂きありがとうございました。
どうぞよいお年をお迎えください。
来年も、どうぞよろしくお願いいたします。

本当の自分を生きる: 人生の新しい可能性をひらく8つのキーメッセージ
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本書で言及されている人・本

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人は意味を求める動物である。(「本当の仕事」p.42より再引用)
(自分の存在意義がわからないという人に対して)「まず家の外に出なさい。そして、街をゆっくり歩きなさい。さらに、そこで出会う人や目にする出来事をじっくり観察しなさい。そうしたら、いずれあなたの求めている答えが見つかるでしょう。(「存在意義とは、他者や世の中との「関係性」の中で初めて見出せるものである、ということについて(「本当の仕事」p.57-58より再引用。)
この宇宙に存在するあらゆる生きものは皆、仕事をもっている。銀河や星、木やイルカ、草やヤギ、森や雲、鶏や象など、皆それぞれの仕事をただ黙々とやっている。そんな中で『仕事がない!』と大騒ぎしているのは人類だけだ。(「本当の仕事」p.60より再引用)

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「私たちにとって最も大事な仕事は、自らの内側の世界を秩序あるものとすることだ。」(「本当の仕事」p.64より再引用)
「あまりに多くの人が外側にある報酬や脅威のために仕事をしている。このように、自分の外にある賞罰に動機づけられるとその仕事は死んでしまう。」(同p.66より)

ワクワクする仕事をしていれば、自然とお金はやってくる (VOICE新書 001)
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本書に登場する天職創造した人たちの本:

死にゆく人と共にあること: マインドフルネスによる終末期ケア
- 作者: J・ハリファックス,井上ウィマラ[監訳],中川吉晴,浦崎雅代,白居弘佳,小木曽由佳
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