ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

野心のすすめ

刊行されたときに読みたいと思ったものの、手に取る機会なく今に至り、最近ふとそのことを思い出して読みました。

野心のすすめ(林 真理子著、講談社現代新書、2013年発行)

 

野心のすすめ (講談社現代新書)

「野心が足りない」(第1章) 

「いま、「低め安定」の人々がいくらなんでも多すぎるのではないでしょうか。」(9頁)

 

という問題意識に正面から挑むエッセイです。いかにも賛否両論ありそうな本。

 

林真理子さんと言えば、デビュー作「ルンルンを買っておうちに帰ろう」がベストセラーになって、時代の寵児ともてはやされた人。直木賞も受章し多数の本を執筆されています。プライベートでは4年間の不妊治療ののちに44歳で出産されたというのは、この本を読んで初めて知りました。

 「有名になりたい!」という野心むき出しで、貪欲にいろんな願いを実現してきた人。「根っからのメジャー志向」(99頁)。欲しいもの、叶えたいものに一直線に向かう彼女について、不快に感じる人がいてもおかしくはないと思います。

そんな彼女だからこそ、投じることのできる一石。時々、ざわつくものも感じながら、面白く読みました。

 

上を目指せ

林さんのメッセージは一貫しています。「上を目指せ」「一流を目指せ」と。

 人は自覚的に「上」を目指していないと、「たまたま」とか「のんびり」では、より充足感のある人生を生きていくことはできないのです。
 なにも富士山を目指しましょう、とは申しません。谷川岳くらいでいいんです。そうして初めて、手頃なハイキングコースの人生を登っていけるようになる。最初から谷川岳も目指さず、高尾山ぐらいでいいやとぼんやり思っていたら、登山口の駐車場でずっとウロウロしている人生を送ることになります。
 自分の身の程を知ることも大切ですが、ちょっとでもいいから、身の程よりも上を目指してみる。そうして初めて選択肢が増え、人生が上に広がっていくんです。(6頁)

 

何をもって「充足感」というのかは、人それぞれにご意見があるところと思いますが、同時に、何か自分には無理と思っていたものを達成した時に得られる満足感や爽快感は誰もが一度は経験したことがあるのではないかと思います。

そういうときのことを思い出してこの文章を読むと、本当にそうだなぁと思います。何か目標を定めて向かっていると、目標通りのところに行かなかったとしても、振り返ってみるとけっこうな道が出来ていた、けっこうなところにきていた、ということがあります。 明確な目標があってこそ歩いてこれた道だと思います。

 

この本を読んで感じるのは、林さんは「努力の人」なんだなぁということ。

実際、目標を目指して進み続けるには、もれなく「努力」が必要です。

勉学でもスポーツでも芸術でも仕事でもボディメイクでも何でも。

そして、この努力は、当初の目標が達成されたか否かにかかわらず、確実に人生に何らかの痕跡を残すように感じます。もちろん、良い意味で。

というのも、最近とても面白い方々、つまり、自分のやりたいことをやって人生を楽しんでいる方々、そして人格的にもとてもオープンで寛容でユーモアを愛する方々と知り合う機会に恵まれているのですが、そういう方々にこれまでの人生を伺ってみると、実は、皆さん、ほぼ漏れなく、人生のどこかでものすごくがんばった経験がある。

世界でひとかどの人間になってやると決意した、面白くてのめり込んだ、悔しくてがんばった、このままじゃまずいと思った、意図していた訳ではないけど仕事でとんでもない状況に追い込まれた、この道を極めようと思った、など、理由やモチベーションは人それぞれですが、学生時代や社会人のどこかでとても頑張った経験が、少なくとも1度はある。人によっては何度もある。

素敵な方々が不思議とまとっている「余裕」はこういうところから来るのかしらと、先ほどの林さんの山登りの例を見て思います。

 

世の中は不平等

人を、一流、二流、三流とスパッと言ってのけるこの本で、もう一つすごい勇気だと思ったのは、世の中が不平等であることを正面から認めて、だから自分で考えて生き抜いていけ、と言い切っているところです。
 
容姿、出身、学歴、職業などを問わず人は平等であるべき。差別されるべきじゃない。それはその通り。だけど、現実の世の中ではそういう、模範的な体験ばっかりではないのもまた事実。
だからこの世の中はおかしいんだ!と叫ぶのも、ふてくされるのも、閉じこもるのも、まあ世の中ってこういうものよねと諦めるのも、もちろん選択肢としてあります。そうやっている方が実は簡単であったりもします。
 
そこに、林さんは直球を打ち込んできます。
愚痴を言っても何も変わらない、それよりも、そんな扱いを受けるのはなぜなのか、だったらどうやって生きていくのか、をじっくりと考えなさい、「現状がイヤだと思ったら、とことん自分と向き合」いなさい(20頁)、そして行動しなさい、と説きます。そこで自分を知り、世の中を知り、考え抜くことが、抜きん出た存在になる機会になると。
 
最近、こういう現実をズバリと言ってくれる大人は減ってきているような気がします。
それはある意味優しくて、ある意味残酷。
大事なのは、生きていくこと。
野生の動物たちがそれぞれの特徴を生かして、食べ物をとったり、住処をつくったり、天敵にやられないように工夫して生きていくように、私たち人間も、この社会を自分で生き抜く力を身につけることが必要であり、それこそが本来は大人になる過程で学ぶべきことなのではないかと思います。
 
 
さて、野心を実現するためには何が必要なのか。
私がこの本から学んだのはこの3点。

野心の実現に必要なもの(1):努力

努力が必要なことは先ほど書きました。

更に林さんは、努力は強運を呼び寄せると言います。ここは私も肝に銘じたいので引用してしまいます。

  運と努力の関係とは面白いものです。自分でちゃんと努力をして、野心と努力が上手く回ってくると、運という大きな輪がガラガラと回り始めるのです。一度、野心と努力のコツをつかむと、生き方も人生もガラっと変わってくる。

