ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

Bigger Game(ビガーゲーム)

もう夏も終わりの気配です。今年の夏は、オリンピックにパラリンピックに沢山の感動をもらいました。

先日、オリンピックに触発されて、コーチング・バイブル(再掲)についての記事を書きましたが、もう1冊紹介したくなりました。The Bigger Game: Why Playing a Bigger Game Designs Who You Want to Become(Laura Whitworth氏、Rick Tamlyn氏、Caroline MacNeill Hall氏 共著)。

日本語でいうと「ビガーゲームをプレイすることがなりたい自分をデザインする」というようなタイトルです。著者のLaura Whitworthは本質的な変化を呼び起こすコーチングのコーチ養成機関として世界的に定評のあるCTI(Coaches Training Institute)の創始者、他のふたりもCTIの著名なトレーナーです。

残念ながら翻訳は存在しないのですが、読みやすい文章なので、英語にも関心がある方はこれを題材に英語を勉強するという読み方も出来ると思います。私も、英語になると読むのに時間がかかってしまって、かつ、最初の数章で十分満足してしまって、実はまだ通読できていませんが、私が読み終わるのを待つのももったいないほど良い本だと思うので、先に紹介してしまいます。もしかしたら後で多少書き直したりするかもしれません。

The Bigger Game: Why Playing a Bigger Game Designs Who You Want to Become

 

Bigger Gameは著者らによる造語です。ここでGameとは私たちが人生でやること全て。勉強することも、働くことも、絵を描くことも、恋をすることも、結婚することも。会社を辞めることも、誰かと別れることも。今日の夜ごはんに何を食べるかのひとつをとったってGameと言えると思います。

そして本書を通じて根底にある考え方が、「今どんなゲームをプレイするのかが、その先の私たちの姿を決めていく」ということ。それぞれのゲームをどのようにプレイするかが私たちを成長もさせるし、弱らせもします。

 

ではBigger Gameとは何でしょうか。

文字どおり訳せば「より大きなゲーム」ですが、それには、ゲーム自体のスケールがより大きいという意味に加えて、自分自身をより大きく成長させてくれるゲームという意味合いが込められています。例えばこんなものです。

  • これまでやったこともないような挑戦を伴うもの。
  • 今までよりも大きな覚悟のいるもの。
  • 自分の渇望と、自分の存在するコミュニティ・組織・社会の求めることの交わるところにあるもの。そしてやらずにはいられないもの。
  • 自分の今のキャパシティを超えているように思われるもの。
  • いつもより大胆な行動が求められるもの。
  • 自分自身に加えて自分自身以外の何かにも貢献するもの。
  • 一人ではできないもの。
  • 皆のためになるもの、皆が喜ぶようなもの。
  • "business as usual"(いつもどおりのこと)の対極にあるもの。

ここで大事なのは、自分のBiggerは自分の物差しで決めること。「誰かのゲームと比較してより大きいゲーム」ではなく、「自分にとって、より大きいゲーム」です。

 

このモデルの根底には、人は誰しももともとBigger Game Playerだと信じている人間観があります。

本当は、誰もが成長することを望んでいる。本当は、誰もが誰かの役に立ちたい、誰か/何かのために自分をもっと使いたい、と願っている。

ただそのことにまだ自覚的でない人たちが沢山存在するのも事実です。本人が改めて、Bigger Game Playerになるぞと決意することで、人生の中で何をやりたいと思っているのか、自分にとって譲れないほど大事なものは何なのか、ということをより意識するようになります。不思議なことですが、それだけでも、人生はよりそちらの方向に開けていきます。

 

なんだかよくわからないけどBigger Game Playerになるぞと、改めて覚悟したら、Bigger Game Boardの上に乗りましょう。

このボードは、自分が今やろうとしていることがBigger Gameの要件を満たしているのかを知ったり、またBigger Gameをしている最中に自分が今いる場所を確認したり、次にとるべき行動を考えるのに驚くほど役立ちます。私なりの解釈で書いてみます。

 

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どのマスからはじめてもよいと思いますが、まずはやっぱりここでしょうか。

▪️Hunger(渇望、熱望)

自分にとってのBigger Gameの源泉となるようなところです。自分の原動力になるような質感。あなたが本当にやりたいことはなんでしょうか。訳もなく無性に惹かれるものは何でしょう。

