ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

息の跡 trace of breath

読書録、ときどき鑑賞録。

本日は映画「息の跡」の鑑賞録。

東日本大震災で被災した岩手県陸前高田市で、種苗屋を営む佐藤貞一さんについて記録したドキュメンタリーです。監督・撮影・編集:小森はるかさん。

もともと映画館に通う習慣はない私。昨年の春、田植え・稲刈り体験などでお世話になっている吉成邦市さんをはじめとする福島県天栄村天栄米栽培研究会方々を録ったドキュメンタリー「天に栄える村」を見るために、初めて行った小さな映画館ポレポレ東中野に、それから1年以内に計3度も行くことになるとは。どれも違う人から勧められたもの。この偶然に自分で驚いています。

2本目は、今年1月中旬の「人生フルーツ (Life is Fruity)」。

そして今回は「息の跡」。人生フルーツの予告編にも入っていましたが、実はその時は見に来ようと思ったわけではありませんでした。その2週間後、友人のお誘いで参加したはなそう基金Komo's英語音読会@東京で、代表の古森さんからこの映画の紹介があり、映画の関係者の方もいらしており。「ああ、あの予告編の」と思い出し。これも何かのご縁と思い、その場で前売券を頂いて、ようやく予定が空いた今日、行ってきました。

 

はからずも、今日は、3月11日。

 

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2011.3.11の津波で、家も店も親戚もご近所の方々も亡くした佐藤さん。

大きな悲しみの中から立ち上がり、自分でプレハブ小屋を建て、空きカンで井戸を掘り、「佐藤たね屋」を復活させます。

場所はもともと自分のお店のあったところ。津波で全てを流され、映像で見る限り、車のよく通る道沿い、周りにはコンビニ1件があるだけ。いずれは行政により土台のかさ上げ工事が行われる場所で、建てた小屋も全て取り壊さなくてはならないと知りながら、毎日をそこで真剣に生きる。

誰かが助けに来てくれるのをただ待っているのではなく、私たちには計りしれない悲しみを背負いながらもそれに屈することなく、思うようにいかないことに不満を言うのでもなく、ただ自分から動いていく。やるしかない、という決意と覚悟で。

その姿は、ただただたくましくて、その生命力に勇気を頂きます。

 

売っているのは植物の種。

でも佐藤さんが熱を注ぐのは、植物の種と苗だけではありません。

佐藤さんは、東日本大震災で自分が見たもの、経験したことを、手記にしています。

それも英語で。

もともと英語が得意だったわけではなく、独学で、勉強しながら書いていらっしゃる。なぜ英語かといえば、日本語ではあまりにも生生しくて悲しみが大きすぎるから。

最初は1ページくらいのつもりだったそうですが、3rd Editionの今は数十ページの立派な分厚い冊子になっています。「The Seed of Hope in the Heart」(Teiichi Sato)。

 

The Seed of Hope in the Heart: March 2014 ? Three years from “3.11” (English Edition)

 

佐藤さんの書くエネルギーの源にあるのは、震災の記録を残したい、伝えたい、という想い。

陸前高田を巨大な津波が襲ったのは2011年が初めてではなく、過去にもあった。でもその記録は日本には残っていなかった。記録があったなら、防災はもっとできたのではという思いと、記録があっても時間が経てば人間は忘れてしまうだろうという諦めの葛藤の中で、それでもこの震災を記録したい、と書き続ける。いずれ、日本だけではなく、外国でも役に立つことも思いながら。

英語版は既に海外の方に多く読まれ、その後、なんと中国語版「在心中希望的種子」も。そして今度はスペイン語にも挑戦中。ウェブによるとポーランド語も始められたようです。

もはや言葉では説明できない大きなものが、佐藤さんを突き動かしているように感じられます。

 

また、佐藤さんを見ていて、創造的な活動が人をどれだけ救ってくれるかということも感じました。

気仙魂の佐藤さん、気丈に振舞っていらっしゃいますが、映画を観る人がその奥の淋しさ、切なさ、悔しさを感じないはずがありません。

悲しみに遭遇してしまったとき、それを避け続けて癒されることはありません。人は、つらいことや悲しいことと向き合って初めて癒され、それを乗り越えていくことができます。

書くことで、佐藤さんは悲しみとこれ以上ないほどに向き合い、そして癒され、また、自分の書いた英語の文章や中国語の文章を音読し(とっても上手!)、発信することで、闘い続ける力を得ていらっしゃるように感じました。  

 

佐藤たね屋。植物のたねと一緒に、佐藤さんはご自身の生き方と書くものを通じて、被災地には復興のたねを、被災した方々には幸せのたねを、そして全てのひとに希望のたねを蒔いていらっしゃいます。

そのたねが、きっと芽吹いて、実りますように。

陸前高田に行ったことはないのですが、あまり遠くないうちに行きたいと思いました。佐藤さんにもお目にかかれたら嬉しいです。

 

 

あれから6年。

亡くなった方と行方不明の方々は合わせて18,446人。

今でも避難生活をされている方が12万人超。

亡くなられた方々のご冥福を、大切な方々を失った方々の心が癒されることを、避難生活をされている方々に1日も早く落ち着いた生活が戻ることを、心よりお祈り申し上げます。

 

          *         *         *

 

映画は、今のところポレポレ東中野では2017年3月24日まで。この映画館、ロビーや階段に作品や監督についての新聞・雑誌記事が丁寧に貼ってあってこれを読むのも楽しみの一つです。映画の前に、後に、こちらも目を通されてみてください。

他の地域の上映場所・スケジュールは、映画『息の跡』公式サイトに出ています。

 

The Seed of Hope in the Heart」はKindleならばAmazonでも購入できるようになっています。

本+種のセットは、上演時に映画館で販売があります。通常は陸前高田市物産館と佐藤さんのお店で販売しており、はなそう基金を通じて佐藤さんに問い合わせできるようです。はなそう基金のページには映画では語られない部分のインタビュー記事などもあって、より一層佐藤さんという方の人となりが伝わってきます。