ここみち読書録

プロコーチ・けいこの、心の向くまま・導かれるまま出会った本の読書録。

「仕事に効く教養としての「世界史」」

ブログ2冊目:仕事に効く 教養としての「世界史」

仕事に効く 教養としての「世界史」

 

先日、丸善で沢山平積みされていて、つい買ってしまいました。

ライフネット生命保険会長兼CEO出口治明さんの著書です。

出口さんの本を読むのはこれが初めて。Amazonでは低い評点もあるようなのですが、とても面白く読みました。

 

内容は、世界史を順を追って説明していくのではなく、10のテーマについて著者の視点で述べたものです。

歴史に詳しい人ならご存知の史実について新しい視点を得られるでしょうし、私のように歴史は学校で習っただけというような読者にとっては、聞きかじり・名前は聞いたことがある・なんとなく知っている、というような中途半端な知識の背景を知ったり、もっと歴史を学んでみようという気になるのではないかと思います。

 

興味深いのは、歴史を国ごとではなく、世界全体でとらえている点。

また、歴史というと、政治的な流れを追っていくような印象を持っていたのですが、むしろ、気候変動、地理的な条件・位置関係、病原菌の伝染などにより、その時々の各地域の人口や繁栄・衰退が決定づけられていったことが見えてきます。

島国である日本は、ユーラシアを大寒波が襲ったからといって陸伝いに遊牧民が攻めてくるわけでもなく、病原菌が他国から侵入してくるでもなく、この辺りの感覚は大陸の人たちの肌感覚的よりは鈍いんでないかなと思います。

 

また、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないですが、世界のある地域でこのような動きがあったから、ずいぶん離れたこの地域でこんな人々が育ってきた、こんな国ができてきた、などというように、はるか昔から世界は繋がっているということも改めて感じます。

グローバリゼーションは何も最近の話ではなく、はるか昔からあった。もちろん変化のスピードは違いますが、人類は常にいろいろな変化に直面してきたのだということを考えさせられます。

 

変化に直面して人々は生き残るために様々な手段を尽くしてきたのだとも感じます。

例えばユーラシアの飢餓は新大陸からジャガイモやトウモロコシを持ってきて凌いでいる(そのジャガイモは今や欧州の主要食糧)。

あるいはその土地を捨てて逃れた結果、新しい土地に住みついて新しい国を形成したりする(ヴァイキングは、フランスのノルマンディーや南イタリアに移り住んで子孫を残したり、キエフ公国をつくって今のロシアの元を形成)。

国を守るために他国から軍人を買ってきたり、他国と姻戚関係に入ってみたり。

既に長い歴史の中で、人や生態系、文化などいろいろなものが混ざり合っている。

同じ状態がずっと続くことの方が珍しく、多様性や変化への適応が求められるのは自然なことなのだと感じます。

 

そしてその根底にあるのは、今も変わらない人間の普遍的な心理や行動だと感じます。

「ああ、こういう状態になったらそうしたくもなるよね」というような誰かの決断や行動が世界の流れを動かして行く。転換点になっていく。

学校では○年から□□時代などと覚えたりしますが、現実には、ある年月日を境にして世界がクルッと変わる、ということはないのだと思います。

兆しはその前後に現れている。

また英雄的な人、象徴的な人の名前が歴史に刻まれますが、それは彼/彼女が一人で一念発起したというより、何か動きが起きている中でその中でも突出して(良くも悪くも)優れた人が時代の求めに応じて前に出てきた、ということではないかなと思います。

そう考えると、今の私たちも今の時代をつくっている大河の中の一滴である。そんな風に思えてきて、では今をどう生きよう、と考えてみたりもします。

 

さて、本書を無理やりリーダーシップ論に繋げてみると、一つの事実を聞いて鵜呑みにしない、そのかなり遠い背景まで考えてみる、違う視点から見てみると言うことは、リーダーにとって重要なことではないかと思います。

「真実」は必ずしも一つではない。白黒はっきりできることばかりではない。

そういう視点がこの本から得られるのではないでしょうか。

また、先人たちの選択からは、先がどうなるかなんて誰もわからないけれどもその中でも決断していく必要性や、時代の波を読んでそれに乗ることの重要性、変化へのしなやかな対応を学ぶことになると思います。