自分自身のHungerを伴わないGameはBigger Gameではありません。自己中心的なようにも思えるところですが、それを悪いことやつまらないことと思って思考を止めないでください。どれだけ社会的に意味のあることだって、自分がワクワクするようなことでなければ続きません。自分の興味や思い、願いがそこにあるのか、というのはとても重要なことです。誰かの人生ではなく、自分の人生を生きていくために。

そして、これを一度経験した人は皆知っていることだと思うのですが、自分が毎日を自分らしく生きていると、自然と、他人に寛容になります。逆に満たされない何かがあると、他人や社会に対する不満が増幅していきます。他人に優しくなりたいなら、まず自分を幸せにすることが一番の近道。その意味でも自分のニーズを大切にすることは、身勝手どころか、むしろ社会、世界の平和に繋がると思います。

 

▪️Compelling Purpose(ゆずれない目的、自分を動かさずにはおけない目的)

Compellingという言葉は、この本で初めて知りました。なかなか訳が難しいです。compelという動詞は、強制する・強いる、という意味なので、compelling orderであれば、逆らうことなどできない命令というふうにネガティブな意味になりますが、complelling storyなどとなれば、(従わざるを得ないほどに)人の心を掴んで引き付けずにおかないストーリー、compelling urgeとなれば、どうしようもない衝動、というような意味になります。ちなみに、この本の著者の一人は私が尊敬してやまない恩師なのですが、彼女からもらった"You are compelling."という言葉は、私が人生の中でもらった中で最上級の褒め言葉だと思って心に刻んでいます。(本人はたぶんもう忘れてると思いますが。。。)

で、本題に戻って、Compelling Purposeは自分が突き動かされずにはいられないような目的、というような意味だと理解しています。少し堅苦しくいうと使命感? 世界平和などの大きいことでももちろんいいのですが、そんな大きくなくてもよいのです。今、この場で、自分がこう在ることが求められている、そんな場面は、実は(普段は見ないふりをしているだけで)日常茶飯事的にあると思います。

 

▪️Comfort Zones(いつもの領域、コンフォートゾーン)

Comfortは快適さ。いつも居る場所、いつもやっているやり方は、とっても安全で居心地がいい。当然です。コンフォートゾーンにいること自体何の問題もありません。ただそれを当然と思わずに、一度立ち止まって、自分の今いるところ、いつものやり方を振り返ってみましょう。

私たちにはコンフォートゾーンに居続けるという選択肢も、そこから一歩踏み出すという選択肢もあります。ここにいるメリットは何だろう。ここに居続けることで失っていることがあるとしたら何だろう。コンフォートゾーンから出ることはきっと居心地が悪く勇気がいるものです。その代わりに得ることができるものがあるとしたら何でしょうか。

 

▪️Gulp(ためらい、ゴクリと唾を飲み込む感じ、はっとする感じ)

これも訳しにくい言葉ですが、何か、いつもの自分ではないような行動をとるようなときに、ゴクリと唾を飲み込むような感じだと理解しています。あまり心地の良い感覚ではないはずですが、これが出てくるということは新しい自分への成長の一歩を踏み出そうとしていることの証であり、まさにBigger Gameをプレイしていることの証です。

コンフォートゾーンから踏み出そうとするとき、大胆な行動を取ろうとするとき、きっとこの感覚になると思います。逆にこの感覚が訪れないということはまだまだ今までの領域にいるのか、あるいは自分のコンフォートゾーン自体が広がったのかもしれません。

 

▪️Allies(盟友)

私たちがBigger Gameをすることを助けてくれるものです。人でもモノでも。応援してくれる人だったり、あるいは辛口コメントをしてくれる人だったり。癒してくれるネコだったり。奮い立たせてくれる思い出の写真だったり。Bigger Gameを進めようとするとき、くじけたとき、盟友の力はとても大きいものです。

 

▪️Investment(投資)

お金、時間、エネルギー。モノに対する投資、自分自身に対する投資。Gameをするには私たちは様々なものを投資します。またどれかのGameに投資するためには、他のGameに投資するのをやめるかもしれません。Bigger Gameを進めるために、何に何をどれくらい投資しますか。

 

▪️Sustainability(サステイナビリティ、持続可能性)

Bigger Gameは人生を通して続いていくものです。Bigger Gameを継続していくためには、どんな工夫が必要でしょうか。

 

▪️Assess(検証)

今、自分のBigger Gameはどんな状況かな、と振り返る時間も大切。気づきや次へのヒントが見つかると思います。ここに立って全てのマスについても検証することができます。自分はこのGameにワクワクしているんだろうか。今の投資は適切だろうか。などなど。

 

▪️Bold Action(大胆な行動)