 とはいえ、運とは、本人の気持ちや努力次第という単純なものだとは私は思っていません。これは本当に不思議なんですが、もっと大きなところ、人間の力が及ばないところにある力が働いているんだなと考えています。

 もう少し詳しく説明しましょう。

 人生には、ここが頑張り時だという時があります。そんな時、私は「あっ、いま自分は神様に試されているな」と思う。たとえば、仕事や勉強を必死でやらなければならない時なのに、つい気が緩み、ソファに寝そべってお菓子を食べながらテレビを見ているとします。しばらくするとハッとして、「いかんいかん。この姿も神様に見られているんだから、頑張らなきゃ」と再び机に向かうんです。

  ちゃんと努力し続けていたか、いいかげんにやっていたか。それを神様はちゃんと見ていて、「よし。合格」となったら、その人間を不思議な力で後押ししてくれる。(63-64頁)

 

そして、「ここぞ」というときにはとりわけ努力が大事。

 運というのは一度回りだしてくると、まるで、わらしべ長者のように、次はこれ、その次はこの人、と、より大きな幸運を呼ぶ出会いを用意してくれるのです。

 しかし、ここで忘れてはなりません。空の上から自分を見ている強運の神様の存在を。強運の合格点を貰うには、ここぞというときに、ちゃんと努力を重ねていなければならないことを。

 その「ここぞという機会」を自分で作り出すのが、野心です。私が強運だと言われているのも、次々といろいろなことに挑戦し続けてきたからだと思います。 (67頁)

 
強運を掴んだ方は皆さん、この運という輪がガラガラ回り始める体験をしていらっしゃるように感じます。シンクロニシティの本を思い出します。

 

野心の実現に必要なもの(2):妄想力

林さんの妄想力のたくましさには驚かされます。

就職活動で40社から不採用通知をもらっても、貧乏どん底生活の時代であっても、林さんの思考は、ああ私ってやっぱりこの程度の人間なのね、ではなく、どうしてかなぁ?こんなはずじゃないんだけど?と。

林さんの妄想は、かなり大きな妄想にもかかわらず、とても具体的。「こうなったらいいな」ではなく、はなから自分は一流の人間に囲まれて仕事する人間だと思っていらっしゃる。自分は野心として描いたことを実現していく人間だと思っていらっしゃる。

NLP(Neuro Linguistic Programming(神経言語プログラミング))を学んでいる友人に最近教えてもらったのですが、「○○が欲しい」と切望しているときには、無意識下では「自分は○○が欠けている」という風に考えているのだそうです。その状態では、それは手に入らない。

そうではなく「○○を(実際にはまだ入手していなくても)既に持っている」という風に無意識が認識し始めるとそれが本当に手に入るのだそうです。

林さんの妄想はまさにこれだと思いました。

 

野心の実現に必要なもの(3):自分をさらけ出す勇気

野心を持つことは実は勇気がいることです。
だって、叶わなかったときはショックに直面しますから。
何も目指さないでいることの方がはるかに楽です。
 
なおかつそれを人に宣言するのは、一般的には、とてつもなく勇気のいることです。
だって、叶わなかったときは、それが皆にも明らかになってしまいますから。
やっぱり大した奴じゃないと思われてしまう、みっともない、などいろいろな声が頭の中で騒ぎ出します。(この声をコーアクティブ・コーチングではサボタージュといいます。)
 
だから野心は隠していた方が無難です。
 
しかし、それではおそらく野心は実現しない。
「夢を叶えるには人に話すことが大事」とはよく言われることです。
これは本当にそうだと思います。話すことで生まれることが沢山あります。
 
でも、わかっちゃいるけど動き出せない。そこにも、林さんは火をつけてくださいます。。。 
現在も思うことなんですが、東京の人って、自分がいまひとつ大成できないのは、表に出ることが嫌いだからとか、恥ずかしいから目立ちたくないというようなことをよく言いますよね。でも、そんな言い訳をしているだけで何者にもなれないのは、才能と努力が足りないだけではないでしょうか。(100頁)
 
 
 
「野心」というとネガティブに響くこともあるかもしれません。
林さんが提唱している野心は「「もっと価値ある人間になりたい」と願う、とても健全で全うな心のこと」(5頁)です。
 
そういう意味での野心を持ち、そこに向かって突き進むプロセスは、確実に自分を成長させてくれます。
 
うまくいったら、おめでとうございます。
それは本当に素晴らしいこと。幸運なこと。
 
うまくいかなくても、野心を持った自分を責めたり、嘲笑ったり、達成できなかった自分をダメな人間だなどという烙印を押さないでください。
 
むしろ、がんばった自分を祝福しましょう。勇気を持って野心を持ち、ここまでやってきた自分をHugしてあげましょう。
 
歩いてきた道のりを振り返ってみてください。それは野心を持たずにはきっと歩むことのなかった道です。今見ているのは、この道を来なければ、きっと出会えなかった景色です。
 
その景色を存分に味わって、少し休んで、そこまで来たからこそ現れた道にまた足を踏み出しましょう。
 
だって、
 
人の一生は短いのです。挑戦し続ける人生の第一歩を踏み出してくださる方が、一人でも増えることを祈ります。
 
 さあ、山に登ろう!”

 

 

追伸:野心をもったら、じゃあどうやって進めばいいの?というときは、ビガーゲームがきっと道しるべになると思います。

  

野心のすすめ (講談社現代新書)

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下流の宴 (文春文庫)

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シンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップ

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