ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

辰巳芳子の展開料理(基礎編)

心の向くまま、気の向くままに読みますので、料理本にも出会います。「辰巳芳子の展開料理 基礎編

辰巳芳子の展開料理 基礎編

 

この読書ブログで紹介したくなるのは、これがただの料理本には思えないからです。

表紙をめくった最初のページで目に飛び込んでくるのは、「人間の尊厳を形成するための展開料理」という前書きのタイトル。そして「人は何故食さねばならぬか。それは呼吸と等しく、いのちの仕組みに組み込まれた厳然たる在り方である。」と続いていきます。

本書の著書・料理研究家の辰巳芳子さんと言えば、「命のスープ」でご存知の方も多いと思います。私は最初にテレビの特集で辰巳さんを知ったのですが、鎌倉のご自宅で生ハムをはじめとした食材をつくってしまう「風しごと」や、一食一食を、食材を育てた方やこの食文化を私たちに与えた祖先に感謝しながらつくり・召し上がっている様子、とにかく毎日を丁寧に暮らしていらっしゃる様子から、慌ただしい生活の中で忘れてしまっていたことを気づかせて頂きました。

本書は、ソース(トマトソース、ベシャメルソース、サルサ・ボロネーゼ)、出汁・合わせ調味料、ドレッシング、豆、米の基本とそれぞれの展開料理を指南する本なのですが、その端々に、辰巳さんのこういった食に関する哲学や生き方についての想いが織り込まれています。例えばこんなふうに。

食すということは、命への敬畏。他者のために食べものを用意することは、いのちへの祝福。

人間の尊厳とは、他者から奉られるものではなく、自己尊厳し、形成・完成されるもの。

私が好きなのはベシャメル・ソース(ホワイトソース)の項です。小麦粉70g、バター50g、牛乳2カップ。それだけの材料から、書かれているとおりに練っていくと、次々とこの食材たちの表情や手応えが変わる、それが何とも面白いのです。最後には羽二重餅のような感覚になったときの嬉しいこと。無心になるのも気持ちのよい感覚です。できたベシャメル・ソースはグラタンになったり、コロッケになったり、延ばし方次第で自遊自在。まさに「展開料理」と呼ぶにふさわしいソースです。

 

愛に溢れる辰巳さん、厳しい言葉も沢山くださいます。

自分は「知っている」「時が来たらやってみせる」と、暮らしをなめている方が多い。 しかし、手足に属することは、単なる知識に属することとは異なる。

暮らしの集積が「生活」。二人で一つ屋根の下に一緒に「居る」だけでは生活にはつながりません。暮らしがなければ生活は築けない。

身近なことを、為すべきように為す。果たすべきように果たす。ベシャメルをつくるようなことからの出発です。

身内に言われたらつい反抗したくなってしまうような言葉も、辰巳さんのような方から言われると、「おっしゃるとおり」と身が引き締まるから不思議です。

正直に申し上げれば、このような暮らしを毎日することは私には難しいです。ダシはパックでとってしまいます。いろんなことを適当にすませてしまいます。でも、どんなに簡単なものでもいいから、手抜きでもいいから、下手でもいいから、レトルトよりは自分でつくろう、というようなマインドになります。

「短時間で作れる」「料理が楽になる」ーー現代は、そういう言葉を売り文句にする家電製品やいろいろな食品が世の中に溢れています。料理は短時間でちゃっちゃとつくれる方が良いとされがちな世の中にあって、じっくり丁寧につくることもあっていい、というかそれこそが基本、そんなことを思わせてくれる本でした。丁寧に作られていく様子を文字と写真で追いかけるだけでも、何だか幸せになります。今日はソースを作る日、出汁をとる日、そんな日も時々は持ってみたいと思います。 

 

今日の暮らしが生活をつくっていく。どんな風に暮らしていきますか。

 

辰巳芳子の展開料理 基礎編

辰巳芳子の展開料理 基礎編

 

 

辰巳芳子の展開料理―応用編

辰巳芳子の展開料理―応用編

 

 

あなたのために―いのちを支えるスープ

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