そして結局は行動。しかも大胆に!私としてはボードの中で一番好きなマスです。行動しないと始まらない。やってみなけりゃわからない。ボードのど真ん中にあるこのマスと、周囲のマスを同時に踏んで立ってみると、「もう、つべこべ言わずやってみろ!」と背中を押されて、「えいっ」と飛び込んでしまいたくなるから不思議です。うまくいったら大いに喜んで、うまくいかなかったら検証のマスに立って振り返ってみましょう。

 

ボードの上の動き方に道順やルールはありません。自分が今乗ってみたいところの上に乗って、そこから自由に動きます。行ったり来たりもOK。片足ずつ同時に乗ってみるのもOK。体や心の動くままに任せてみましょう。

 

私はこのGameという言葉がとても好きです。「自分は何のために生まれてきたのか」とか「今これをやることに何の意味があるのか」などと難しく考えると人生は必要以上にややこしくなったり、身動きが取れなくなったりするときがあります。Gameという言葉は、こういう難しくなりそうな局面を気軽に楽しくやってみよう!という気にさせてくれる言葉だなと思います。

また、別に大層なことでなくてもいい、という発想も好きです。身近なところにBigger Gameは実は沢山あります。例えばこんなこと。勇気を伴うのであれば、もう立派なBigger Gameです。

  • ありがとう、と言うこと。
  • ごめんなさい、と言うこと。
  • 愛を伝えること。
  • いつもよりちょっと派手なワンピースを着てみること/いつもと違う色のネクタイをしてみること。
  • 電車で席を譲ること。

こんなBigger Gameが日常に至るところで見られたら、ご機嫌な社会になるんじゃないかと想像します。

是非、どんな小さなことでも今日からBigger Gameを始めてみて頂けたらと思います。

 

概念は本を読むことでも理解できますが、Bigger Gameの醍醐味は、やっぱり行動すること。そのためのアイディアやエネルギーや勇気を得るには、このワークを誰かと一緒にやることがお勧めです。

日本でも不定期にプロのトレーナーによるワークショップが開催されています。私自身今年2月に参加しましたが、非常によくデザインされた2日間を通じて、自分の目指したいところがより明確になりました。また、自分の苦手なことや、それを避けてきたことによってどれだけ機会を失っているかも思い知りました。他のBigger Game Playerとも知り合って、たくさんの知恵や、刺激、勇気や励ましをもらう機会にもなりました。

気になった方、まずは、このワークショップに行ってみるというBigger Gameから始めてみてください。

 

近々開催予定は以下のとおりです。 (ここは随時更新しています)

 

2021年6月27日〆切!

Bigger Game ワークショップ ~不確実な時代を自分に素直に生きる9つのエレメント~ | Peatix

開催日程:2021年7月10・11・17・18日の土日4日間、9:00-13:00@オンライン

peatix.com

 

 

ご参加者の声はこちらにてご確認頂けます。

www.biggergame-japan.com

 

 

さて、このBigger Game。

始めてみるとわかるのですが、何か「大胆な行動」をしてみて、できるようになってしまったことは、もうその瞬間からBigger Gameではなくなります。なので、一休みしてエネルギーチャージしたらまた次のBigger Gameの旅に出かけましょう。この刺激に満ちた旅の積み重ねの先には、きっとそれまでは想像もしたこともない人生の景色があると思います。

 

皆がBigger Gameをしている世界になりますように。もちろん私もその一人でありたいと思います。

 

 

なお、私が読んだこちらの本そのものは今は絶版になっており、

The Bigger Game: Why Playing a Bigger Game Designs Who You Want to Become

The Bigger Game: Why Playing a Bigger Game Designs Who You Want to Become

  • 作者: Laura Whitworth,Rick Tamlyn,Caroline Macneill Hall
  • 出版社/メーカー: Outskirts Pr
  • 発売日: 2009/04/30
  • メディア: ペーパーバック
  • この商品を含むブログを見る
 

 かわりに、こちらの新しい本が出ています。

Play Your Bigger Game: 9 Minutes to Learn, a Lifetime to Live

Play Your Bigger Game: 9 Minutes to Learn, a Lifetime to Live

 

そして、なんと、私がわざわざ中古で手にいれた上記の絶版本が、今はBigger Gameの米国のサイトで無料でダウンロードできてしまいます。美しい英語だと思うので、英語の練習にもどうぞ。

無料ダウンロード(メールアドレスの登録は必要です):

The Bigger Game – Learn the Bigger Game