 

本書で知ったことは沢山ありますが、「なるほど」「へー」と思ったところは例えばこんなこと:

・アヘン戦争(1840年)以前は、世界のGDP、文化度は圧倒的に東方が上。第一回十字軍(1096年~1099年)が成功したのは、東方(セルジューク朝)がたまたま内紛状態にあって弱っていたから。後の十字軍が敗退していくのは当時の経済力・文化力からすれば当然のこと。西洋の大航海時代よりも前の15世紀前半に、バスコ・ダ・ガマやコロンブスの船の10倍以上の規模の鄭和艦隊(中国(明))が海の覇者。明が北方から侵入する遊牧民対策で内陸に資源を投資せざるを得ない(海から引き揚げて万里の長城を建設)間に西洋の船がインド洋航路を確立。アヘン戦争により中国が決定的に没落し、西洋が勃興する。以後、世界の歴史は西洋史観中心になっていき、私たちが受けた教育はその流れを受けている可能性。なお、英国は、中国に密輸したアヘンはインドにつくらせていた。中国からは茶の苗木を盗み、インドで紅茶を栽培させ、以後インドが紅茶の一大産地に。

・人類の歴史上、本格的に鉄砲が登場する16世紀頃まで、地上最強の軍事力は遊牧民の騎馬軍団。遊牧民といえば、モンゴルとトゥルクマン(テュルク系遊牧民)。今のトルクメニスタン人やトルコ人の祖先であるトゥルクマンの強さは史上最強。なお、宦官は遊牧民(モンゴル)の伝統。家畜のコントロール(数の調整、弱い雄の子孫の排除)に去勢という方法を取る。宦官という発想自体が遊牧民でなければ生まれない。

・ペリーが日本に開国を迫ったのは、中国との貿易のため(捕鯨船のための燃料・水供給ではない)。中国貿易のライバルである英国と同じインド洋ルートを使っていては、大西洋を渡る分英国に比べて距離が長くなって不利。競争力をつけるため(=距離を短くするため)太平洋ルートを開く必要。そのためには中継点(日本)が必要。

・太平洋戦争後、蒋介石が中国本土から追い出されなければ、日本と米国の蜜月(ひいては日本の高度経済成長)はなかったかもしれない。

・アメリカについての見方(世界的には特異な人工国家)はとても納得。それがフランスに影響を与えた経緯は面白い。

 

他にもいろんな本を読んでみたい、この地域行ってみたい、と刺激を受ける一冊でした。

 

この記事はこんな人が書いています。

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仕事に効く 教養としての「世界史」

仕事に効く 教養としての「世界史」

 

 

読みたくなる本(この本の中で紹介されている本):

出口さんの言葉を借りれば「人間は性懲りもなく阿呆なことばかりやっている。いつも同じ失敗を繰り返している。だから、自分が世界中を回って見聞きしたことを、ここに書き留めておくから、これを読んで君たちは、阿呆なことを繰り返さないように、ちゃんと勉強しなさいよ」という思いからの本。

ヘロドトス 歴史 上 (岩波文庫)

ヘロドトス 歴史 上 (岩波文庫)

 

 

16世紀、日本に鉄砲が伝来した頃の話。倭寇とは何者だったのか、イエズス会とは何か、日本に鉄砲はどのように伝来したのか、等。

クアトロ・ラガッツィ (上) 天正少年使節と世界帝国  (集英社文庫)

クアトロ・ラガッツィ (上) 天正少年使節と世界帝国 (集英社文庫)

 

 

幕末、日本が為替損で貧しくなっていく話

大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)

大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)

 

 

 ゾロアスターが提唱した、神による最後の審判の概念

ツァラトゥストラは こう言った 上 (岩波文庫)

ツァラトゥストラは こう言った 上 (岩波文庫)

 

 

アヘン戦争(1840年)後、中国からお茶の苗木が盗み出され、インドに渡ってしまう話(以後、インドが紅茶の産地として有名になる。著者によれば中国弱体化の象徴)

紅茶スパイ―英国人プラントハンター中国をゆく

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