ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

スリー・カップス・オブ・ティー

今となってはcontroversialな本のようですが、昨今の世相をみて取り上げてみたくなりました。スリー・カップス・オブ・ティー (Sanctuary books)

 スリー・カップス・オブ・ティー (Sanctuary books)

グレッグ・モーテンソンというほとんどお金のないアメリカのアマチュアの登山家が、K2の麓のパキスタンの小さな村に学校を建てるというお話。資金集め、資材調達、資材運び、その村と周囲の村の人たちからの理解を得ることなど、数々の苦労を乗り越えて学校を建て、特に(それまでは学校に通うことが地域社会的に認められていなかった)女子に対して教育の機会を与えていきます。最初に手掛けたコルフェ村の後、周辺の村々に学校を建て、更には活動の場はアフガニスタンに移っていきます。

インドとパキスタンの紛争地域という危険なエリアかつ伝統を固く守る村々において学校を新設していく姿や、9.11後のアフガニスタンで「爆弾」ではなく「教育」で平和をもたらそうとする活動は、当時のアメリカでは大きく取り上げられ、グレッグは人道主義者として一躍ヒーローのように注目を集めたようです。それによりグレッグ及びグレッグが会長を務めるCAI(Central Asia Institute)には巨額の寄付金が集まりました。

 

冒頭Controversialと言ったのは、後に、この物語には真実でないことが沢山含まれていたことや、集まった寄付金の使い方が不透明であることが発覚し、グレッグの社会的信頼が地に落ちたためです。本書及び続編における嘘を暴いた「Three Cups of Deceit: How Greg Mortenson, Humanitarian Hero, Lost His Way」(Deceit=詐欺)という電子書籍も出ています。バッシング、寄付金の激減、共著者であるジャーナリストの自殺(グレッグは表現が得意ではないことを考えると誇張の多くは彼によるところが多かった模様)、訴訟(その後棄却)などが起こったようです。特に本当にパキスタンの山を知る登山家の方々や寄付をした方々の怒りはきっと大きかったものと思います。

 

確かに、読んでいると、そんなに沢山学校建てられるの?そのお金はどこから出てくるの?そんな危険な経験を本当にしたの?と、素朴な疑問が湧いてくるような内容ではあります。

ただ、彼が少なくともいくつかの学校を建てたのは事実なようですし、それが村人から歓迎されている様子は本の中の写真からも伝わります(これらの写真すらも嘘でなければ)。一旦英雄として持ち上げた後に、汚点が見つかった途端に激しいバッシングに転じるのは日本もアメリカも変わらないようですが、それによって、著者の成したことの全てがなかったかのように扱われてしまったり、著者の伝えたかった願いまでもが否定されてしまうのは、少々極端なようにも感じます。

 

フィクションとして読むことでも、この本の前半部分からは、信念を持って何かを成し遂げようとするときに必要なものを感じるのではないかと思います。例えば、簡単には諦めないこと、仲間を見つけること、回り道も厭わないこと、できると信じること、など。

また後半では、話は平和問題にシフトしていく感じがします。過激派が育つ背景なども垣間見ますし、9.11という悲劇を受けて軍事による報復措置に出るアメリカに対して、「爆弾ではなく教育こそが平和をつくる」という彼の主張には共感できる部分があります。この本で書かれているのは、アフガニスタンとイラクへの攻撃ですが、最近の世界情勢も重なり、憎しみに憎しみで応える負のスパイラルから平和は生まれないということを誰もが知りながら、人間はどうすることもできないんだろうか、と何ともやりきれない気持ちになります。

 

伝えたいメッセージには共感できるだけに、真実だけを書いていれば、、、とも思う本でした。事実とは異なる物語と承知した上で読む分には面白い内容です。

 

なお、暫く休止していたグレッグは最近、活動を再開したようです。

Washington Post記事(2014年10月12日)

http://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/mortenson-returns-to-afghanistan-trying-to-move-past-his-three-cups-of-tea-disgrace/2014/10/12/9774ae90-402f-11e4-b03f-de718edeb92f_story.html

 

スリー・カップス・オブ・ティー (Sanctuary books)

スリー・カップス・オブ・ティー (Sanctuary books)

  • 作者: グレッグ・モーテンソン,デイヴィッド・オリバー・レーリン,藤村奈緒美
  • 出版社/メーカー: サンクチュアリパプリッシング
  • 発売日: 2010/03/25
  • メディア: ペーパーバック
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Three Cups of Deceit: How Greg Mortenson, Humanitarian Hero, Lost His Way (Kindle Single) (English Edition)

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