ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

「できる人」が会社を滅ぼす

うなずきすぎて、首が痛いです。
付箋貼りすぎて、付箋の意味がありません。

中間管理職必読の書。

経営者・経営陣の方々も、会社に潜む危険に気づくためにおすすめします。間違ってもこのような人たちを後継者・後任とはなさいませんように。

「できる人」が会社を滅ぼす」(柴田昌治氏 著、2016年初版、PHP)

「できる人」が会社を滅ぼす

 

タイトルだけ見たときは、「自分の小さな「箱」から脱出する方法」と同じような、「できる人」が陥りがちな対人関係の問題についての本かなと思いましたが、違いました。もっと日々の業務の仕方に関連した話でした。

 

「できる人」は「仕事をさばく人」

この本で、「できる人」とは、「一見できる人、でも実はさばくのがうまいだけの人」(21頁)。本当の意味でのできる人とは区別する趣旨で、「 」でくくられています。

 

では「仕事をさばく」とは何かといえば、「上司や顧客から降ってくる大量の仕事に忙殺されるあまり、目の前の課題に対して、その課題がそもそも何のために、どういう意味を持つ課題なのかをさておいて、「どうやるか」「いかにやるか」だけを考えるようになってしまっている」(22頁)というような状態。

 

「できる人」の功罪

「できる人」は「さばく」処理能力が高く、業務のスピードもはやく、そのおかげで、その組織は増え続ける仕事もこなすことができています。これ自体大きな功績です。特に、あれもこれも思ったとおりにやってほしい上司にとってはありがたい存在です。

では、その人たちの何が問題かといえば、「そもそも、この仕事の意味や目的、価値は何か?」という根本を問い直さないまま、ただただスピードと効率を上げて、降ってくる仕事を処理し続けてしまっていることです。

その結果、何が起きるかといえば、もはや意味を失った仕事が「いつもどおり」に延々と繰り返されたり、上司に言われるままに資料を作ったものの無駄な骨折りだったり、プレゼンテーションの形式は整えたものの中身にはほとんど価値のない資料だったり。ヒト・モノ・時間などあらゆるエネルギーやリソースの膨大な無駄遣いが生じます。

無駄遣いも由々しき問題ですが、さらに気がかりなのは「問う力」「考える力」が衰えていること。問うことをしないと、人の考える力は大きく衰退します。その集合体である組織、社会も同じです。そんな社会ではイノベーションなど起きるはずもなく、日本の力が損なわれていくのではないかと心配です。

ばりばり仕事をしているつもりの間に、実は「考える力」が失われているおそれがある。「できる人」の場合、社内でも有能と見られている場合が多く、自分にもその自負があり、本人がその罪の意識がない分、余計に罪深いとも思えます。

 

いや、俺は、私は、違う、「できる人」じゃない、真のできる人だ、という方。念のため、こちらにご自身に少しでも当てはまるところがないか、チェックしてみてください。

「できる人」が陥りがちな5つのワナ(p.46-50)

  1. 仕事をさばく
  2. 上司の的を当てに行く
  3. 先入観ですぐに答えを出す
  4. 自部門のみのエキスパート
  5. 波風を立てないことをなにより最優先する

けっこう当てはまってしまったりして。

 

本当のできる人がしていること

本当のできる人がしているのは、「目的・意味・価値」を考えて仕事すること。

例えば上司から「これ、やっといて」と言われたとき、あるいは毎月毎年当たり前のようにやっている作業をこなしているときに、立ち止まってこう考えてみることです。

この仕事、何のためにやってるんだろうか。

この作業に何の意味があるんだろうか。

今やろうとしていることの付加価値って何だろうか。

と自分に問うて仕事することです。

そして、それに答えられない仕事は手放し、断り、本当に「目的・意味・価値」がある仕事に自分のエネルギーとリソースを注ぐことです。

 

実はこれ、けっこう面倒くさい場合も少なくありません。相手がある話だと勇気も要ります。

面倒がらずにそこを考え抜いて行動できる人、必要があるならば相手にもそれを問いかけて、本当に目的・意味・価値あるものを創っていける人こそが、本当のできる人です。

 

最近のリーダーシップ論では、複雑化する社会・世界に対応するリーダーに必要なものは何か、ということがよく論じられています。かつては、もう少し世の中が見通しやすかった。一度作った勝ちパターンは再現性もあった。

今は絶対に成功するビジネスモデルというものが存在せず、仮に一つ成功パターンができたとしてもそれが使える期間はとても短い。そういう現代においては、過去の成功体験の引き出ししかない人よりも、不確実な情報しかない中でも考えて判断していける、間違えた時にも考えて軌道修正できる所謂「考える力」のある人が重宝されていくと思います。

 

本書では、先述の「できる人」が陥るワナから脱出する方法を多数紹介しています。特に好きだったものを挙げてみます。

 

 モヤモヤする時は、安易に答えを出してスッキリしてはいけない(88頁)

上司の意見は「ワンノブゼム」に過ぎない(95頁)

(trottolina注:「One of them」。いくつもある意見の中のひとつ過ぎない。絶対ではない。)

自分は今、どこまでを「全体」と考えているか(57頁)

「考え抜く=時間をかけて仕事をする」にあらず(75頁)

 

本当の「働き方改革」は、真のできる人になること、真のできる人を育てること

プレミアムフライデー、残業時間制限、有給休暇取得目標日数の明確化、祝日を増やしたり・つなげたり、最近、日本でも労働時間を短縮し、もっと休むことへの意識が高まっています。

何か変革を起こす時に制度面を変えることは有効ですが、それだけでは足りません。

このまま意識変革が起こらずに残業だけを減らそうとすれば、実は家に仕事を持ち帰っていたり、早朝出社で実質何も変わっていなかったり、今までと同じボリュームの仕事を超高速回転でこなすということになりかねません。

あるいは、休んでばかりで全く仕事が進まないということにもなるかもしれません。

 

結局のところは、仕事の仕方を変えなければ、そのために仕事に対するマインドを変えなければ、本当の働き方改革は起きないのだと思うのです。

 

日本の生産性についてはよく話題になるところです。GDPは世界第4位(2016年)でも、OECD データに基づく日本の時間あたり労働生産性は 42.1 ド ル(4,439 円)で、OECD 加盟 35 カ国中 20 位。就業者 1 人当たりでみた労働生産性は 74,315 ドル(783 万円)、OECD 加盟 35 カ国中 22 位です。

参考:労働生産性の国際比較 2016年版  日本生産性本部 

  

考えることは、面倒ですし、かなりエネルギーを使います。遠回りをしているような気にもなります。

でも、その回り道を敢えてすることが、毎日をすり減らすような忙しさから解放させてくれるかもしれません。

 

更に言えば、「目的・意味・価値」のフィルターを通った仕事は、もはや退屈な作業ややっつけ仕事ではないはずです。

本当に価値ある仕事を、達成したい目的につながることを知って、自分がやることの意味を実感しながらできている。

そういうとき、働くって本当はとても尊くて楽しいことになっているのではないかと思います。そんな風に感じる人が一人でも増えていくことを願います。

 

なお、著者の柴田昌治さんは株式会社スコラ・コンサルタントの創業者で組織開発の世界で著名な方ですが、ドイツ語学院ハイデルベルクの創業者でもあることを、暫く前の日経新聞の記事で知りました。

語学だけではなく、日本とは違う生活スタイル、仕事についての考え方なども日本に伝えたいという思いもあったことを知り、勝手ながら柴田さんが社会に与えようとするインパクトの軸を改めて感じました。

私自身のドイツ滞在とドイツ人と直接接して感じてきた経験からすると、彼らは無駄なことは大嫌いです。スマートで効率的なことが大好き。問題も表面的にどうにかしようとするより、根元的なことや構造などから考える人たちだという印象があります。仕事の仕方にもこれらの文化が強く出ます。そして夏にはUrlaub(ウアラウプ)という名の1ヶ月近い長期休暇を取ります。鶏が先か卵がか先か。根っからの効率重視と考えることもできますし、この休みを確保しようとして無駄な仕事は一切排除していると見ることもできます。ちなみにこの国の上記の生産性は、それぞれ7位と12位。

 

「働き改革」というとき、「いかに休むか」を考えることとあわせて、「日々の仕事にどう向き合うか」ということも、スコープに入れていく必要があると感じます。

 

「できる人」が会社を滅ぼす

「できる人」が会社を滅ぼす

 

 

なぜ会社は変われないのか―危機突破の風土改革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

なぜ会社は変われないのか―危機突破の風土改革ドラマ (日経ビジネス人文庫)